思いがけぬ出会い
下宝田集落の地元民の墓は多嘉良川上流の方側の山腹にある。地元民が墓参りをするにしては、村の墓地とは反対方向に行くのは変だ、と、玲也の直感が告げる。玲也は道の反対側を俯き加減で歩く中学生くらいの少女に声をかけた。「お墓参りですか!?」、すると、少女は驚いたような表情で顔を上げ、玲也の方を見ながら「あ、いえ……」と否定のような、そうでないような曖昧な感じで言葉を濁らせた。
「もしかして、川村さんのお兄ちゃんのお墓参りですか?」と聞くと、今度は胡乱気な表情で「なんでそれを?」と問い返してきた。「僕は川村さんと同じクラスなんです。それで、川村さんがなくした「たからしまのちズ」って書いてある紙を見つけてあげたことがあるんですけど、その内容が気になっちゃって、そのことを教えてもらおうと思ってたんですけど……」と、ここまで言って、玲也は言葉をつまらせる。言いたいことと言うべきことがごちゃ混ぜになってきたのだ。
少女は気の抜けたような表情で「そう」と言うと、また俯きかけながら言った、「今日は和彦くんの命日なの」。「めいにち?」と玲也がオウム返しに問うと「人が死んだ日のことを『めいにち』って言うんだよ」と彼女は教えてくれた。「川村くんが死んだ場所に行くんですか?」と尋ねると、少女は悲しげな表情で「うん」と答えると、おもむろに顔を上げて玲也の頭上にある歩行者用信号を眺めた。彼女は玲也がいる側に行くつもりだったらしく、横断歩道の信号が青に替わるのを待ってから、自転車を降りて待っていた玲也の側まで来た。彼女は今にも泣き出しそうな顔を玲也に向けて「あとで『たからしまのちズ』のことを教えてあげるね」と言った。
それから、2人は宝田大橋南西側から南に伸びている歩行者専用の土手道に繋がっている水門橋を渡った先にある水門整備用階段を降りて、水門下流側の河川敷に降り立った。そこから見える川面には、時折不気味な渦が波打つ淵があった。本流から用水路へは直角に近い形で分岐している上に川底の深さが違うため、水流が不安定になっているので淵になっているのだ。
玲也が川岸から1m程離れたところから川面を見ていると、少女が川岸まであと50−60cmというところまで近づき、しゃがんでから手に持っていた花束を川岸にそっと置くと、ゆっくりと両手を合わせるのだった。少しすると、少女のすすり泣く声が聞こえてきた。玲也は階段の方まで戻ると階段に座ろうとしたが、朝から昼下がりまで焼け付く日差しに焼かれたコンクリートの階段は熱くて適わなかったので、階段脇の草の上に腰を下ろした。
ぼんやりと川面を眺めながら、彼女は一体いつまでここにいるつもりなんだろうと思い始めた頃に、少女が不意に立ち上がって玲也に近づいてきた。「ゴメンね、つき合わせちゃって」と少女に声をかけられて玲也は我に返った。「え?おr……僕が勝手についてきただけだし」と素が出そうになって慌てて取り繕う。「『たからしまのちず』だっけ?約束どおり話すね」と言う彼女に玲也が頷くと、彼女は話し始めるのだった。




