出発
当然のようにレイヤは手ぶらで来ていたが、フジショーは麦わら帽だけでなく、水筒も装備していた。
今日も気温が29度を超える予想であるため、フジショーとシマオの母親は水筒を持たせたのだが、レイヤの母親は天然なので、そんなことは気にしなかった。それで、当然、息子のレイヤも気にせずキャップだけかぶって手ぶらで来ていた。フジショーもシマオも、そんなことはいつもの事なので気にしていなかった。
中央公園の手前に来たところで、突然、レイヤが「そうえばさ、宝山の上から見ると川の向こうに小さい山みたいなのが田んぼの中に見えていたけど、あれのことなんじゃね?」と言い始めたので、フジショーとシマオは顔を見合わせると、フジショーが「そういえばそうだな、じゃ、ちょっと見ていく?」と言い出したので、3人で中央公園の中央にそびえたつ”たから山”に登ることにした。
たから山は人工の山でこの団地が造成された時の残土を使って建てられたものだ。残土の輸送をするためのダンプトラックがなかなか手配できなかったにもかかわらず、上からは納期を厳守するように要求された公団の責任者が、どうせ公園にするんだから、人工の山という遊具を作るという名目で残土を盛り上げようという鶴の一声で作られることになった人工山だ。そのために、残土搬送登山道目立ての予算が大幅に余ったため、公団職員のボーナスが凄かったとか何とか…
さて、この”たから山”、構造が面白いことになっていて、地表から1mほどのところに土管(コンクリート製)のトンネルがある。これらのトンネルは、正確に東西南北に配置されており、人工山の中心部で接合している。トンネル内に水がたまらないようにするため、中央の接合部がトンネルの出入り口よりも30㎝ほど高くなっている。つまり、山の中心に向かって微妙な登り傾斜になっているのだ。
直径が1.4m程なので、子供ならかがんで歩いていけるが、大人だとしゃがんだ状態で移動しなければならないので、大人が利用するにはかなりきつい。たまに家出した子供が寝泊まりすることもあるらしいが、夏は蚊が出るし、冬は風が吹き抜けて寒いのであまりお勧めはできない。それとこのトンネルには、誰が作ったのか、あるいは、誰が言い始めたのかはわからないものの、怪談があるのだ。