帰宅
島神社の階段を降り立った先を横切る道を左手に曲がって行く。その突き当りの県道では車の往来が増えていた。日中は嘘のように人も車も少なかったのに、日が傾きだすと急激に人の動きが増え、それに伴い車の交通量も増える。いかにも”夕方である”といった様子だ。
少年たちは田んぼの方側にしかない県道の歩道代わりの路側帯を通って宝田大橋の交差点に向かう。下宝田を囲む山々の尾根の西側に半分ほど日が入っている。山に囲まれた地域は夏でも日の出が遅く、日の入りが早い。日照時間が短いこんなところによくも水田地帯を設けたものだが、人間は大昔から日照時間の短い盆地に町や村を作ってきたものだ。
そこから南回りに見回すと、上宝田の南側の太田市の田園風景が夕焼けに照らされて見える。この土手道から見る景色も見事なものだが、実は、南側の尾根から見る景色の方が素晴らしいのだ。そして、視線をさらに東に回していくと上宝田村の村落が夕焼けに照らされている光景が見える。不思議なことに村の農家の建物だけが夕日を受けていて、その建物から下の方には日が当たっていないのだ。村の建物の殆どがかなり高い位置にあるので夕日を浴びることができるのだが、そこよりも標高が低いところはすでに西側の山稜の日陰になっているのだ。
いつもならたから山からこの光景を見ている玲也は、今日、生まれて初めてこの光景を県道の歩道から見ていたのだった。不意にクラクションが鳴らされて我に返った玲也は、自分が歩道から車道に出ていたことに気づかされて慌てて歩道に戻る。前を歩く二人もクラクションに驚いて振り向いた。「あっぶねー!」とフジショーが叫んだが、玲也はバツが悪そうに「ごめん、よそ見してたら車道に出てた」と侘びた。「レイヤはしょっちゅうよそ見しているからね、いつか轢かれるような気がする」とシマオが嫌味を言う。よそ見をするのはこれが初めてではない玲也は何も言い返せなかった。
ただし、ここの歩道は歩道と言ってもただの路側帯なので、車が突っ込んできたら余裕で轢かれてしまうような危険な道路だ。この道路が拡幅されて歩道と車道の間に段差とガードレールがつくのはそれからおよそ10年後のことなのだが・・・。




