前編
短期連載作品です。
前後編で完結する予定です。
寝坊してしまった!
昔から僕はこうだ。楽しみにしていた遠足の日の朝でも平気で寝過ごす。
大事な試験がある日に寝坊して、あわや間に合わなかったこともある。
今日はそんなのとは比べ物にならないほど深刻だ。
彼女とのデートの日なのだ。
初めてのデートじゃないんだから、7回目にもなればそろそろ遅刻したって別にいいじゃん、と普通の人は言うかもしれない。
いいわけがないのだ!
彼女を怒らせたらどんなことになるか、普通の境遇にいる人にはわかるまい。
僕の彼女の名前はさとみ。とても優しくて、思わず尊敬してしまうほどよく出来た彼女なんだけど、実はその正体は大怪獣だ。
比喩とかじゃない。本物だ。
怒ると口から火を吐き、目から破壊光線を出す。巨大化し、推定30トンの重さで何でも踏み潰す。
TVのニュースになったことも何度かある。
とか言っといて、僕が実際に彼女の正体を見たことは一度もないんだけど。
でもみんなが噂しているし、信頼のおける友達が彼女の変身シーンを見たことがあるという。何より一番身近にいる自分が、彼女の中に未知のものを感じている。
だから間違いない、と思う。
バス停まで全力で走り、彼女に連絡しようとしたところでスマホを忘れたことに気がついた。
ヤバイ! 遅刻した上に連絡なしだなんて最低だ!
慌ててスマホを取りに帰り、連絡しようとしたら充電がゼロだった。なんて奴だ、僕は! 普通デートの前の日には充電はフルにしておくものだろう!
充電している時間はないので、仕方なく途中のコンビニで乾電池式の充電器を買った。千五百円ぐらいした。急いでバス停に戻るとちょうどバスは出て行ったところだった。とりあえず連絡だけしておこうと充電器のパッケージを開け、スマホを繋いだが、ランプが点かない。よく見ると裏の説明書に『完全に充電のなくなったスマートフォンには充電しない場合があります』と書いてあった。
ヤバイ!
ヤバイ!
怒った彼女が大怪獣に変身してしまう!
僕が連絡もなしに40分遅れで待ち合わせ場所の駅前噴水広場に辿り着くと、彼女はそこに立っていた。
スマホを弄るでもなく、近くのビルの時計を見るでもなく、何もせずにまっすぐ立っていた。
まだ僕に気づいてはいない。
白いスプリングコートというカジュアルな服装ながら、まるでファンタジーのお姫様のように気高く、可愛く、凛々しい立ち姿だ。
僕は僕に気づいてない彼女をアイドルDVDのように暫く一方的に見つめた。見とれていた。しかしはっと気づいて、急いで彼女の元へ駆け寄った。
「お、遅くなってごめーん!」
僕が勇気を出しておそるおそる必死の声を投げると、彼女は素早く振り向き、頬をふくらませた。
「おっっそーい、健人。連絡もなしとか、ひどくない?」
そしてすぐに、いつもの恥ずかしそうな笑顔を見せてくれた。
僕だけに見せてくれる笑顔だ。
切れ長の目が優しくなる。
「ごめんっ! スマホ忘れて取りに帰ってて……」
僕の言葉を聞くと、これまたいつもの悪い子を叱る教師のような顔に変わり、厳しい口調で言う。
切れ長の目が少し鋭さを取り戻す。
「取りに帰ったんなら連絡出来るでしょ?」
「それが充電切れてて……。って、ごめん! 言い訳はしません!」
「前の日にちゃんと充電器にかけとかなかったんだね~。うん、あなたが悪い。今後気をつけるように」
そう言って寛大な笑いを浮かべると、彼女は僕に肩をくっつけて来た。
「さて、どこ連れて行ってくれるの?」
そう言って頭を寄せて来る彼女の長い髪が僕の頬を柔らかくくすぐった。
僕も心底ほっとして笑い、彼女と手を繋いだ。
「その前に……充電器持ってる? 見せたい動画があるんだ」
彼女に充電器を借り、駅の充電コーナーで復活した僕のスマホは、あとは乾電池式の充電器でノロノロとながら生き返りはじめた。
カフェのテーブル席に並んで座り、僕は彼女に昨日撮ったばかりの動画を見せた。
「あー、なっくんだ!」
僕の同居しているフェレットのなっくん。彼が昨夜、初めて布団で僕と一緒に寝てくれた。その寝相があまりにも面白かったので、動画に収めたのだ。しかも数分毎に寝相がガラッと変わり、それがまたいちいち笑える格好なので、彼女にもそれを見せたくて、僕はなかなか眠らせてもらえなかった。それでカメラを起動したままいつの間にか眠ってしまい、朝には充電がゼロになっていたというわけだ。
「かわいい……!」
本当に心から可愛がってくれているのがわかった。いつも高貴なお姫様みたいなさとみが無邪気な少女のように、なっくんの寝相が変わるたび、目と口を大きく開いて感嘆符を口から飛ばす。
頭だけ掛け布団にすっぽり入れて、ヘソを天井に向けて気をつけの姿勢で寝ているのがラストシーンだった。
