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15話 柚の救急搬送

 今日は朝から予備校へ来ていた柚は胸の調子が悪いらしく、始終、胸を撫でていた。昼食も食べずに、ジェル状の食糧で食事を済ませる。そして病院から出されている8錠ほどの薬を一気に口の中へ入れて、水で流し込んでいく。心なしか顔色が悪い。



 それでも午後の授業もなんとかこなして、予備校を帰る時間となった。夏希と俊輔は何を勘違いしているのか、最近、僕達を2人っきりにさせようとしている気配がする。今日も夏希と俊輔は2人で繁華街へ遊びに行ってしまった。



 僕はバイトがあるので、喫茶店へ向かうことを柚に言うと、「あの喫茶店の雰囲気が静かで好きなのよね。私も一緒に行ってもいいでしょ」と言われた。



 柚がお客様で来られるのを僕が嫌がるはずがなく、僕は「喜んで」と微笑んで、一緒に喫茶店まで並んで歩く。



 空にはどんよりとした雲が流れていて、今にも少し雨が降り出しそうな気配をさせているけれど、すぐには雨は降ってこないだろう。朝からずっと空の具合はこんな調子だけど、朝から雨も降っていないし、大丈夫なはずだ。



 僕と柚が喫茶店へ入ると静かな声で「いらっしゃいませ」とマスターが言う。「お疲れ様です」と僕は言い、コートを脱いで、カウンター奥にある事務所の中でコートをクローゼットの中へ入れて、鞄をその下に置いて、エプロンをつけて、バイトに入る準備を進める。



 柚はお気に入りの窓際の席に座って、マスターにモカを頼んで、鞄の中からテキストや勉強道具を出している。モカが出来上がったので、トレイにカップを乗せて、柚の近くまで足音を立てずにスムーズに歩いていき、柚の勉強の邪魔にならない場所にスーッとコーヒーを置く。



 そして「ごゆっくり」と会釈をして、僕はその場を離れて、玄関口に近い、カウンターの端に立って、お客様を待つ。



 店内にはピアノジャズが流れ、木の光沢が光っているテーブルやカウンターがゆったりした雰囲気を醸し出す。天井に吊り下げられているシーリングファンがゆっくりと回っている。



 僕もこの静かな喫茶店が大好きだ。バイトをさせてもらっていることがすごく嬉しい。



 お客様が少ない店内をトレイと布巾を持って、テーブルを拭いて、補充品を補充していく。柚の席に行って、補充品を補充していると、「やっぱり、この店が一番に落ち着く」と微笑んで、モカを飲んでいる。僕は「それは良かった。ありがとうございます」と礼をして、自分の立ち位置へと戻った。



 暫くすると、柚が頭をペンでコリコリとする。わからないポイントに当たってしまったらしい。自分で解きほぐすことができるのか、見ていると、いきなり手を挙げた。僕はにっこりと笑って柚の席まで行く。



「モカが無くなっちゃった。もう1杯お願い。ついでに、この問題の解き方を教えていってよ」



 僕はトレイを脇に挟んで、上半身を屈めて、テキストをのぞき込む。柚は今日の授業の復習をしていたようだ。これなら僕にも解ける。僕は柚の隣に立って、柚の耳の傍で、優しくビックリさせないような音量で、問題の解説をして、柚からペンを借りて、ノートに問題と解き方と答えと要点を書き込んでいく。柚はウンウンと頷いていたが、問題の解き方がわかったようで嬉しそうに僕を見上げる。



「ありがとう。さすが圭太。わかりやすい。モカの注文を忘れないでね」



 「わかりました」と会釈をして、カウンターにいるマスターへオーダーを通して、カウンターの下にトレイを置いて、定位置に立つ。しばらく柚を見ていると、胸を撫でて、呼吸器を吸っている。以前の呼吸器と違い、1日に何回吸っても良い呼吸器だそうだから安心してるけど、今日はどうも体調おかしい感じがする。



 モカが出来上がってトレイにカップを乗せて、柚の近くへ歩いていく。そして柚の飲み終わったカップをトレイにとって、新しいカップをテーブルに乗せる。さりげなく「柚、呼吸器吸ってるけど、体調は大丈夫なのか?」と聞くと、「昨日の夜から、少し呼吸が苦しいのよ。でもこれくらいなら、いつものことだし、大丈夫よ。圭太は心配し過ぎ」と言われてしまった。



 僕は静かに会釈をして自分の定位置まで歩いて戻って、トレイをカウンターの下に置いて立つ。時々、柚が心配なのでチラッとだけ見るようにしていた。



 また、柚が吸引器を取り出して吸っている。そして胸を撫でている。顔色が学校にいた時よりも青くなっているような気がする。本当に大丈夫なんだろうか。



 しばらくすると、柚はペンを机の上に置いて、うつぶせになって眠るような体制になった。これはおかしいと思って、足早に柚の近くへ近寄ると「ゼイゼイ」という呼吸音が聞こえる。そして、また柚は大事に持っていた呼吸器を吸っている。明らかに吸い過ぎだ。



