水門の向こう側
水門の向こう側も非常に暗かったが、多嘉良川の川面の反射光でちらちらとした薄明かりがあるものの、それでは明かりの役にも立たなかった。そんな中で暗闇に目を凝らしていると、真っ暗な中にぼんやりと相手の顔が浮かび上がるように見えてきたが、まるでこちらを窺っているように怜也には思えた。どうも体操座り(三角座り)しているらしく、顔の位置は低い。
不意に玲子が言った「なんで危ないことをしたの?落ちたら死ぬよ?」、「いや、それはお前も同じだろう?」と即座に反論する玲也。「それよりさ、気になるんだよ、なんで一人でこんなところにいるのかなって」と言う玲也に対し、憮然とした感じで「こんなとこって何だよ!」と玲子が言い返す。「あ、いや、ごめん」と反射的に謝る玲也だが、「もしかして、今日がお兄ちゃんが死んだ日?」とさらに問う、「違う」と一言だけ、ぼそっと彼女は答えるものの、彼女は顔を正面の用水路に向けた。
「怒ってるの?」と聞く玲也に「別に?」とぶっきらぼうに答える玲子。「いや、俺がさ、『あそこにいるの川村さんじゃね?』って言ったから藤田が騒いじゃってさ」と、事のいきさつを話すも玲子は無言だった。「だから、川村さんが怒ったのかな?と思って、それを謝ろうとしてきたんだ」と弁明した。「ふぅん」と短く応答しただけで、玲子の顔はまだ川面に向けていた。
水門の向こう側からフジショーの声がする、「おーい!レイヤー!大丈夫かよぉ!!」賑やかなやつである。そのタイミングで玲子がグリンと顔をこちらに向けると「もう帰りなよ、子供は帰る時間だよ」と言った。それに対し玲也は吹き出しながら「いや、お前も子供だろう!?」と返す。「ボクは良いんだよ、バカ!」そう言って玲子は不貞腐れた様子を見せた。「わかった、じゃ、俺は先に帰るから川村さんも気をつけてな」そう言って玲也は水門の向こう側に戻って行った。
水門の団地側に戻った玲也はとりあえず友人2人を水門の下から連れ出す。土手道まで上がってから、水門の向こう側での玲子とのやり取りを2人に話した。「おれのこと怒ってるわけじゃねーんだ」と少し安堵するフジショーに対して「独りで居たかったのに邪魔されたから機嫌を悪くしたんじゃないかな?」と鋭いツッコミを入れるシマオ。「えーっ!なんだよそれぇ~!?」と拗ねるフジショー、こうして3人は団地の中央広場にたどり着いた。
「じゃあ、ボクは店に寄るから」そういうとシマオは夜7時まで営業しているシマノ美容室に向かった。玲也は9号棟の5階なので9号棟のエレベーターホールに向かうが、フジショーはその裏手にある5号棟なので、玲也と一緒にエレベーターホールに向かう、玲也とフジショーはシマオの後ろ姿に「またな!」「またあしたな!」と言いながら手を振ると、シマオは少し振り返りながら軽く手を振り返して10号棟方面に歩き出す。こうして3人は自宅に帰って行ったのだった。




