”島”
田んぼは黄金色に色づき、風になびくさまは、まるで海の波のように見える。そんな中に、まるで島のようにひょっこりと小高くなっているのが多嘉良島だ。こうして眺めてみると、本当に島のように見えてくる。「なんで今まで気づかなかったんだろう」とフジショーはひとりごちる。島田金物店の店主に言われなければ、あれを”島”として認識することはなかっただろう。「言われてみると、そうだよなぁ」と独り言を言いながら眺めていると、下からくぐもった話し声が聞こえてきた。
レイヤがまたトンネルで”お宝”を発見したのだろうか?そう思って声のした方向を見ると、トンネル東口からシマオが出てくるのが見えた。シマオは「うわっ!眩しい」と言ってうつむくと、後ろから来たレイヤに「ちょっとじゃま」と言われ、ふらつくように南側に移動した。そういってからレイヤは外に出たが、「うわっ!眩し!」といって、ちょっとふらついていた。フジショーは軽く噴き出して笑ってしまったが、「おーい、遅かったじゃんか!なんか見つかったか?」と問いかけた。
にやりと不敵な笑みを浮かべながら、得意げにポケットから鍵を取り出すレイヤ。その時、レイヤのポケットから少し出ていた定規を見つけて、「あ、僕の定規」と言ってシマオは玲也のポケットからプラスチック定規を取って、自分のカバンにしまった。「お、わりぃ」と言いながら、レイヤはシマオの脇をすり抜けて、宝山に登り始め、やれやれ、と言った様子でシマオもあとに続いた。
二人が頂上にたどり着いたタイミングで、フジショーは多嘉良島の方向を指さしながら、「お前らあれ見ろよ」と言った。それにつられて二人がそちらの方を見ると、黄金色の波間に浮かぶ島が見えた。フジショーの真意を瞬時に理解した二人は「おおー!島だ!!」と叫ぶ。そして、なぜかフジショーは得意げに「ふふん」と鼻を鳴らした。別に、自分の力で発見したというわけでもないのに。
「島田のおっちゃんに言われなかったら気付かなかったな!」というレイヤに2人とも頷く。「案外近そうだな!」というレイヤに「目の錯覚だよ」とシマオが冷静に言う。「早くいこうぜ!」と言いながら山を下り始めるフジショーに「ちょっと待ってよ」と息を切らしながらシマオが言った。
シマオの言をまるで意に介さずに下に降りて行くフジショーから眼を放すと、レイヤは改めて”島”を見た。どういえばよいのかわからないが、レイヤには何か違和感があった。”たからしまのちズ“とは本当に多嘉良島のことを指すのだろうか?それとも別のことだろうか?そんな疑問とは裏腹に、レイヤの心の中では冒険への期待に胸が高鳴っていた。