「ありがとう」とは?
シマオは市道の歩道側を通ってそのまま8号棟に向かうというので、5号棟から少し北上したところで別れた。駐輪場に自転車を置いた玲也がエレベーターホールにつくと、1人の男の子がエレベーターホールでエレベーターの到着を待っていた。なんとなく見覚えのある後ろ姿に、自宅の上階に住んでいる同級生の女の子を連想したが、あと5mほどの距離まで近付くと彼の方がこちらに振り返ってきた。彼もとい彼女は、やはり、川村玲子だった。
降りてきたエレベーターには玲子が先に乗り込み、エレベーターの操作盤で”9”のボタンを押してからその対角になる奥の方に詰めた。玲也は彼女の後から乗り込み自分の行先階の番号ボタンを押すとそのまま操作パネルの前に佇むのであった。玲也は彼女が9階に住んでいることをこの時に初めて知った。
そんな感じで、なんとなく重苦しく感じる時間がいつまでも続くように感じた刹那、エレベーターは5階に到着した。慌てた風にエレベーターから降りようとした玲也は、降りる直前、エレベーターの扉のセーフティーバーを押しながら振り返りざま彼女にこう聞いた「神社で会った時に"ありがとう”って言ったのはなんで?」すると、玲子は「そうだっけ?」と本心を隠すかのような薄ら笑いを浮かべながら言った。それを合図に玲也がセーフティーバーから手を離すとエレベーターの扉は締まり、彼女は9階まで上がっていった。