 急いで僕はマスターに柚の病状を話す。マスターも気になっていたらしく、カウンターから出ていくと柚の席まで行って、病状を確かめる。そしてマスターが大声で僕を呼ぶ。



「圭太くん、悪いけど、救急車を呼んでほしい。明らかに柚ちゃんは喘息発作を起こしているようだ。早く、救急車を呼んで」



 急いでポケットからスマホを取り出して119番をタップして、救急センターへ連絡する。この喫茶店の住所を言い、19歳の女子が1名、喘息発作で倒れていることを伝え、行き付けの病院は巽総合医療病院であることを伝えると、センターの男性の方は「10分ほどで救急車両を到着させることができますので、彼女の身の回りの整理をしておいてあげてください」と頼まれ、スマホが切れた。



 他のお客様はびっくりして、柚のほうを見ていたが、皆、心配そうな顔をしている。柚の席まで行った僕は、マスターに「10分後に救急車が来るので、机の上の勉強道具を整理します」と伝える。マスターは「後は任せた」と言って、カウンターへ戻っていった。



 僕は手早く、テキスト、ノート、筆箱を柚の鞄の中へ入れて、柚が脱いで、椅子にかけていたコートを取って、柚の腕にコートを着せていく。柚はゼイゼイと呼吸音をさせて、グッタリとなっている。僕は柚にコートを着せて、すぐにカウンターへ戻ると、マスターが「救急車には圭太くんも同乗していきなさい。早くエプロンを脱いで、コートに着替えたほうがいい。バイトはこれで終わっていいから」と言われた。



「ありがとうございます」と会釈して、僕はカウンターの奥へ行って、エプロンを脱いで、手早く片づけて、カウンターの下へ置く。そしてクローゼットからコートを出して、羽織って、自分の鞄を持つ。そして、「すみません」と言って、柚の隣まですぐに足を運ぶ。



 柚はまだ意識があるらしく、呼吸音をゼイゼイ言わせながらも、何かを言おうとしているのがわかる。



「今日は1人で家に帰りたくなかったの。圭太ともう少し長く一緒にいたかったから、無理しちゃったかな?。圭太に迷惑かけちゃったね」と聞き取りにくい声で言う。


「柚、僕に迷惑なんてかかってない。一緒に居たいと言ってくれて、すごく嬉しいよ。もうすぐ救急車が来るから、僕も一緒に病院に行くからね。いつも一緒にいるから。約束するから、大丈夫だよ」



 柚の言葉を聞いて、涙が出てくる。僕を待っていてくれたんだ。僕は必死に柚の手を握ると、少し柚が微笑んだように見えた。僕も必死に顔に微笑みを張り付ける。喫茶店のドアが開いて、救急隊員が移動用ベッドを中に持ちこんで、僕達を発見すると、足早に歩いて来た。



「通報してきたのは君か。彼女が喘息発作の患者なんだね。知り合いなのかい?」


「はい。僕の友達です。朝から調子悪そうにしてたんですけど、もう吸引器も効かない状態になったので、救急車を呼びました。主治医は巽総合医療病院にいます。救急搬送をお願いします」



 救急隊員の男性は頷くと、3名で柚を立ち上がらせて、搬送用のベッドに乗せる。「もう大丈夫だからね。後少し、頑張ってね」と救急隊員の男性の1名が柚に声をかけている。柚が「圭太」と小さく言う。僕は柚の鞄を胸に抱いて、柚の手を握ると、柔らかい手が僕の手を握る。



「君も一緒に来てくれるかな。通報者だし、彼女の知り合いだから」


「わかりました」



 搬送ベッドを救急隊員2名が運んで道路に駐車している救急車の元まで運んでいく。もう1人の救急隊員もそれに続く。僕はマスターに「行ってきます」と言うと、「気を付けてね」とマスターから言葉が返ってきた。



 搬送用ベッドは救急車の中へ既に搬送されていて、救急車の中では救急隊員の1人が血圧を測ったり、酸素濃度を測ったり、検査を始めている。僕が救急車の中へ入ると、後ろからドアを閉められた。



 そして柚の胸元を少し開けて、救急隊員は心電図を測る用意をして、柚に酸素マスクをつける。救急隊員からの質問に素直に答えて、柚のことを説明していいく。巽総合医療病院で対応してくれることの確認が取れた。



 救急車は巽総合医療病院へ向けて走り出す。僕は両手で柚の右手をしっかりと握って、自分の涙を抑えて、柚の必死に無事を祈った。

本日の更新はここまでといたします。

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柚が心配になって無事を祈る読者様は評価をお願いいたします。

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