たから探し
このたから山トンネルには4m毎に土管の継ぎ目があるのだが、子の継ぎ目、結構隙間が大きいので、小銭を落とした、だの、自宅のカギを落とした、だの、ヘアピンを落とした、だの、色々落として失くしたという子供たちがいたが、レイヤがプラスチック定規で継ぎ目の中に入っているものを掻き出して持ち主に返したことがあり、その時は、ちょっとしたヒーローになったものだった。そんな思いでもあるので、レイヤにとってこのトンネルにはちょっとした愛着がある。
その時の癖なのか何なのか、レイヤはこのトンネルに入るたびに継ぎ目の隙間の中をチェックする癖があった。だが、思い付きで来てしまったので、今日はプラスチック定規は持ってきていない。幸か不幸か、チェックしていても継ぎ目には砂のようなものしかなかった。今から定規を取りに帰ろうか、などと考えながら進んでいると、前の方から声をかけられた。「例や、また継ぎ目探しか?」シマオだった。レイヤは継ぎ目ごとにのぞき込んでいたため、後から入ってきたシマオよりも遅くなったのだ。
「なんかみつかった?」と問うシマオに首を振るレイヤ、「見つかったらどうするの?」と言われ、「今から定規を取りに行っていい?」と聞くと、やっぱりなあ、というような顔でシマオは肩掛け鞄からプラスチック定規を取り出すとレイヤに渡した。そして「そんな時間は無いよ」とたしなめつつ「じゃ、僕はこのまま西口に向かうね」と言い、シマオはそのまま中心部を突っ切って行った。
シマオから借りた定規を一瞥するとレイヤは北口に向かって歩き出したが、やはり、継ぎ目を検索しながら歩き出したが、残念なことに、何も見つからなかった。北口から出てきたものの、今回はシマオは先に来ていないようだった。様子を見に山のすそ野部を歩いて西口に向かうと反対側からシマオがやってきた。そして「何も見つからなかった」と二人で同時に言って笑い合った
「今回は僕も継ぎ目を観ながら来たんだけど、何も見つからなかったよ」というシマオが言うと「こっちも何もなかったなぁ」とレイヤも報告する。するとシマオが「そういえば、東側から来たときは継ぎ目を見なかったんだよな」と言った。「んじゃ、おれ、東側のトンネルを見てくるよ」とレイヤが言いざま北口トンネルに向かっていったが、シマオもその後についていった。一方そのころ、たから山の頂上ではフジショーが暇そうに多嘉良川の方を眺めていた。