第1話:セールコーナーの白無地
今回は初ホラーに挑戦です!
怖いって思って貰えるように執筆していきます( . .)"
湿り気を含んだ夜の風が、街灯の光をぬらりと濡らしていた。
仕事の帰り道、ふらりと立ち寄った雑居ビルの地下にある古い古本屋。
カビと埃の匂いが立ち込める店内の奥、雑多に本が積み上げられた「オール100円」のワゴンセールコーナーに、それはあった。
真っ白な本。
表紙にも背表紙にも、タイトルはおろか著者名すらない。
ただの文庫本サイズの、真っ白な無地の本だ。
「……なにこれ、ノート?」
気になって手に取る。
ズシリと不思議な重みがあった。
文庫本にしては妙に分厚く、指先に吸い付くような不気味な手触り。
レジの奥で文庫本を読んでいた頑固そうな店主の元へ持っていき、声をかける。
「すみません、これお会計お願いできますか」
店主はチラリとこちらに視線を向け――そして、心底嫌そうな顔で眉をひそめた。
「あんた、さっきから何言ってるんだ? からかうなら店から出てってくれ」
「え……?」
「何も持ってねえだろ。手ぶらで何を払うつもりだ」
「……っ」
目の前に差し出しているこの白い本が、店主には『見えていない』。
ゾクッと背筋に冷たいものが走った。
気味が悪くなり、本を棚に戻して逃げるように店を飛び出した。
◇
帰り道。
店を飛び出し、ハァハァと息を乱しながら夜道を歩く。
あの不気味な店から離れられたことで胸を撫でおろしていた、その時だった。
カバンの中から、異音が聞こえ始めた。
カサ……パラパラパラ……。
紙が勝手にめくられる音。
カバンの奥から、絶え間なく聞こえてくる。
「……え?」
足を止め、恐る恐る自分のカバンのチャックを開ける。
中を覗き込んだ瞬間、血の気が引いた。
棚に戻したはずの、あの『真っ白な本』が、カバンの一番上におさまっていた。
「ひっ……! なんで……!?」
パニックになりながら、歩幅を速める。
捨てなきゃと思うのに、なぜか手がすくんでカバンに触れることすらできない。
だが、違和感はそれだけではなかった。
街灯の下を通り過ぎるたび、すれ違うサラリーマンも、犬の散歩をする人も、誰も彼もが『顔』をこちらに向けていない。
首だけがぐにりと不自然な角度に曲がり、全員の『目線』が僕の肩にかけられたカバンに注がれている。
誰も喋らない。
ただ、じっとカバンを見つめながら、すれ違っていく。
走った。
足音を夜の住宅街に響かせながら、振り向きもせずに自分のアパートへ逃げ込んだ。
◇
ガチャリと鍵をかけ、ドアチェーンをはめる。
荒い息を整えながら、照明のスイッチを押した。
パッと部屋が明るくなり、いつもの見慣れた自室が広がる。
「……夢だ。疲れてるんだ……」
カバンを開け、恐る恐るあの本を取り出す。
パラパラとページをめくってみる。
――真っ白。
最初から最後まで、文字どころか線一つ書いていない。ただの白紙の束だった。
「なんだ……やっぱりただのノートじゃん……」
どっと脱力し、机の上に本を放り投げた、その時だった。
チカ……チカチカッ……!
部屋の蛍光灯が、不自然に明滅を始めた。
(え……?)
ジジジ、と耳障りなノイズが部屋を満たす。
次の瞬間、部屋の明かりが完全に消えた。
真っ闇。
スマホの明かりをつけようとポケットに手を伸ばした瞬間、背後から冷たい息が首筋に吹きかけられた。
『……ねえ』
低い、湿った女の声。
振り向いてはいけない。
直感がそう叫んでいた。
だが、体は恐怖で金縛りにあったように動かない。
暗闇の中、机の上に置いた『白い本』が、青白く薄ぼんやりと光り始めた。
誰もペンを持っていない。
なのに、カタカタカタと音が鳴り、白紙のページに黒いインクがじわじわと染み込んでいく。
そこに刻まれていたのは――
『……古本屋で本を拾った。店主には見えないらしい。棚に戻したはずなのにカバンに入っていた。帰り道、カバンの中からペラペラと音がする。街の人々がカバンを見つめてくる。部屋の電気は消えた。今、後ろに――』
今、自分が体験している恐怖が、リアルタイムで文字となって書き込まれていた。
悲鳴すら出ない。
ガタガタと震える目線の先で、ページの最後、一番下にポツンと新しい文字が浮かび上がる。
まるで、画面の前の『誰か』に問いかけるように。
『――あなたには、この本が見えますか?』
怖い、次も読んでみたい!って思って貰えたら応援よろしくお願いします( . .)"




