表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たからしまのちズ  作者: まろやかポン酢風味
7年前の事件
66/87

雅子参戦

4人がけテーブルの通路側(つうろがわ)玲也(レイヤ)もシマオも座っていたのだが、雅子(まさこ)は玲也の(となり)椅子(イス)を引き出して、その椅子に玲也を()したので、玲也はその椅子に(すわ)りなおさざるを()なくなった。そして、さっきまで玲也が座っていた息子の真向(まむ)かいの椅子にどかっと(こし)()ろした雅子は息子(むすこ)の目を真正面から見据(みす)える。息子、シマオは、一瞬(いっしゅん)だけ母親と目を合わせると、自分の作品(さくひん)へと目線(めせん)を下ろす。それにつられて雅子の視線(しせん)もシマオの作品に(うつ)る。


「へぇ〜」と言いながら、彼女は無遠慮(ぶえんりょ)にシマオのノートを自分の手前(てまえ)に引き寄せながら1回転させる。数瞬(すうしゅん)目を通すと「あら?この記事(きじ)ならうちでとってあるわよ」と言いつつ(せき)を立って、控室(ひかえしつ)(すみ)に3段重(だんがさ)ねにしてあるダンボールの中段(ちゅうだん)を取り出してきた。そのダンボールをテーブルの通路側の(わき)に置くと、しゃがんで箱の中をまさぐり始めた。しばらくして、玲也たちが見てきたものと同じ日付の新聞と、他にも日付違(ひづけちがい)いの新聞も出してきた。


地元(ぢもと)人達(ひとたち)との話題(わだい)合わせのためにと、自宅(じたく)ではとっていない地方紙(ちほうし)店舗(てんぽ)の方ではとっているのだ。客が順番(じゅんばん)()ちの間に読めるように、新聞の(たぐい)漫画雑誌(まんがざっし)(るい)、それと美容室(びようしつ)なので、当然(とうぜん)、ヘアカタログとファッション雑誌(ざっし)定期購入(ていきこうにゅう)しているのだ、もちろん、経費(けいひ)で。さらに、地方新聞の中でも、こと、宝田町(たからだまち)に関わる記事があるものはこのようにダンボール箱に()めて保存(ほぞん)していたのだ。(あと)因果関係(いんがかんけい)裏取(うらど)りができるようにと。なんの因果関係のことなのかは企業秘密(きぎょうひみつ)である。


当時の新聞記事の内容からすると、事件に関わっていると(うたが)われたのは下宝田(しもたからだ)地区(ちく)の子供たち8人で、その内の2人の少年と1人の少女は、当初(とうしょ)、地元グループで一番年上(いちばんとしうえ)の男子が死亡(しぼう)した少年を()き落としたと証言(しょうげん)していたが、(のち)に、彼らの親たちから「警察(けいさつ)(おど)されてそう言っただけで事実無根(じじつむこん)である」という異議(いぎ)(もう)し立てにより、それらの証言は無効(むこう)となった。その()5人の少年は黙秘(もくひ)(つらぬ)いたようだった。この8人の(うち)、小学校に上がっていた子供は7人で、もう一人は翌年(よくねん)就学(しゅうがく)予定(よてい)未就学児(みしゅうがくじ)だった。それ以外の村の子供1人は2歳で、当時は親と一緒M(いっしょ)にいた。


8人の子供のうち、小学1年生の2人と未就学児1人の証言が事実(じじつ)であるとすれば、田島本家(田島守親(たじまもりちか)末裔(まつえい))の長男(ちょうなん)首謀者(しゅぼうしゃ)であり、突き落としの実行犯(じっこうはん)であったことになるが、(ほか)の7人は被害者(ひがいしゃ)()げられないように取り(かこ)んだり、本家(ほんけ)の長男が被害者(ひがいしゃ)を川に落とすのを見守(みまも)っていた共犯者(きょうはんしゃ)ということになる。そして、去年(きょねん)死んだのは長男の取り()きだった男子3人で、今年の7月になくなったのは証言を取り消した子供で当時小学1年生だった少年だ。先日亡くなったのは首謀者と(もく)されていた田島本家の長男。なぜそういうことが分かったかというと、()くなった少年たちの死体発見当時(したいはっけんとうじ)年齢(ねんれい)から逆算(ぎゃくさん)したからだ。


例の事件に関わっていた若者(わかもの)が死に、その葬式(そうしき)()ませて職場(しょくば)に戻ると、(れい)の事件を()ぎ回っている子供がいる、関係者(かんけいしゃ)にとってこれほど不都合(ふつごう)なことはないはずだ。田島主任司書(しゅにんししょ)はそういう理由で豹変(ひょうへん)したのだろうと雅子は自分の推理(すいり)を述べた。得意(とくい)()に語る雅子はどう見てもノリノリだったので、玲也は不思議(ふしぎ)そうな面持(おもも)ちで彼女の顔を見ていた。「あなた(たち)のおかげで、なんで地元の人が『(たたり)だ』って言うのかわかったわ!」などと、とても(うれ)しそうに話を続ける雅子は「江戸(えど)時代(じだい)のときの事件とほとんど同じじゃない?流石(さすが)レイヤくん!」と付け加えてレイヤのことを(おだ)てた。


