自宅で悶々
帰宅した時、母親はTVをつけっぱなしの状態でリビングで寝ていた。他人様には見せられたものではないほどのあられもない姿に息子の玲也であっても情けなさを感じるほどの醜態だったが、起こすと物凄く機嫌が悪くなるので、玲也は彼女を放置しようと心に決めた。だが、丸出しのお腹をぼりぼりとひっかきながら「ごはん・・・」などと寝言を言うなりお腹が鳴っているのを見ると流石に笑えてくる。夏とは言えお腹を空気にさらした状態で寝ると寝冷えするだろうと、両親の寝室から母が使っているであろうタオルケットを持ってきて、彼女のお腹から太ももまでを覆うようにタオルケットを掛ける。TVを消してから自室に行くまでの間に思い浮かぶのは『彼女はどんな気持ちでバイクの前に飛び出したのだろうか?』ということだ。
自室に行くと勉強机の上に母親が書いたであろうメモが置かれていた。そのメモには、玲也が出かけてからしばらくしてフジショーが訪問してきた旨が書かれており、彼女が「玲也は島野君の家に呼ばれて行った」と言うと「わかりました」とだけ言って帰って行ったとのことだった。シマオがフジショーを呼ばなかったので、玲也はフジショーを誘はないほうが良いだろうとは思っていたのだが、なんだか彼のことを仲間外れにしたみたいで申し訳ない気持ちになってきた。そのメモを机に戻して椅子に座ってみたが、なんとなくもやもやして宿題には手をつける気にはなれない。かといって、本や漫画を読む気にもなれなかった。
机に据え付けられている書類棚の左手前に積み上げてあるノートの類の中から自由帳を掘り出す。シマオのように書けるかどうかはわからないが、空白のページをめくり出すと書き始めた。
去年2人、先月1人、今月1人、昨日1人 ← 生きているか死んでいるかはわからない
生贄は7人だから、昨日の事故の被害者が死んだとすれば、必要な生贄はあと2人だ。島神社で玲子に出会った時点で必要な生贄は4人だったので、自分たちが進んで生贄として溺れ死ねば必要な生贄は残り1人となる。それで彼女は自分たちに向かって「あんたたち、生贄?」と言っていたのだろうか?そのとき、雷にでも打たれたかのように玲也はひらめいた。『もしかして、”たからしまのちズ”って、川村さんのものなのでは?』と。
思い立ったが吉日で慌てたように部屋を出る玲也。リビングでは母親が幸せそうな寝顔で寝息を立てていたが、相変わらずお腹が鳴っている、息子が他所で昼飯を食うという報せを島野夫人から聞いた彼女は、おそらく、昼飯をキャンセルしたのだろう。彼女は物凄い面倒くさがりなのである。そんな彼女を一瞥すると玲也は自宅を出てエレベーターホールに向かう、と言っても、玲也が住む5号室と6号室の間にエレベーターホールがあるので、数秒ほどで到着する。下行のホールボタンを押すと、エレベーターは9階から降りてきたが、先客がいた。




