ずぶ濡れでの帰宅
玄関に入るとすぐに母親がリビングから出てきた。彼女は「フフッ、ビショビショじゃないの、どこに行っていたのよ」と言いながら手に持っていたタオルを玲也に手渡す。玲也は受け取った タオルで頭を拭きながら「ちょっとね」と言ってごまかした。川村玲子と一緒に多嘉良橋まで行ってたなんて死んでも言えない。頭と顔を拭きながら玄関のすぐ近くにある風呂場の出入り口前に行き、そこにある洗濯機の縁にタオルを掛けると洗濯機の中に脱いだ服を入れて風呂場に入った。その直後、彼の母は玲也が掛けたタオルを使って濡れた床を拭いていき、その後、そのタオルを洗濯機の中に放り込んだのだった。
川村和彦のメモ帳の1ページをちぎり取って川村早希に提供したのは誰なのか。シャワーを浴びることで体が温まってくるのを感じながら、玲也はずっとそれが気になっていた。まさか、彼女たちはその少女まで手にかける気なのだろうか?だとしたら、それは何か違うような気がした。どういう経緯かは判らないものの、他の少年たちは素行が悪いという噂もあり、殺されても仕方がないような気がして同情する気さえも起きないし、昨夜見た限りでは、いくら深夜とは言え普通に信号無視をしていくような奴なのだ。誰も見ていなければ平気で悪いことをする人間であることが伺い知れる。だが、その少女はどうだろうか?彼女たちにとって大切なのは、7人の生贄を揃えることなのだろうか?それとも復讐なのだろうか?様々な考察がごちゃ混ぜになって頭の中を駆け巡り、考えがまとまらなくて困っている間に夕方になっていた。
午後6時半頃になって父親が帰ってく来て玲也を風呂に誘ったが、夕方に入ったから良いと断る。玲也の母はそのいきさつについて簡単に夫に告げると、彼は納得して一人で風呂に入った。玲也の父が風呂から上がるまでにその妻は夕飯の準備を済ませるのだが、彼女は風呂の話で部屋から出てきた玲也に食卓を整えるよう命令し、二人で夕食の支度を整え終わったタイミングで父親が風呂から出てくるのだった。
そんな感じで夕食の最中に母親が尋ねてくる、「それで、昼過ぎに何をしてたの?夕立でずぶ濡れになるまで」。都合が悪い質問に、玲也はうつむいたまま何も言わなかった。右斜め向かいから猛烈な視線による圧を感じる。「秘め事?」となおも尋問を続ける母だったが、それを見かねた彼女の夫が「まあまあ、玲也もそろそろ隠し事の1つや2つくらい出来る年頃だろう?」と楽観的なことを言うのに対して「まだ8歳なのよ、ちょっと早すぎない?」と、まだまだ我が子を赤ちゃん扱いしたがる母親なのだった。ちなみに、玲也は”秘め事”の意味が解らなかった。