「人間みたい! たまらーん」
さとみはコーヒーに口をつけることも忘れて、僕の腕に手をかけて、スマホの画面に釘付けになっていた。
そこで動画を止めればよかったんだけど、忘れていた。うっかり次の動画が自動再生で始まってしまった。
画面からフェレットが消えて、一転、夜の町の景色が映し出される。
暗いけれど、赤い。燃えているのだ。
その中を大怪獣の姿が──
僕は慌ててスマホを隠し、動画を止めた。
おそるおそる彼女の顔を見る。
今まで楽しそうに笑っていたさとみの顔が暗くなっていた。どこを見ているのかわからない目で僕に聞く。
「今の……何?」
「どっ……動画サイトからダウンロードしたやつだよ」
僕は本当のことを言った。
「なんか話題になってたからさ」
後は笑って誤魔化した。
「ふーん」と言うと、彼女は僕の腕から手を離し、少し冷めてしまったコーヒーを飲んだ。
「車で来ればよかったかなあ」
町を並んで歩きながら僕がそう言うと、さとみは笑いながら、叱るような口調でこう言った。
「あたしが車で来ないよう命令したんだから守りなさい。不要不急のマイカーでの外出は控え、公共交通機関を使いましょう」
「デートは不要不急じゃないよ。重要なイベントだよ」
「いいじゃん。あたし、ケントとこうやって並んで歩くの好きだよ」
「でも……。車で来てればあんなに遅刻してなかったし、スマホも充電しながら来れてたし」
「過ぎたことはもういいって。許したでしょ?」
「でもこんな風にあてもなくブラブラせずに、車なら行きたいところが思いついたらどこへでも行けたのに」
「おい」
彼女の声色が変化したので、僕はギクリとして視線をゆっくりと横へ向けた。
さとみは少し怒りかけていた。眉間に皺が寄り、口角が下向きになっている。
「ウダウダつまんねーこと言ってんじゃねーよ。今を楽しめよ」
冗談めいた口調だったけれど、凛々しく高貴ともいえるお姫様のようなさとみの口から出た乱暴な言葉遣いに、僕は必要以上に怯えた態度を見せてしまった。それに気づいたのか、さとみは、
「あ……。ごめん」
悪いことをしたように謝った。
ゲームセンターでさとみははしゃいだ。クレーンゲームで二千円使っても彼女のねだるヌイグルミを取ってあげられず、しかししょげ返る僕の背中をたんたんと叩いて慰めてくれた。
「あー、楽しかった」
外へ出ると彼女は手足をぴんと伸ばしながら、機嫌よさそうに笑顔でそう言った。
「ケントといると、羽根伸びる」
「くそう。今度は絶対に取ってやるからな」
僕は負け惜しみのように拳を握りながら、言った。
「いいよ。頑張っても無理なことはあるもん。それにあれ、たぶん絶対取れないように仕込んでたね。お店の人が悪いんだよ、あんなの」
さとみは僕の顔をじっと見つめながら、微笑んだ。端正な顔が柔らかく笑うその表情に見とれ、僕は思わず照れて目をそらしてしまった。
さとみは潔癖と寛容を併せ持つ奇跡のような存在だ。こんな美人で内面も素晴らしい女の子と僕が付き合ってるなんて、彼女が大怪獣でなければあり得ないことだった。
「昼……だね。ご飯、なんか食べたいものある?」
僕が聞くと、彼女は即答した。
「ファミチキ」
デパートの裏にファミマがあるのを知っていたので、僕らは手を繋いでそこまで歩いた。
さとみはファミチキに目がない。この世で一番美味しい食べ物で、タピオカイチゴミルクと一緒に食べると天国へ行けるらしい。
僕はおにぎりでも買おうかな、と思いながらファミマの前まで行くと、入口の前で柄の悪そうな兄ちゃん達がたむろしていた。
僕らが店内に入ろうとすると、彼らがウンコ座りをしたままカニのようにやって来て、自動ドアが開かない距離で壁を作った。
「おねいさん、芸能人~?」
「きれぇだね~。これから有名になる人~?」
彼らは5人組で、ニヤニヤ笑いながらさとみの顔や身体に注目し、僕のことは無視していた。
僕はさとみの手を引っ張った。
「あっちのほうにもファミマあるよ。そっちへ行こう」
しかし遅かった。
「はーん……」
さとみが口から煙を吐いた。
既にさとみは5人組にガンを飛ばしていた。僕の手を離し、腕組みをし、顎を突き出して彼らを睨みつけると、雲の上から降らせるような声で言った。
「あなた達はお店の迷惑にも、お客さんの迷惑にもなっている。つまりは皆の迷惑! 誰の役にも立っていない! つまりは社会のゴミ! 自分でそのこと、わかってらっしゃるのかしら?」
『ハア?』というように5人ともの顔が一瞬、かわいくなった。
そこから一転、歯を剥いて笑うサルのようになり、サルどもは肩を怒らせて近づいて来た。
おい。この女性を怒らせないでくれ。頼む。お前らのためにも頼む!
