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王の腕  作者: 白風水雪
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十四章〈潜むもの〉7/?

 揉め事の中心。少年は壁に追い詰められていた。

 囲む男たちの後ろからガルラが声をかける。


「どうかなさいましたか」


 先ほどの報告からすでに事態を把握しているはずだが、事の潤滑のため、相手から話させる状況を作り出していた。少年を囲んでいた男の一人がガルラに説明する。

 どうやらクスリを盗み出していたらしい。

 少年の手には小脇に抱えられるほどの袋があった。こっそりには大袈裟すぎる量だった。


「なるほど。ここは目立ちすぎますね。場所を移動しましょうか。君、大人しくついてきてくれますか」


 逆らう意思を少しでも認められたら、ここに集った人たちが容赦なく静斎に加わるだろう。宴を乱す嫌悪感は、この部屋全体から少年に向けられていた。

 少年がまだ何か言ってるが耳を傾ける者はいない。表情は脂汗を滲ませて焦点もどこか危ない。焦りと興奮、もしかしたらクスリの影響も考えられた。

 ヤバルはすでに抵抗を諦めていた。何をどうしても悪いことにしかならないからだ。

 ところが。囲まれた状況で、少年は突如逃走する。持っていた袋を立ちはだかった男に投げる。人集りに紛れようとしたが、掴まれてあえなく取り押さえられた。

 ヤバルは盛大にため息をつきたいのを堪えて、始終を見るだけで一切動かずにいた。

 少年共々、部屋の奥の扉へと連行されていった。

 連れて行かれた一室で、ヤバルと少年は縄に縛られた状態で閉じ込められていた。部屋の出入口のドア前は、見張りがひとり立たされている。


「さて。ご友人は、まだ話ができそうにありませんね」


 壁際に座らされた二人を、部屋の中心でガルラが見下ろした。彼の表情に特段感情は見られない。ヤバルの隣にいる少年は、虚ろな顔でぶつぶつ何かを言ってるだけだった。ここに入れられる数刻前まで、言い訳を並べていた元気はどこかへ失せている。

 明らかな異常だった。


「ああ。ご心配ならず。おそらく、副作用が出てるだけですね。かなりの量を一度に摂取したようですね。あちら側をみたいために量をとにかく多くする方もいますが。このようになります」

「この度は迷惑をかけました。二度とさせませんので、この場はお見逃しをお願いできますか」

「あの方のご友人であれば……、と。しかし、見逃せば、ここの秘匿を危うくなる。そう思いませんか」

「他言するつもりもないですよ。僕たちもここに居てはいけないのだから」

「……いえ。処罰、ということになりますか。もう決まっているのです。その前に、ちょっとお話をしませんか。私は、最近ですね、もう少しで結論にたどり着けそうな気がしてならないです」


 いかなる交渉も受け付けない姿勢というよりも、ヤバルたちの処遇に興味が無い様子だった。

 ガルラはいま己の考えの推考しか見えていないのだ。


「エデンの園はどこにあるのか、そういう話です」


 彼は切り出した話を、ヤバルはどこかでしたような気がしていた。珍しいことでもない。学生であれば授業で聞くこともある。熱心な宗教徒も聖書を読み耽れば、聖人の問いかけの一文で目に付く。

 エデンはどこにあるのか。

 かつて、神王ヤルバダオートが滅びゆく世界から生き物を守ったとされる楽園の揺り籠。偽書によれば、滅びの魔女の爪痕から世界を守るための封印地、世界の果て。

 あるいは、この世界のどこか。

 あるいは、時の流れでも風化しない忠誠心の抽象的表現。

 あるいは、魂の還る場所だ。


「しかし。私たちは場所がわからない。なぜか。私はね、忘れているだけだと思うのです」


 ヤバルは、その結論を確かに聞き覚えがあった。

 誰から聞いた。内に問いかける。

 答えを探すヤバルを置いて。

 ガルラは、壁のランプに手を掲げた。


「忘れている。なぜなら、私たちは覚えているからだ。魔女との戦いの記憶を。この身体に。この魂に。アイオーンで。言葉を捨てて、覚えているからだ」


 だからこそ、アイオーンの多くが剣の形をしている。


「エデンの鍵穴。あの夢こそが私に教えてくれたのです。私たちは忘れている。私たちは覚えている。荒野に隔てた扉が問いかけていた。王の証を掲げよ、と。証は何か。それは鍵だ。では鍵とは何か」

「アイオーンがすべてを知っていると……?」


 ヤバルはぼそりと言った。

 ぐるんと、見開ききった目でガルラは振り返った。


「そうです。そのとおりです。鍵穴とは、エデンへまでの標。証とはアイオーン。扉を開ける鍵とは、アイオーンに他なりません。標は知らされた。私たちは赴けばいい。では、標とは。穴の向こう側、滅びの穴の向こう側ではないか。もしくは夢を見た者たちの中、とか。これはアイオーンの声だ。叫びだ。滅びは近いと。救世主は現れると。あなたは見ましたか。エデンの鍵穴を」

「いや。見ていない」

「残念だ。あなたは、なぜ滅びの魔女が保護されているかご存じかな。一国のご息女だったというのもあるが、私があれが箱船になると考えている。滅びの穴を行くための手段か、もしくはそうだ、あれにエデンがあるのかもしれない。彼女のアレを見たならわかるだろう? ソフィアだ。魔女の名を持つアイオーン。滅びの炎に近い力だ。素晴らしい。封じてるのか操れているのか一部なのか。いえもしくは」

「何を話しているのかさっぱりなのですが。結局あなたは何の話をしたいのですか」

「おや。失敬。誰かに話すという行為そのものも目的でした。エデンの鍵穴を見た者は、エデンへの道と成り得るのか、という実験を私は度々しています」


 距離を詰めて鼻先まで近づいた。腰をかがめてヤバルの目を覗き込む。

 ヤバルの緊張が高まった。

 これから薬物投与されたあげく、非道な行いをヤバルの肉体でやろうということだった。儀式の光景が思い出される。腹を裂かれて中の腸を取り出されてもおかしくなかった。

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