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第1章 惑星パンディア

 辺境惑星パンディアに恐るべき敵が来襲した。ハイスクールの生徒に過ぎなかった俺は数少ない鉄の腕(アイロン・アームズ)のパイロットとして迎撃に向かう。

惑星パンディア


 青い水平線が目前に垂直にそそり立つ。黒い宇宙の中に微かな星の光が輝いていた。飲み込まれそうな果てしない崖であった。思わず吐息を吸い込んだが、それすらも体の中で凍っているように感じられた。

 衛星リドの軌道上にある母船ダイダロスからのシンクロメッセージは、敵の来襲を告げていた。本機のメインセンサーでも十機ほどの敵機”トバウト”タイプを確認できる。迎撃のために廃棄衛星の陰に入って待機してから2時間余りが経過していた。

 全長七千キロメートルを越える衛星移民船ダイダロスには、母なるパンディアの大地を追われた二万人以上の人々が収容されていた。それを護衛する有効戦術兵器はわずか十機にも満たない、「鉄の腕(アイロン・アームズ)」と称されるMC12N プロメテウスだけであった。その一機の中に俺テオスはいた。

 シンクロメッセージは敵が無人機動砲の防衛線を突破し、肉薄しつつあると告げていた。メインセンサーで確認できるだけでも五十機以上の”トバウト””ラビ”タイプが、焼けただれて赤いクレーターだらけとなった惑星パンディアのエリシュオン大陸を背にしながら接近しつつあった。

「全機アイドリングより戦闘モードへ切り替えよ。敵との接触時間推定二分三 十秒後。ダイダロスのメインエンジン始動まであと二時間を要する。それ まで敵機をD圏外にとどめること。」

 ダイダロスの戦闘管理システム「アテナ」からの直接指令が飛び込む。俺はコンソール中央の赤いレバーを下げ、機体を戦闘モードへと切り替えた。

僅かなジャイロの振動音をたてながら、眠りこんでいた巨人は目覚めようとしていた。複合センサーが情報を投影しはじめた。

 人型の巨大な鉄鋼騎神アイロン・アームズ・ドデカオンは四肢に動作確認の信号を送り出す。左肘の間接の反応がやや鈍かったが、一日おいての出撃だけに、他の部分の整備には心配はないようであった。

 主力振動炉の出力が上がり、火器へのエネルギー供給が開始された。チェーンバスターと呼ばれる、振動弾を高速で射出する主砲のほかに、僅かなレミングミサイルと接近用のコロナブレードだけが現在使用可能な兵装である。だが、無人機動砲の花火をかいくぐってくる敵機にレミングミサイルの効果は期待できない。

「一人五機か。」

 出撃前にベルゲシュタイン大佐がそう言ったのを思いだした。

「穴蔵の中にいられる奴は簡単に言うが。」

 本来二人乗りのプロメテウスにすら満足な搭乗者が確保できず、ハイクラスの生徒である自分までが駆り出された。彼奴らの来襲で人口の四十二パーセントが一夜にして失われたことを考えればやむを得ない処置であった。

 移民開始時の移民約款に基づき築かれていた緊急脱出用衛星移民船ダイダロスは百年ちかいパンディア開拓の歴史の中で、その存在を忘れられていた。

 彼奴らが射手座の植民星エンデーイスに現れ、十年近くたっていたが、その間にメインエンジンのテストが数度繰り返され、時代遅れの兵器が本星から積み込まれるだけであった。本格的な危惧を移民局やパンディア管理政府が抱いたのは一年前の事である。地球政府から専門対策機関が派遣され、当時唯一有効とされていた人型の白兵戦闘機の建造が開始された。隣接する植民星デウカリオンに銀河前衛軍の本拠が設置されたのが半年前で、そこが壊滅してから一月後に初めて敵の来襲を受けたのである。パンディアにある四つの大陸のうち最も開発の進んでいたヘルセー大陸はほとんどが焦土と化した。無人防衛ラインはいとも簡単に突破され、敵の惑星攻撃用兵器はパンディアの大地を一夜にして灰に変えたのである。当時、夜に属していた、アフロディーテ大陸の人々だけが辛うじて直撃を免れ、衛星移民船ダイダロスへと逃げ込んだのである。

