40話 水族館 後編
大パノラマ水族館の海中通路を通って反対側へ出ると3階へ上るエスカレーターと1階へ下がるエスカレーターがあった。僕達は3階へ上るエスカレーターを上る。すると大パノラマ水槽の真上に出てきた。マンタやウミガメが足下を泳いでいる。ダイバーの人達が泳いでいる姿も上から見える。かなり巨大な水槽だ。予想していたよりも遥かに大きい。
夏希も俊輔の腕にしがみついて、水槽の中を覗き込んでいる。柚も僕の腕にしっかりと捕まって水槽の中を覗いている。
大パノラマ水槽の上からの眺めは壮大なものだった。少し歩くとバルコニーが出てきた。水族館を出てバルコニーを歩くと水族館に設置されているレストランが見えてきた。そういえば少しお腹が空いたかもしれない。
水族館って、上手く作られているな。ちょうどお腹が空き始めた時に、レストランが出てくるなんて、すごい設計だなと思う。
「私、少し疲れたかも。少しお腹も空いたし、休憩したいな。俊輔、レストランで休憩していこうよ」
「圭太、夏希はああ言ってるけど、レストランで少し食べていかないか?柚も少し疲れただろう」
「圭太、夏希も休憩したいと言っているし、私も少し休憩したいわ。ここで休みましょう」
夏希、俊輔、柚から休憩したいという声があがった。僕はどちらでも構わない。3人がレストランに行きたがっているから、無理に先に進む必要もないだろう。僕達4人はレストランの中へ入っていく。
俊輔は日替わり定食を頼み、夏希がハンバーグ定食を頼む。そして僕がピザトーストを頼んで、柚はサンドイッチを頼む。それぞれにドリンクバーを頼んで、自分達でドリンクを取ってくる。僕はコーラを持って席に戻ると、柚はアイスミルクティをテーブルの上に置いていた。俊輔と夏希もそれぞれ飲み物をテーブルの上に乗せる。
ウエイターが僕達のメニューをカーゴに乗せて運んでくる。テーブル上にそれぞれの食べ物が置かれる。
俊輔の日替わり定食は唐揚げ定食だった。夏希と俊輔は定食を食べていく。柚は小さな口でサンドイッチをモグモグと頬張っている。僕はピザトーストに噛り付いた。
チーズがほどよく蕩けていてピザトーストとの相性も抜群だ。美味しい。柚がじーっと僕を見ているのでピザトーストを柚の可愛い口へ近づけると、パクリとピザトーストに齧りつく。その姿がとても可愛い。柚がサンドイッチの皿を僕の前に持ってくる。1つ食べてもいいということだろう。僕がサンドイッチを1つ取ると柚はにっこりと笑んだ。
「最近は柚と圭太もカップルみたいに見えるようになってきたな」
「そうね、以前より距離が近づいた感じね。見ていてホンワカするわ」
俊輔と夏希が僕達2人を見て喜んでいる。僕と柚は顔を向けて目を合わせて2人で微笑んだ。俊輔と夏希は定食を食べ終えて、ドリンクバーに飲み物を取りに行っている。
「次は海獣コーナーへ行ってみようか。時間があればイルカショーも見たいけど、この寒さで野外というのは柚にはキツイかもしれない。柚のことを考えると止めておいたほうがいいだろうな」
「何を言ってるのよ。寒暖の差に弱いのは圭太も同じだし、風邪が天敵なのも圭太も一緒よ。イルカショーは見たいけど、また夏に来ればいいわ。圭太の体のことを考えて止めましょう」
「柚の体のことも考えてね」
僕と柚は僕の体のことを予備校には伏せている。だから俊輔と夏希にも説明していない。余計な心配をさせたくないと僕が言い張ったので、柚も僕の意思をくみ取ってくれた結果、2人には内緒にしておくことになった。
僕達も飲み物をドリンクバーに取りにいく。ドリンクバーで飲み物を持って4人でテーブルに戻る。
「こんなに楽しいなんて、これもマスターのおかげだね。今度、マスターにお礼をしなくちゃ」
夏希が元気に明るく言う。そうだな。何かマスターと明日香さんにお土産を買って帰りたいな。何があるかマップで後から探してみよう。
「これからどこへ行こうか、俊輔?」
「順当なルートから行けば、1階へ戻って、海獣コーナーへ行ってペンギンやアシカを見て、それからイルカショーの会場に行くルートだな」
