43話 大晦日
年末の大晦日になった。予備校も大晦日は休みなので、僕は家で勉強している。12月最後の模試では某有名私立大学、国公立大学もA判定をもらうことができた。柚も一流私立大学円城寺大学や他の私立大学のA判定をもらうことができた。今日も家で必死に勉強しているはずだ。
僕と柚は既に私立円城寺大学を中心にいくつかの一流大学への受験へ向けて願書を出している。予備校の講師からは某有名私立大学、国公立大学への入試を強く希望されたが、僕は心筋症という病気を患っている。いつ倒れてもおかしくない。倒れるまで柚の傍にいたいと思った。だから柚と同じ大学へ願書を送った。柚も僕の病のことを聞いてからは、素直に納得してくれている。
家の中では花楓が家事全般をしていて、今も夕飯の用意を進めている最中だ。インターホンが鳴り、花楓が対応している。しばらくすると1階から「達也さんが来てくれたわ」と声がかかった。
達也の久しぶりの訪問だ。多分、年末年始の挨拶のつもりできたんだろう。1階へ降りると花楓が達也のコートをきれいにハンガーに吊るしている最中だった。
「久しぶり、年末年始の挨拶か?」
「それによく似たもんだ。どうせ圭太は年始は彼女と一緒だろう。無粋なことはしたくないんでね」
達也がいてもいいと思うし、達也と柚を会わせたいと思っているのだが、達也は柚と会いたくないらしく、いつも時間や日にちをずらして、家にやって来る。なぜそれほどまでに柚と会うのを拒むのか、僕には意味がわからない。
花楓が元気よく、達也を見てにっこりと笑う。
「今、夕飯を作っていた最中なんです。達也さんの分の夕飯も作っておきますから、達也さんも夕飯を食べて帰ってくださいね」
「ありがとう、花楓ちゃん。遠慮せずに夕飯をいただいて帰るよ」
達也が花楓の頭を撫でる。花楓は顔を赤くして俯いて、素直に頭をなでられている。
僕はソファに座ってテレビをつけるが面白い番組はやっていない。グルメ番組ばっかりだ。すぐにテレビを消す。達也が僕の隣に座ってくる。
「そういえば、圭太は彼女に自分の体の話を説明してあるのか?」
「ああ、巽総合医療病院で偶然、循環器内科の看護婦とばったり会っちゃって、そのことで柚にバレた。詰問されて全てを話したよ。今では柚も僕の体を気遣ってくれるようになっている」
達也の眉間に寄っていた眉が緩む。少し安心したのかもしれない。
「それは良かった。何も聞かされていなくて、圭太に突然、倒れられたら、彼女も慌てるしかなかったはずだ。知っていれば、心を気丈に保つこともできる。偶然にでも彼女に話を伝えられることができて良かったよ」
偶然の結果だけど、柚に僕の体のことを話せて良かったと僕も思う。
「来年の年始、明日はどうするんだ?」
「柚と2人で初詣に行くつもりだよ」
花楓がトタトタと走ってくる。
「お兄ちゃんと柚お姉ちゃんの2人だけで初詣に行かれたら、私は何をしていればいいの?家でお留守番なの?」
花楓のことをすっかりと忘れていた。花楓の頬が膨らんでいく。早く弁解しないとダメだ。達也が花楓のほうを振り向くとクスクスと笑っている。
「大好きのお兄ちゃんを彼女に取られちゃったね。俺も暇しているし、花楓ちゃん、良かったら一緒に初詣に行くかい?」
「嬉しいです。達也さんさえ良ければ是非、一緒に初詣に行きたいです。お願いします」
達也は優しく花楓を見る。花楓は達也に見つめられて、照れて台所へ逃げていった。さすがイケメンの効力は絶大だな。それに花楓は達也に懐いている。花楓も達也に初詣を誘ってもらって、とても嬉しいのだろう。
これでゆっくりと柚と初詣に行けると思っていると、花楓が夕飯ができたと言う。僕と達也はソファから立ち上がって、ダイニングテーブルへ移動すると、ダイニングテーブルには簡易ガスコンロが置かれていて、火が焚かれていて、その上に大きな土鍋が置かれている。今日は花楓特製のダシ入りの鍋だ。白い煙が立ち上り、美味しそうな香りを放っている。
僕と達也が席に着くと、花楓がお玉で鍋から具材と汁を小鉢に入れて、僕と達也の前に置く。そして自分の分を取って、テーブルの上に置いて、椅子に腰をかける。3人で「いただきます」を言い。小鉢の中の具を食べていく。すごく上手い。ダシの味が絶妙だ。達也も「美味い」と言って食べている。
小鉢の具がなくなると、鍋の中へ置いてあるお玉で、鍋の具を取って、それぞれに黙々と食べていく。実に美味しい。3人で他愛もない話をして、笑顔で鍋を食べていく。体の芯から温もって、ほっこりした雰囲気に包まれる。