 ハイクラスの生徒である俺達もモジュールと呼ばれる初期型の「鉄の腕」での訓練が義務づけられていた。この兵器は従来の人口思考による制御を受けておらず、扱いにはかなりの柔軟性と適応力が必要であり、若い世代の方が熟練するのも早かった。移民星の暮らしの中にはまだまだ自動化が進んではいなかったが、それでも人口思考の助けを借りずに生活していくことなどは考えもつかないことであった。

 人類は星間戦争にすら有効な兵器を数多く開発していた。中には小規模な恒星系ごと噴き飛ばすような強力なノヴァ兵器などすらあった。しかし、こうした兵器の運用を完全に人の手で行うことは不可能であった。これが、彼奴らとの戦いで人類側の致命的な欠点となった。何重にも遮蔽された機動要塞の戦闘管理システムですら、奴らとの戦いの中では役に立たないまでに影響を受けていた。人工思考の支援を失い、連携も運用すらも、銀河進出以前の原始的な戦闘に逆戻りしていたのである。ようやく開発された次世代の人工思考を利用して、汎用戦闘用に開発されたものが「鉄の腕(アイロン・アームズ)」プロメテウスであったが、各部の制御以外の戦闘管理、火器管理といった部分は人の判断を必要としていた。

 地球から派遣された専門対策機関がダイダロスの戦闘管理システム「アテナ」を開発したが、ここまで大規模な次世代人口思考の運用は、壊滅したデウカリオンでのみ行われていた。

 ふいに同じ廃棄衛星にいる僚機07が手を振った。07に乗るのは俺より一つ上のランブル・パムナー、たしかハードボール部の主将だった男だ。敵の通信妨害のために鉄の腕(アイロン・アームズ)同士の交信は不可能であったが、マニピュレーターの親指だけを立てたキープサインは共に生き残ろうという合図だ。

「もちろんだとも。」

 俺は応えるようにキープサインを返した。足の震えが止まらなかった。実戦の経験は地上での模擬戦闘時の対奇襲戦を含めても四度目に過ぎなかった。今までは経験豊富な職業軍人に囲まれての戦闘であった。今回ほどの過酷な状況での戦闘は初めてであった。

 前衛の鉄の腕(アイロン・アームズ)が戦闘を開始した。牽制にしかならないレミングミサイルが真空に光球を幾つもつくり出す。そのうちの二、三は敵を捕らえさらに膨れ上がった。重力波を乱しながら最初の獲物が、俺達の前に躍りでた。ランブルがレミングミサイルを敵の”トバウト”の蟹の腹のような中枢部にぶち当てた。光球が廃棄衛星を包み込む。間一髪で飛び出しながら、俺は二機の”ラビ”をチェーンバスターでしとめる。奴らの装甲は厚く、半ばめり込んだ振動弾が融爆してとどめを刺すまでに若干の間があった。しかし無駄弾は撃てない。機体運動で回避しながら次の敵機をセンサーが見つけだす。この空域だけですでに五機の敵を倒した。ほんの僅かな静けさが訪れた。

 ランブルはあと半分だと言わんばかりにマニピュレーターをのばして合図した。その時だった。背後から”ラビ”が07の左腕を捕らえた。奴らの攻撃は接近して、直接接触し、「死の一刺し(デス・スティンガー)」と呼ばれる針状の火器から大量の中性子線を放出するものだった。鉄の腕のコクピット周囲は遮蔽されてはいるものの中性子線を直接差し込まれたら、パイロットは一たまりもない。