夏希と俊輔も海獣コーナーまでは一緒のルートだ。やっぱりメインのイルカショーは外せないらしい。
「僕と柚も海獣コーナーまで一緒にいくよ。イルカショーは寒そうだから、柚の体調が変化してもダメだし、今日は断念する。夏希と俊輔の2人でイルカショーは見に行ってくれ」
俊輔と夏希の2人は一緒に行けないことが残念そうな顔をするが、柚の体調と言われては納得するしかない。2人は納得するように頷いた。
「わかった。じゃあ、海獣コーナーで今日は解散な。圭太は柚を守って、きっちりと帰ってくれよ。」
「わかった。俊輔、ありがとう。夏希もゴメンね」
2人は笑顔で気にするなと手を振る。僕達4人はレストランを出て、エスカレーターを降りて、1階へ向かう。そして海獣コーナーへ向かう通路を4人で歩いていく。夏希は柚と手を組んで、嬉しそうにお互いにおしゃべりして、前を歩いていく。僕と俊輔は女子2人の後ろを歩く。
海獣コーナーに着いた。さすが寒さに強いペンギン達やアシカ達だ。海中プールの中をスイスイと泳いでいく。ペンギンとアシカって泳ぐとすごく早いんだ。思っていた以上のペンギンの泳ぐ速さに驚く。アシカもすごく早い。トドは陸上で寝そべっていた。トドの泳いでいる姿も見てみたかった。
皇帝ペンギンが行列を作って陸上を歩いて、1匹づつプールへ飛び込んでいく姿は、すごく可愛くて愛くるしかった。柚も気に入ったらしく、手を叩いて喜んでいる。柚がこんなにペンギンが好きだとは思ってもみなかった。本当ならイルカショーも見せてあげたかった。
俊輔と夏希は腕を組んで手を大きく振って、イルカショーの会場へ通じる通路へ歩いていく。僕と柚も小さく手を振って、俊輔と夏希と海獣コーナーで別れた。
「圭太、これからどこへ行こうか?」
「確か、1階にお土産ショップがあったはずなんだ。出口の近くとマップに載ってる。そこでマスターと明日香さんへのお土産を選ぼうよ」
「うん!2人には日頃からお世話になってるし、今回のチケットもマスターにもらったし、お土産ぐらい買って帰ったほうがいいね!」
柚と意見が一致したので、僕達はお土産コーナーへと向かって歩いていく。柚が僕に腕を絡めて、体を密着させる。柚の体温を感じる。柚から優しくて爽やかで、甘い香りが漂ってくる。柚はいつも良い香りがする。僕達はゆっくりと歩いていく。
お土産コーナーに着いた。食べ物から、クッション、ぬいぐるみまで、色々なグッズが揃っている。はじめは柚と2人でお土産と言えば消えモノでしょうということで、チョコレートやクッキーを見ていたが、今一つピンとくるものがない。
柚がイルカのピアスを発見した。すごく可愛いピアスだ。明日香さんがピアスを付けたら、すごく似合って可愛いだろうな。しかし、ピアスは明日香さん用だけになってしまう。
思わずマスターがピアスを付けている場面を想像しそうになって、僕は頭を振ってイメージを投げ捨てる。柚を見ると、柚も頭を横に振っている。同じイメージをしかけたんだろう。ピアスは危険だ、やめておこう。
「圭太、いいのが見つかったわ。これでいいんじゃないかな?」
柚が持ってきたのはきれいなイルカのキーホルダーだ。確かにこれなら貰っても、大きくないし、気軽に使える。ナイス柚。僕はイルカのキーホルダーを2つ持って、レジで精算をする。そして、イルカのキーホルダーを包みに入れてもらい、コートのポケットに入れておく。
外を見るともうすぐ夕焼けになりそうな時間だ。少し早いけど水族館から出て、家に帰ることにした。これから段々と寒くなるからだ。夕暮れから後の時間は寒暖の差が激しくなる時間帯で、僕と柚にとっては体を気をつけないといけない。
水族館の出口を出て、駅までの直通通路へ向かって歩いていく。
「今日は楽しかったね。夏にまた来たいわ。やっぱりイルカショーが見たかったもの」
「そうだね。僕もイルカショーを見たかった。来年の夏に2人でまた来よう」
柚が上目遣いに目を潤ませて僕を見つめる。僕は柚を抱き寄せてキスをした。柚も僕の背中に手をまわしてギュっと抱き着いてくる。
唇を放した僕達はお互いに背中に手をまわして、寄り添い合って、微笑んで駅までの直通路をゆっくりと歩いた。