「綺麗な顔してるからって調子に乗んなよ、おねーさん」
「俺らが迷惑だって? 本当の迷惑その身体に刻み込んだろかァ?」
ぶさいくな顔がどんどんさとみに近づいて行く。
やめろ! やめるんだ!
そう思いながら僕はただあたふたとするしか出来なかった。
さとみは怖じ気づくことなく、まっすぐに姿勢よく立ち、彼らを睨みつける。
するとサルどもの中の一人が声を上げたのだった。
「おっ……おい! この女、サトミラスじゃねえか?」
さとみの顔は僕からは見えなかったが、その背中がどくんと揺れたのが見えた。彼女の傷ついた心が見えたような気がした。
サルどもがざわめきはじめた。
ざわ、ざわと。ヒソヒソと。サトミラス、サトミラスだぜ、と繰り返すと、何も言わずに走り出し、建物の陰に隠れ、目だけを出してさとみの様子を窺った。
さとみがキッと睨むと、それぞれに悲鳴を上げて逃げて行った。
さとみは何も喋らず、腕を組んだまま僕に背中を見せて、暫くただそこに立っていた。
彼女のこういう『正義の行い』に、実は僕は慣れていた。
以前、僕の車で隣にさとみを乗せて高速道路を走っていた時、サービスエリアに入ろうとトラックの後ろについていたら、流入部のカーブでトラックの運転席の窓から何かが投げ捨てられるのを見たことがあった。
「停めて」と彼女が言った。
端に寄せて車を停めると、さとみは降りて、投げ捨てられたものを拾って戻って来た。
黄色い液体の入った、500mlのペットボトルだった。
「何、それ?」と僕が聞くと、彼女は恥ずかしがることもなく即答した。
「おしっこだよ」
「ええ!? そんな……汚いよ!」
「大丈夫。こうやって窓から出して持っとくから。……トイレに行ってくれる?」
トイレの側まで車で行くと、彼女はそれを便器に流し、ペットボトルを濯いでゴミ箱に捨ててから、戻って来た。
「さとみがそんなことする必要ないよ」
僕はトラックの運転手に腹を立てながら、言った。
「そんなものを投げ捨てる奴が悪いんだよ」
するとさとみはこう答えたのだった。
「いいよ。あのトラック、サービスエリアに立ち寄らず、そのまま走って出て行ったでしょ? きっと時間に余裕のない仕事を組まれて、トイレに行く暇もなかったんだよ。かわいそうなひと」
「だからって……」
「誰かが片付けないといけないでしょ? それをあたしがやっただけ。役に立てて嬉しいんだから」
彼女は潔癖と寛容を併せ持つ。
その時は彼女の寛容を見たのだった。
しかし別の日、僕らは同じようなことに再び出会した。
そしてその時に僕が見たのは、彼女の潔癖のほうだった。
やはり高速道路のサービスエリアに向かう流入部のカーブで、前の大型トラックが黄色いペットボトルを外に投げ捨てた。
それを見たさとみはやはり僕に車を停めさせ、それを拾って来て、窓の外に出して手に持ちながら、トイレに行くよう求めた。
しかし、その時は前とは違っていた。
それを投げ捨てたトラックが駐車場に停まっており、出て来た運ちゃんがトイレに向かって歩いているのを見つけ、さとみの顔色が変わったのだ。
「はーん……」
さとみは助手席で黄色いペットボトルを窓から出して持ったまま、口から煙を吐いた。
「ちょっと行って来る」
そう言うとさとみは車を降り、ずんずんと男子トイレに入って行った。
僕が後を追って入って行くと、男子トイレ内は騒然となっていた。
突然乗り込んで来た綺麗な女子大生が、手にした黄色い液体入りのペットボトルで、小便中のおじさんのハゲ頭を後ろからコンコンゴンゴンと叩いていたのだ。
「なぁ、おじさん。これ、さっき、おじさんが捨てたよな? 誰が片付けると思ってんの、これ?」
おじさんは涙目になりながらも怒声を響かせていた。
「なんだよお前! 変態かよ!?」