「動くなよ。ランブル。」

 ここからでは届かないだろう叫びが、バイザーの中を響きわたった。逡巡する余裕はなかった。チェーンバスターが火を噴いた。振動弾は07の左腕を貫通し、”ラビ”の触手幹にめり込んだ。ランブルが気を失っていたら、すべてが終わりだ。誘爆までの間に回避しなければ。気の遠くなるような一瞬だった。 ランブルの07はきしみながら左腕を残して、”ラビ”から離れた。爆発時にも死の放射線をまき散らす彼奴らに、自動反応の遮蔽波で対処する。機体や人体へのへの影響を考え、数秒しか維持できないが、ぎりぎりの安全機構であった。

 ダイダロスの戦闘管理システム「アテナ」は07への帰投命令を下さなかった。通常機体の損傷が三十パーセントを超える場合は戦闘続行不可能とみなされる。自主判断による帰投も許されている。

「平気だ。まだやれるぜ。」

 ランブルはそう言いたいのだろう。”トバウト”を五機以上チェーンバスターで葬った後、残った右手でピースサインまでして見せた。作戦開始から一時間四十五分が経過していた。前衛の四機のうち三機までが半壊し、一機は機能していなかった。それでも帰投命令は下されなかった。

 最前衛のアトン準尉の01は唯一無傷であったが、02・03・04の僚機を後方に下がらせたために孤立しかけていた。後方では、新参兵の12が大破して、パイロットのリャンごと融爆していた。ランブルは下がってきた03を連れ、廃棄衛星の残骸の中に身を隠した。03のパイロットは初老の店員スチュワートであったが、「死の一刺し(デス・スティンガー)」を脇腹にうけて、虫の息であった。02のヤーコフ参尉は俺に続けと合図をすると、四肢のうち残った左腕だけに04のチェーンバスターを抱えて、アトン準尉のいる宙域へ戻っていった。俺も後に続いた。01から17まである九機の鉄の腕(アイロン・アームズ)、それに乗るパイロットのうち生え抜きの軍人はこの二人だけであった。

アトン準尉の01を7機以上もの”トバウト”が取り囲んでいた。ヤーコフ参尉の10のチェーンバスターが火を噴いた。俺は残っていたレミングミサイル全弾をたたき込んだ。四機の”トバウト”が火を噴いた。アトン準尉が放ったチェーンバスターが二機の敵機を沈めていた。あと一機がアトン準尉の01に飛びかかった。俺は覚悟を決めてチェーンバスターの照準を定めた。流れ弾が当たるかもしれないが、このままでは「死の一刺し(デス・スティンガー)」が確実にアトン準尉の命を奪うだろう。残弾は三発である。連射モードから切り替え、トリガーを引いた。そのすべての判断が二秒ほどで行われた。振動弾が虚空を切り裂いて敵機に突き刺さった。融爆までのもどかしい時が流れる。”トバウト”は火を噴きながらも、惰性で01にぶつかった。死の放射線がまき散らされる。01は、その炎をかいくぐって姿を現した。

「全機に告ぐ。帰投を許可する。」

 遅すぎる指令が戦闘管理システム「アテナ」から出されたのはその時であった。ダイダロスのメインエンジンが帰投するわれわれの姿を虚空の中に浮かび上がらせるのだった。

「全機、ダイダロスの運行に支障のないよう、Aブロックの18デッキに着

艦するように。」

 違う。これは「アテナ」の独特の直接指令の音声ではない。もっと器械的な、デジタルボイスだ。こんな声を出す人間はダイダロスには一人しかいない。地球から派遣された専門対策機関のメンバーに「器械じかけ(マシーンボディ)」と呼ばれる奴がいた。あいつの声だ。

「アテナの遮蔽システムに欠陥が発見された。メインエンジンのみの航行で本宙域を離脱する。諸君らの健闘に心から感謝する。」

 どうやら捨て駒にされずにすんだようだ。傷だらけの「鉄の腕(アイロン・アームズ)」が18デッキのエアシェルの中に吸い込まれていく。その時だった。俺は見た。母なるパンディアが赤い亀裂を深めやがて砕け散っていくさまを。



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