そこに「それだけでは殺した理由(りゆう)にはならないよ」と水を差すシマオ、「村の子たちの動機(どうき)は?彼らと川村(クン)との間に何があった?村の人たちと川村君のお母さんとの関係は?」「川村さんは7年前のあの事件の前まではウチを利用してたのよ、でも、あの事件以降(いこう)来なくなったわね。あ、彼女は”上宝田村(かみたからだむら)”の出身なのよ。ただ、小さい子供と赤ちゃんを連れて上宝田に行くのは難しいから、(ぼん)(まつり)りの手伝(てつだ)いは下宝田村の方・・・」と最後に言いよどむ雅子。「上宝田村の人たちは、大昔、下宝田村の人と喧嘩(けんか)して別れたんじゃなかった?」と割り込む玲也に「喧嘩じゃなくて、代官(だいかん)の田島に反発(はんぱつ)して出て行ったんだよ。それに、上宝田村の人たちは清右衛門(せいえもん)早希(さき)を慕っていたし、その息子の吉祥天(きっしょうてん)粗末(そまつ)(あつか)われたことにも反感(はんかん)を持っていたと思う」と正確(せいかく)分析(ぶんせき)()べるシマオ。雅子は物凄(ものすご)得意気(とくいげ)な顔をしていた。『やっぱうちの子は天才だわ~~~』と。


「え~、じゃ、サキのたたりじゃないんだ・・・」と言う玲也の発言を聞くと、雅子ははっとした表情(ひょうじょう)になる。「なんか知ってるの?」とシマオが母に問うと、「川村さんの下の名前は”早希(さき)”よ」と言う雅子の顔色が暗くなる。「えっ!!せーえもんさんのお嫁さんと同じ名前じゃん!」とはしゃぐ玲也。「だからって”(たた)り”だって言うのは科学的(かがくてき)じゃない」とシマオがクールなツッコミを入れるも、「実は、同じ名前を付けるとエドジダイの祟りが起こるのじゃぁ~」とふざけ始める玲也は「玲也くん、不謹慎(ふきんしん)ですよ」と雅子に(とが)められるのであった。


「祟りを知ってるなら同じ名前を付けないだろ」と、いつも通り、容赦(ようしゃ)なくシマオにぶった切られる。「逆なんだよ、多分」と続けるシマオの(げん)に「逆?」と、玲也と雅子がハモる。「うん、恩人(おんじん)の名前を忘れないように、自分の家に生まれた女子の名前は”早希”にする、とかね」とシマオが推理を述べる。「江戸時代の話が本当なら、そういう考えになるのもおかしくはないわね」と雅子が同意する。「どういうこと?」と自分だけのけ者になったような感覚になりながら玲也がぼやくと、シマオが説明する「前に下宝田の農家の人が言ってたんだ「すえよしの家のあの伝統(でんとう)、やめてもらいたいもんだよねぇ、100年以上前に死んだ人の名前を自分の子供につけるから祟られるんだよ」ってね」


「”末吉”って”まつきち”とも読めるし、”すえよし”とも読めるわね、そうだとすれば、川村さんのお母さんが上宝田村の”すえよし”の出身だということになるわね。つまり、彼女が上宝田村の人と言うのは確かね」と雅子が考察(こうさつ)を述べた。「え~、やっぱりたたりなんじゃないの?」と、あくまでも”祟り”説を()す玲也に向かって「それはない」と表情を変えずに(だん)じるシマオ「祟りなんて言い訳だ、人間のやることなんだから、やった人たちに動機がある、絶対に」と。「それもそうね、”祟り”のせいにしてうやむやにした方が、悪いことをする人にとっては都合(つごう)が良いものね」と雅子も納得(なっとく)する。だが、その実、彼女は自分の息子の聡明(そうめい)さに空恐(そらおそ)ろしくなりながらも非常(ひじょう)(よろこ)ばしくもあり、少し複雑(ふくざつ)心境(しんきょう)だった。


問題は、新聞にも子どもたちの名前はおろか、親の名前すら載っていないということだ。そもそも親の苗字(みょうじ)だけなら全員”田島”なので、苗字だけで名前を出す意味がない。”和彦(かずひこ)(ごろ)し”に関わっていた子どもたちの名前がわかれば、今までに”不慮(ふりょ)の事故で溺死(できし)した”若者(わかもの)たちが”和彦殺し”と関係が()るか、()いかが分かる。それがわからないことには、彼ら故人(こじん)たちが無作為(むさくい)事故死(じこし)したのか、殺されたのかもよくわからない。もし、”和彦殺し”と関係なく”殺された”とすれば、それはただの無差別(むさべつ)連続殺人(れんぞくさつじん)事件ということになる。それでは、川村早希の容疑(ようぎ)(うす)くなる。彼女が無差別連続殺人をするメリットは(ほとん)どないし、リスクのほうが高いからだ。十代(じゅうだい)(なか)ばの少年とはいえ男なのだ、成人(せいじん)しているとはいえ女性では返り()ちに()危険性(きけんせい)非常(ひじょう)に高いのでとてもリスキーであるという理由だ。


”和彦殺し”の犯人(はんにん)隠匿(いんとく)するには、去年から起こっている連続溺死事故は祟りによる事故だとしたほうが”下宝田村民にとって”都合が良いということになる。自分の子供が殺人者であるという事実が世間に知られることで親にまでが監督責任(かんとくせきにん)人殺(ひとごろし)しの(おや)という(そし)りを受けるくらいなら、いっそ、人殺しの息子たちが死んでくれたほうがありがたいのかもしれない。自分の子供の殺人を隠蔽(いんぺい)しようとするような人間なのであれば、それくらいの考え方はするだろう。というのがシマオの推理だ。ただし、これはあくまでもシマオの考察に基づく推理なので”事実”として考えたり、ましてや、他の人たちには吹聴(ふいちょう)しないようにと、雅子に強く念押(ねんお)しされて、その日は解散(かいさん)となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