3人で夕飯を食べ終わり、僕と花楓で夕飯の用意を片付ける。その間、達也にはリビングのソファで寛いでいてもらった。花楓が食器類と調理道具などを洗っていく。僕がそれを拭て、各場所へ片付けていく。いつも2人でやっている作業だけに、片付けはスムーズに終わった。
3人でリビングのソファに座ってテレビを点けているとインターホンがなり、花楓が走っていって対応する。そして玄関を開けて、お客を通すと柚だった。こんな時間に何だろうかと思っていると柚が小さく声を出す。
「家族のみんなが年末イベントで外出していて、勉強していたんだけど飽きてきたから、圭太の家に遊びにきたんだけど平気かな?」
「大丈夫だよ。親友の達也が来ているだけだから。部屋の中へ上がってよ。達也とも会わせたかったし」
「そうですよ。いつでも柚お姉ちゃんは遊びにきてください。私も歓迎します」
柚は玄関で靴を脱ぐとまっすぐ花楓の元へ行って、花楓を抱きかかえて頬擦りする。よほど嬉しいのだろう。花楓も黙って柚の思うがままにされている。柚が達也に気がついて、花楓を抱きかかえるのをやめる。
そして達也の前に行くとぺこりと頭を下げた。
「圭太の彼女をしています。広瀬柚です。達也くんのことは圭太から話を聞いていました。よろしくお願いします」
「圭太の彼女なら、そんな堅苦しい挨拶はやめてよ。もっとリラックスしてほしい。俺は藤堂達也です。達也と気軽に呼んでくれたらいいよ。俺も柚ちゃんって気軽に呼ぶからさ」
達也は軽い感じで手を差し伸べる。柚は達也の手を軽く握って礼をした。
柚が僕の横っ腹を軽くつつく。柚を見ると「圭太、達也くんがこんなイケメンなんて聞いてないわよ。こんなイケメン、私、恥ずかしいよ」
自分も美少女なのに柚は何を言ってるのだろう。確かに達也はイケメンだけど、瑛太さんのように超イケメンではない。柚はいつも瑛太さんを見ているのに、何をビックリしてるんだ。意味がわからない。
「そういえば達也がイケメンなこと柚に言うのを忘れていたよ。でもそれを言うなら柚のことを美少女って達也に伝えてないよ」
「バカ、私のことはどうでもいいの」
柚に足を思いっきり踏まれた。僕達のやり取りを見て達也と花楓が笑っている。そのことに気づいた柚は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「とりあえず、ソファに座ろう」
柚の隣に僕が座り、その横に達也と花楓が座る。なんか微妙な雰囲気が流れる。まだ柚と達也も慣れきっていないから仕方ないだろう。柚は人見知りが激しいし、達也は寡黙なほうだから、仕方がない。
「圭太の病気を知っていて、彼女になってくれたことを嬉しく思う。ありがとう。俺もこれで少し安心できる」
「達也さんって友達思いなんですね。圭太には本当に良い親友だと思います。私も圭太の病気を聞いて、ビックリしたけど、私もいつ治るかわからない喘息持ちなので、圭太と変わらないです。2人で体を気遣いながら、付き合っていこうと思っています」
その言葉を聞いて、達也はゆっくりと頷いた。
「2人共、病気を患っているんだから、倒れないように気をつけてほしい。柚ちゃんが倒れても圭太が心配するだろうし、圭太が倒れても柚ちゃんが心配でたまらなくなるだろうから、お互いに体に気を付けてな」
達也のいうことは正論だ。僕達、2人共に倒れることがあったら大変だ。僕達は2人で支え合っていくしかない。僕はなるべく自分も無理しないようにしようと思った。
達也は暫くすると席を立ちあがった。
「もう10時を過ぎたから、俺は家に帰るわ。花楓ちゃん、明日、迎えにくるから待っててね」
花楓は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。そして「はい」と頷いた。達也は車に乗って去っていった。
それから暫くすると柚が立ち上がってコートを着始めた。そしてマフラーを巻く。
「私もそろそろ帰るわ。瑛太お兄ちゃんが帰ってきているかもしれないし、パパとママは先に帰ってると思うから、心配させてもいけないから」
「それじゃあ、少し待ってて、私服に着替えて、柚の家があるマンションまで、柚を送っていくよ」
僕は急いで私服に着替え、コートを着て、マフラーを巻いて柚と一緒に家を出た。空からは小雪がちらほらと舞っている。空を見ると一面が雲で覆われている。僕と柚と2人寄り添って歩道をゆっくりと歩いた。
僕が柚の家があるマンションから家に戻る途中で除夜の鐘が聞こえてきた。




