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処刑回避のため家出した令嬢は、男装騎士として運命をやり直す  作者: 松平 ちこ


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第31話 陛下の怒りの向かう先

 規則正しい寝息が聞こえ始め、ライラックは静かに起き上がる。


「はぁ」


 くしゃりと淡紫の髪をかき、金の瞳がリンの横顔を映す。

 そのままリンの首の付け根、やや後ろ側にある、花の紋様を見た。

 彼女が冷えないように、首元まで布団を深く掛けなおしてやる。


 ライラックのはだけたシャツから僅かに覗く左胸にも、同じ花の紋様があった。


 ――異性として認識させれば、過去に引きずられるか。


 大きく見開いたルビーの瞳が揺れて、そこに宿ったのは明確な怯えだった。

 呼吸を忘れ震えるその彼女の姿は、恐怖を前にした、ただの一人の少女のそれだった。


 訓練され、負傷を顧みずに戦った兵士とは、とても遠くかけはなれた姿。

 ライラック――男性を、忌避するほどの深い傷。


「ちっ」


 忌まわしき地を無に帰しても、ライラックの気は晴れない。

 間に合っていて、間に合っていない。それが全てだった。


 地図から消したとしても、彼女の中から過去が消えるわけではない。そして、ライラック自身も――。


 暗く見据えた先、血が滲むほどに歯を食い縛りライラックは、抱いた激情を飲み込んだ。

 

 ――いいや、この手を二度と離さなければ良いだけだ。もう、あんなことになりはしない。


 あの時とは違う。今、手が届くところに彼女がいる。

 甘やかして、愛で溺れさせ、ライラックへとその意識を向ければいい。他のことなど考える余地がないほどに。


 ――私の側が一番だと、心に刻みこむだけだ。


 二度と、彼女を失わないように。


「……アスター」


 ライラックは部下を呼びつける。扉の外に控えているのは知っていた。

 扉が開くことはなく、声だけが返ってくる。普段の調子が軽い男だが、こういう時は気配りが出来る。


 もっとも扉が開こうものなら、彼女を映す前に、ライラックが、その目を潰すだけなのだが。


「お呼びです、ライラ?」


「首尾は」


「王城に、戦に関する一式はお届けしてきましたよ。大層喜んでくれまして。

 いやぁ、頑張った甲斐がありましたね。

 今は皆さん、地下牢で仲良く談笑でもされてるのでは?」


「死なん程度に生かしておけ。こちらでのことが済めば、グラジオラスに引き渡す」


 グラジオラス帝国は大国。魔法を神から授かった加護と呼び、神聖視している。

 魔法使いを加護使いと重用しているほどだ。

 それゆえに差別行為に対しての報復は、アスフォデルよりも厳罰に科すものだ。


 ライラックでは、またうっかり殺しかねない。それではだめだ。

 簡単に殺しはしない。楽になど終わらせてなるものか。彼女以上の苦痛を味あわせなければ。


 ――殺さず、壊さず、生きて地獄に堕ちろ。


「仰せの通りに。あ、各関係者は監視してますけど。いつします?」


「逃げるなら始末しろ。ナイツの裁量に任せる。軍は帰還させておけ」


 彼女の髪をさらさらと撫でて、ライラックは扉の向こうへ指示を出す。

 ヴァインが言う関係者は、臓器売買の買い手の貴族。


 ――いつ来るか分からない恐怖を、その身に。


 ナイツは、ライラックの直轄の部下だ。好きにさせたところで、ライラックの望むようにするだろう。


「しばらくはミレットの基盤を築く。父上にも報告しておけ」




 ◇◆◇◆◇◆◇




 ザアザアと雨の降りしきる真っ暗な闇の中、慌ただしく騒がしい屋敷があった。


「お前たち、早くせんかっ。アスフォデル軍の兵が去った今が、好機なんだぞ!」


 主の指示で荷造りに勤しむ僅かな使用人たち、それに焦りを隠せず指示をせっつかせ、男は髪をかきむしる。

 痩けた頬にボサボサの髪、これでは見下してきた平民ではないか。


「バレてない、バレてないはずだ。なんで他国の兵なんかが、屋敷を見張っていたんだ。気味が悪い、急いで逃げねば!」


 日に日に質素になっていった食事、聞けば屋敷の食糧が尽き買い物にいかせた使用人たちは帰らないという。おかしい。おかしい。


「えー? どこに逃げるんですかぁ?」


「どこでも良いわ! 金ならあるんだからな。口答えせずに荷造りをせ――」


「まだ私腹を肥やすことしか考えてないんだぁ、豚のくせに」


 ツインの縦ロールを揺らし、少女は冷えた声を響かせた。

 足の腿にあるベルトから太い針を取り出すと、男へ向けてそれをトスッと投げた。


「あ、ぎゃぁぁぁぁああ!?」


「ほら、逃げるんでしょ? 逃げて、逃げて、怖がって。それがライラ陛下の希望なんだから」


「ひっ! ひぃ!」


 雷がピカッと走り、窓から一瞬光が差し込んだ。

 ピンクの髪の少女はそれはそれは嬉しそうに頬を染め、あどけなく笑っていた。返り血なのか所々赤い汚れをまとっている。


 男は血に濡れた手を抱え、言われるがまま、恐怖に駆られよろよろと歩きだした。 


「せっかく歩けるように手にしたんだから、せいぜい頑張ってくださいね。体力と毒、どっちが先に尽きるかな」


 新しい毒針を手に、少女は目についた使用人の脳天に投擲した。


「あ、言いなりの使用人は、ひと思いに楽にしてあげましたよ。優しい私、ふっふっふーん♪」


 

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