シマオの母の性癖
朝ご飯が終わったタイミングで電話が鳴る。母親が電話に対応し、シマオからの要件を背中越しに伝えてきた。いつも通り朝食後の皿洗いを終わらせると、玲也はシマオ宅に向かった。要件はわかっている、昨日の夜、玲也がベランダで見たことについてだ。シマオ宅の呼び鈴を押すと、店の客にさえそんな笑顔話見せないのではないか?と言う位のびっくりするほどの笑顔で島野夫人が扉を開けてきたのだった。
今回はシマオの自室ではなく、居間に通された。居間のソファーには、2つ並んだ一人掛けソファーにシマオの父親が座っており、ローテーブルを挟んだ向かい側のベンチソファーにシマオが座っていた。玲也が居間に入ってくると、シマオは玲也に顔を向けて口パクをする。シマオはよほどのことがない限り大きな声を出さないのだ。2人に挨拶をすると、シマオの父親である吉政にシマオの隣にかけるよう勧められてベンチソファーに座る。ちらっとシマオの顔を見るが、彼は何やら考え込んでいるようで、ローテーブルの上に広げた自分のノートを見る姿勢で固まっている。「正雄がこうなるとどうしようもないんだよ」と彼の父親が困ったように言うが、そんなことは幼稚園のころから知っている。
シマオの母・雅子が盆に4人分の飲み物と菓子の入った鉢を載せて持って来た。紅茶のカップを夫と自分の席の前に置くと、ジュースの入ったコップを玲也とシマオの前に置き、ローテーブルの中央に菓子が入った鉢を置くと着席する。彼女は気味が悪いくらいに終始とびっきりの笑顔であるために、夫の吉政は彼女の表情を見ながら苦笑いを浮かべているのであった。そう、スキャンダルやゴシップネタは彼女のご馳走なのだ。ノートに目を落としていたシマオも着席した母親の顔を一瞥するとため息を漏らす。
着席した雅子は開口一番「玲也くんをお嫁に欲しいわ!❤」と宣言した。絶句する玲也、謝罪するかのように玲也に向かって手を合わせる吉政、そして、頭痛を抑えるかのように眉間をおさえるシマオだった。彼女こそ、後の汚蝶腐人である。「ん?あ、違うわ、正雄のほうが背が小さくてかわいいから、玲也君がお婿さんね~❤お婿さんかぁ~❤❤❤」玲也は完全に固まり、|滅多〈めった〉に声を荒げないシマオが「いい加減にしろ!」と怒鳴りつけた。「うふふ、冗談よぉ、じょ・う・だ・ん❤」と言ってごまかしていたが、玲也は彼女の目がなんとなく本気だったような気がして空恐ろしくなった。
いくら温厚なシマオでも流石にBLネタは許し難かったらしく、母親に対して物凄い文句、というよりは、かなり強めの苦情を述べていた。シマオの父で彼女の夫でもある吉政は「いや、流石にそれはないわ」とたしなめていた。「けち!」とかわいく頬を膨らますと、「それじゃ、昨夜のこと、改めて聞かせてもらおうかしら?」と、彼女は無理やり話を本来の方向に捻じ曲げると、玲也は渡りに船とばかりに、昨夜の夜遅くにベランダで見た出来事を語ったのだった。




