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王の腕  作者: 白風水雪
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十四章〈潜むもの〉6/?

 一旦冷静さを取り戻してから、改めてヤバルは言った。


「……大丈夫、なんだよな」

「またどうせ馬鹿な理由でこんなところにいるんでしょ。いいから、もう行きなさい」

「おや? そちらの方は。何か問題でも起きましたか」


 二人の間に無言が生まれたときだ。第三者が突然割って入るように言葉を挟んできた。二人は声をかけられるまで、その存在に気づいていなかったが、マリアだけが冷静に対応した。

 声色から男性の人物を誰か知っていた。


「司祭様。いいえ。何でもありません。エデンとは何かを語らっていただけです」

「それはそれは。とても熱心ですね」


 ヤバルは黙るしかない。マリアと男性との会話を邪魔したくないからではない。また、知っている人物が現れたからだ。面識はない。だが知っている。

 ガルラ・ヒンノム・ティンヤン。

 彼は大司祭の服を着ていた。身分を隠す素振りすらない。学園に侵入させたアーロンの依頼、その調査対象だ。

 ヤバルは戦慄していた。

 救済教との繋がりをガルラに疑っていた。

 救済教とは、現世界の滅びを是として、滅びの魔女を崇拝する異教だ。港町プロピナでのクーデターの主犯とされている。神王教教皇の息子を処刑にまで追いやった大事件だった。

 だが。ここは神王教過激派エデンの使徒の信者が集まっている。

 この事実が意味するところは。

 エデンの使徒は、魔女崇拝の救済教とも関係を持っている。

 そして、これまでのすべてがガルラに集約されていた。

 ヤバルは、自分がどれだけ危険な領域に足を突っ込んでしまっていたのか悟らされる。

 混乱どころではない。

 今、現時点、ここをどう切り抜けるかに全力を注がなければならなくなった。

 水面下で計り知れないことが起きている。

 救済教なのか、それ以外かなんてどうでもいい。

 自身の手に余る。関わってはいけない。逃げるべきだ。


「ねえ。その人、知り合い、なの?」


 マリアの隣で、同じような恰好でずっと静かにしていた人が彼女に聞いていた。知り合いなのは二人の受け答えで見て取れる。

 これ以上の関わりを、ヤバルは避けなければならなかった。学園から逃亡を試みている真っ最中だ。マリアだから放っておけなかっただけなのだ。


「お邪魔したね。僕はこれで失礼しますよ。今日は見学のつもりで来ていたので」

「まあ待ちなさい。この子の知り合いとあれば無下にできない。是非見て貰いたいものがあるのですが。どうでしょう?」

「いえ。申し訳ないですがお断りします。もう帰ろうとしていたところなのですよ。またの機会にお願いしたいです」

「そうですか。ざんねん、」


 部屋の一部に異質な騒ぎが生まれていた。

 ここが異様な空間でもあるが、統一性はあった。それ故に異物はすぐに際立つ。

 見やればヤバルを連れてきた少年が何人かの男たちに捕まっていた。こちらに視線が向けられたとき、ヤバルは咄嗟に顔を逸らそうともしたが遅かった。


「おい。お前からも説明しろよ」


 明らかな助力を求める声だ。話を合わせて誤魔化して欲しいのは伝わった。

 ヤバルは舌打ちをする。表情は笑顔を作ってガルラに聞いた。


「何があったのでしょうか」

「知り合いですか?」

「さあ。どうでしょう。離れているので顔がよく見えず。これだけ人がいるのですから、他人のそらに」

「お前だよ。いま惚けてるだろ。名前で呼んで欲しいか! なあ!?」


 白を切って逃げ切ろうとしていたところ、少年の声がさらに大きくなった。

 一斉に視線が集まる。

 神聖とはほど遠い儀式だが、ほとんどの人が快楽に没頭しているのを中断させられる事態に、この場の不満は高まりつつあった。


「困りましたね。……はい。はい。なるほど。実のところ、あなたがお供だとはこちらも把握しています。研究熱心な信徒が新たに来たと、案内人から報せを受けています」


 ガルラの傍に誰かが現れて彼に耳打ちした。

 彼の言葉は、ここへ連れてきてくれた男が告げ口したのを伝えていた。少年との軽率なやり取りが仇となった。ヤバルがこの場を知らぬ存ぜぬで切り抜けるのが不可能になった。


「……事情を聞いてきてよろしいですか」

「私も同行しましょう」


 ヤバルの表情は耐えるような苦悶が漏れていた。さすがに隠せなかった。

。。。

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