真相
玲子が落ち着くまで待ってから、玲也はこれまでのことを話した。フジショーがたからしまのちズのメモを持って来てから、その内容について自分たちなりに調べていたこと。その一環で島神社にも行ったこと。図書館で宝田村の歴史や7年前の事件についても調べていたこと。7年前の事件を詳しく調べようとしたら、図書館の偉い人で田島という男に邪魔されたこと。たからしまのちズの内容は、昔の出来事をもとに作られた民謡ではないのか?ということを。しかし、このメモの内容について玲子が母親に聞かされていたのは7人の生け贄を捧げると1人の子が帰ってくるといことだけで、本当の意味は分からないということだった。
「吉祥天の祟りなのであれば、台風とかで洪水になった時に溺れ死ぬ子供が出るはずなんだけど、先月とこの間のは違うよね」ふと見ると、玲子がものすごく怖い目つきでこちらを睨んでいた。「吉祥天が行方不明になった後の洪水で8人の子供の死体が多嘉良島に打ち上げられたんだけど、本当の吉祥天の死体は、とっくの昔に太田市で見つかっていて、太田市で埋葬されたらしいんだ、だから、今、お墓にいるのは吉祥天じゃないんだって」「その後の洪水では7人の子供の死体が打ち上げられ、伊勢湾台風の時も子供の死体が7人打ち上げられた」「でも、去年の2人と今年の2人は別々に死んでいるから吉祥天の祟りじゃない」「つまり・・・」
そこまで言いかけたところで玲子の指が玲也の肩に食い込んだ。「痛いっ!やめろよ!」と懇願するも、玲子は恐ろしい形相で「何が言いたいの!?」と半ば脅すように問いかけてきた。「あの時、橋にいたのは、あの村のやつらが来るのを待ってたんだろ」「あんたには関係ないでしょ」「昨日の夜遅くにバイクの前に飛び出したのも・・・」と言ったところで玲子の顔が青ざめた。「み、、、見たの?」「たまたま水を飲みに起きてきたらパトカーが見えたから、そのままずっと見てたんだ、あの後、救急車とかも来て、結構あっちこっちのベランダから人の声がしていたから、ベランダから野次馬してたのは俺たちだけじゃないよ」というと、玲子は玲也の肩から手を離した。
「バレてた・・・クソ・・・」とつぶやく彼女の眼には悔し涙が浮かんでいた。「おまわりさんに見つからないようにするために夜遅くまで隠れながらこの橋を使って帰ってきたんだろ?そんで、目立たないように階段で上がって行った・・・。9階まで上がるなんて大変だろう?」という玲也に、玲子は何も言わず、ただ放心状態になっていただけだった。「走っているバイクの前に飛び出すなんて無茶苦茶だよ、もし相手がよけなかったら君がはねられてたんだぞ?危ないじゃん。お兄ちゃんの復讐をするために君が死んだら元も子もないじゃん」と言うと、「だって・・・仕方がないんだもん」と玲子は答えた。「お母さんにやらされてるの?」と問うと彼女は小さく頷いた。「怖くないの?」「怖いけど、お母さんが怒る方が怖いもん、それに、うまく行くと・・・褒めてもらえるんだもん」とこぼす玲子。
「もっと別の方法でやれるんじゃないの?あと何人?」「あと1人」「え?昨日の人は死んだかどうかわからないじゃん」「用水路の中に落ちたし、バイクが上に乗っかってたから大丈夫」「じゃあ、あと1人か・・・」といってふと目を上げると、玲子と目が合った。にじり寄る玲子、後ずさりし始める玲也。「俺を殺しても復讐にはならないだろ?」「生贄」「関係ない人を殺しても生贄になるのかよ?」ここまで言って、玲子は止まった。「何でもいいから生贄を殺せばいいの?それとも、お兄ちゃんを殺した奴に復讐をしたいの?」それを聞いた玲子は動きを止めて、ぽつりと「わからない」と言いながら視線を落とした。
ここまでのやり取りの間に辺りは急に暗くなってきていた。橋の下にいたので元々薄暗いところにいたのだが、外が急に暗くなっていることに2人はようやく気付いたのだった。2人とも腕時計なんて高級なものは持っていなかったので現在時刻などわかりようもなかったのだが、実際のところ、時間は午後3時半を回るころだった。遠くの方、山の方から雷鳴が鳴り響き始めたことから、彼らはもうすぐ夕立が降るであろうことに気づいた。「とにかくさ、今の話は内緒ってことにして、今はうちに帰ろう」そういうと玲也は橋の下から出ていき、玲子はその後ろについてくるのであった。
多嘉良橋の下から出て町役場に向かう道路を歩き始めるが、湿った臭が強くなり始め、雷鳴が近くなってきたために小走りにはしり出す。走り出してすぐに後ろを振り返ると、玲子もちゃんと玲也の後ろを同じ速度で走っているようだった。町役場の前につくころにはぽつぽつと大粒の雨粒が落ちてきて、アスファルトが濡れた時の臭いでむせ返る程だった。図書館の前に差し掛かるころには雨脚が強くなっており、小学校の前を通るころには土砂降りになってきていた。この雨粒が痛いのだ。小学校で雨宿りをするという手もなくはないのだが、男女二人で入っていくと、部活などで登校している生徒や教師に見られて後々面倒になるのでそ選択肢はなかった。少し振り向いたが、玲子も学校はスルーするつもりのようだったのでひたすら走り続ける。結局、2人はずぶ濡れの状態で自分たちが住む高層住宅のエレベーターホールに到着した。
今回は流石に玲子も階段であがる気はなかったらしく、玲也がエレベーターのホールボタンを押すのを確認すると玲也の後ろに控えていた。丁度1階にいたエレベーターはすぐに扉が開く。玲也が先に中に入り込んで5階と9階のボタンを押す。「自分でやりたかった?」と聞くと「ううん」と彼女は答えた。「復讐、成功すると良いね」と玲也はぼんやりと言うと玲子も小さく「うん」と答える。「ううっ!寒っ!パンツまで濡れて気持ち悪い!」と言うと、玲子は少しだけ笑った。そこで5階に到着したので玲也は「じゃあね!」と言ってエレベーターから降りた後、振り向いて手を振った。すると、閉まり出したエレベーターの窓越しに玲子が小さく手を振っているのが見えた。心なしか、彼女が微笑んでいたような気がした。




