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第二夜 ミランダ

 オリュンポスは本来緊急脱出用の衛星移民船である。急造の砲座やエアシェルが付けられてはいるものの、内部に非常時に移民を載せて移動することのできる都市を備えていた。管制用の人工思考を「アテナ」に委ねたものの、旧型の管制システム、「ポセイディア」の機能も生きていた。彼奴らの力は「ポセィディア」の側から「アテナ」に干渉したらしい。恒星間航行用のミュー駆動機関(ドライブ)は内部から破壊されていた。

 脱出船オリンポスは衛星ミランダを核として建造されていた。クレーターだらけの球体部分と人工物の部分が急造のアンバランスさを強調していた。

 通常駆動機関(ノーマルドライブ)の推力では、敵の要塞を振り切ることは難しかった。俺はパイロット・コンパートメントでの待機中に呼び出される有様だった。

 俺のようなハイクラスの生徒である下っ端を呼び出す物好きが、上層部にいるのがおかしかった。ムーブ・ケーブルで移動中にランブルと合流した。

「なんだ、おまえもか。」

 見合わせるなり、互いに同じ言葉が口をついて出た。

 ブリィーフィング・ルームには惑星パルバナの知事だったアンリオン・ケウスレンとオリュンポスの艦長アルフレイ・マッケレムがいた。そしてその脇にもう一人の男が待っていた。

「君が、アトン準尉を救ってくれたのだそうだね。私が本艦の最高責任者のマッケレムだ。」

「救ったと言い切れるでしょうか。準尉はいまだに集中治療室のカプセルの中です。」

「いや、貴重な人材だ。彼の存在が今までのパルバナの『鉄の腕(アイロン・アームズ)』隊を支えてきたのだからな。」

「ところで、君達にふたつばかり頼みがある。紹介しよう。地球圏政府セントラル・カバメントから派遣されたトゥー・ダッタ・クカニ顧問だ。あとは彼の口から直接聞いてくれたまえ。」

 あのデジタル・ボイスの男がそこにいた。惑星デウカリオンが全滅したときに、たった一人で脱出してきた男だという。あまりいい噂は流れていなかった。人間ではない、器械人だとか、合成人だとか言われていた。どちらにせよ、赤い血が流れていそうにはなかった。

「単刀直入に言う。一つは新型の『鉄の腕(アイロン・アームズ)』を組織するための人選に君達が選ばれた。隊長はランブル・パムナー。補佐にテオス・アーマ・アクアリン。」

「二つ目は敵の戦闘端末を捕獲してもらいたい。もちろん残骸でかまわない。そのための火器も用意してある。」

「フフフ。ずいぶん簡単におっしゃいますが、」

 ランブルは笑いながら答えた。

「俺は正規の軍人じゃないんですよ。それはいいとして中性子線の放射能まみれの残骸なんか艦内に持ち込んでどうするんですか。」

「アテナの分析によればわれわれの生存可能性は十パーセントに満たないのが現状だ。ミュー駆動機関(ドライブ)の修理に必要な資材を手に入れるまで持ちこたえるためには、敵の資料ができるだけほしい。デウカリオンは攻撃兵器の高性能化ばかりに追われて結局全滅した。その兵器のノウハウは君の搭乗する改良型に組み込まれたが、敵の弱点を知らない限り少数の改良型では支えきれない。」

「猫の首に鈴を付けるわけですね。」

「割りのあわん仕事だが、引き受けてはくれまいか。この前の戦闘で優秀なパイロットはほとんど失われた。君のような若者を引きずり込まなければならないのは本当にすまないと思っているよ。」

「なら、」

 あんたが行けばいい。といおうとして、ランブルは口をつぐんだ。

「妹が一人、いるんだ。」

「いま、難民センターで准看護婦として働いているんだが。」

 それは、曇りのない笑顔だった。

「俺にもしものことがあっても、妹の待遇を特2種のままにしてほしいね。」「わかった、それは私の方で引き受けようじゃないか。」

「それともう一つ、アトン准尉を絶対に死なせるな。たとえ半器械にしてもだぜ。」


 出撃は5時間後にやってきた。新型の慣熟飛行どころかシミュレーションすら完了していなかった。

「プロメテウスで出たほうがまだましじゃないか。」

 そうランブルは呟いた。

 ハンガーに出されていた改良型のエピメテウスは3機。パイロットはランブルと俺。もう一人初めてみる少年だった。

「接近する敵影を確認。プリーストタイプの3機編隊」

「出よう。」

 少年ギアンがまず、ハッチに取り次いた。

「よし、プリーストタイプならこの機でもやれそうだ。」

 ランブルが続いた。俺も自分の機のラダーに取り付くとハッチからコクピットに潜り込んだ。

 機体に灯を入れる。今までとは視野がまったく異なっていた。まるでむき出しで、デッキの中にさらけ出されるようだ。

「ループ・ポケット反転。」

 指示の声が頭上から響く。あのデジタルボイスだ。

「気をつけろよ。死のシャワーからは逃げられるが、下手をすると異次元から帰ってこれなくなるぞ。」

「ほんとに、棺桶だなこりゃ。」

 ランブルがはしゃぐ。

 リング・インジケーターの緑の円弧がつながり反転した。コクピットごと、異次元に包まれる。これで、強慣性装置の反動もなく、亜光速戦闘に入れるわけだ。

 デッキゲートが開く。漆黒の闇に星が瞬いた。息がいつものように重く凍りついた。

 リニアカタパルトの磁束加速帯(アクセラレーター)が輝きを帯びる。機体は一瞬にして光速の0.058パーセントまで加速される。まるで角笛のような共鳴音が機体に響き渡る。

「アテナの管制は頼るな。」

 そう俺は呟く。中央の情報処理コンソールに敵との接触までの時間が表示される。チェーンブラスターを構えて、ランブルの機01が突っ込む。少年ギアンの機03はやや遅れているようだ。

 01がまずプリーストの横っ腹にチェーンブラスターの弾体をたたき込む。敵の甲殻を突き破って閃光が飛び散る。

「ひとつめ。」

ランブルのつぶやきが聞こえる。

 俺の乗った02はもう一つのプリーストの膜翼をコロナブレードで切り裂いた。動きがスムーズだ。プロメテウスより、フィードバックがよいのだろう。体に馴染んで動くようだ。

「残りひとつ。」

 俺もつぶやく。

 少年ギアンの03は最後のプリーストに捉えられていた。チェーンブラスターを乱射しているが、背後に回り込まれているため、直撃はしていない。

ランブルが回り込んでコロナブレードで脚肢を切り裂いた。ギアンの03は辛うじて「死の一刺し(デス・スティンガー)」から逃れたのだった。ランブルはさらに、針状の主砲を溶解させ、翼膜をはぎ取っていた。

「その敵を指示通り、ラボに入れてくれ。」

 デジタルボイスが響いた。

「あの男でも、うれしがることがあるのか。」

 ランブルが皮肉をこめて呟いた。

 本船から1リーグは離れて誘導されているラボに3機の捕獲したプリーストタイプをぶちこむと、3人は本船に帰還した。

「あそこで、ばらすのか。異星人の顔も拝めるかもな。」

「本当に生物体が搭乗しているんだろうか。」

 今まで、敵の正体は誰も確認していなかった。


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