「あのな。どうせトイレに入るんなら、自分で片付けられたんじゃないの? 自分でこれ、便器に流して綺麗に濯いで、ちゃんとペットボトルのゴミんとこ捨てなよ」
「知るかよ! お前に何の関係があんだよ!? なんだコイツ気持ち悪い女だな!」
「そうよ! あたしには関係ない。関係ないあたしがなんでこれ持ってんのよ? 関係あるのはおじさんでしょうが!」
そう言うとさとみはおじさんに無理矢理それを片付けさせた。おじさんはさとみの監視の中、多目的トイレの人工肛門を洗浄するためのオストメイトでペットボトルを綺麗に洗わされると、痰を飛ばす勢いで激昂しながら出て行った。
その時のことを僕は笑い話のように語った。公園のベンチに並んで座りながら、僕は両手にそれぞれファミチキとおにぎりを持って、笑いながら話題にしたが、さとみがちっとも笑わず、ファミチキもまったく口にしていないので、思わず謝った。
「あ、ごめん! 食事中におしっこの話なんかして……」
「変なヤツだよね、あたし……」
ぽつりとそう言うと、さとみはようやくファミチキを小さく囓った。
「凛々しくていいと思うよ」
僕は正直な自分の感想を言った。
初めは確かに変なヤツだと思った。ペットボトルはちゃんと蓋をはずして中を濯いでから捨てないと怒鳴って来そうな女だと思ったし、車の助手席に乗せていてウィンカーをきっちり3秒前に出さないと厳しい指導を受けそうでビクビクした。
でも付き合いを重ねてわかった。彼女は人の弱さや愚かさ、ミスなどには寛容だった。しかもびっくりするぐらいのことまで微笑んで許す天使のような人だ。
ただ、彼女の中に何か基準のようなものがあり、それを超えるとスイッチが入るようなのだ。
僕は正直な気持ちを言った。
「普通あんなこと出来ないし、僕もゴミのポイ捨てしたことがないとは言えないから、尊敬する」
「そう?」
さとみは自信なさげに目をそらした。
「あたし……いつも思うよ」
「何を?」
僕が不思議がって聞くと、彼女は項垂れながら、言った。
「ケントが……なんであたしなんかと付き合ってくれてるんだろう……って」
「何だよそれ~」
僕は笑い飛ばそうとした。
「それを言うのはこっち……」
「ケントも」
さとみは僕の言葉を遮り、不安そうな目をこちらに向けた。
「あの噂……もちろん知ってるんだよね?」
僕は言葉を失った。
彼女を『サトミラス』と呼び始めたのが誰かは知らない。しかし彼女のことを知る者は皆その名で呼び、それは僕らの大学の外にまで広がっていた。
警察も国防機関もさとみをマークしている。しかし証拠がないので身柄を確保することが出来ずにいた。
何より大怪獣サトミラスは誰も殺していない。今までに建物はいくつも破壊しているが、不正を働く政治家の豪華な邸宅だとか、何人ものパチンコ中毒者を作り出し破滅に追い込んでいることで有名なチェーン系列のパチンコ屋だとか、裁かれることなく社会に害を為している輩の巣窟を、人のいない時間に踏み潰したり、焼いたり、目から出す破壊光線で粉々にしているのだ。
それゆえに人々は彼女を『サトミラス』と呼んで恐れはするものの、それ以上のことはしなかった。距離を置きながら尊敬の眼差しで見る奴さえいた。
ゆえに彼女に友達はいない。僕がいなければ、さとみの周りには誰もいない。
「さとみが大怪獣……って噂だよね?」
僕がはっきりそう言葉にすると、彼女は痛そうな顔をしながら顔をそむけ、頷いた。
「あんな噂、信じてないよ」
僕は笑って見せた。
「そんなことあるわけないだろ。みんな、バカだよ。大体、見たこともないのに……」
するとさとみは嬉しそうに顔を上げ、僕の顔をまっすぐ見た。
そして凄い勢いで抱きついて来ると、僕の耳元に大きな声を響かせた。
「だからあたし、ケント好き! ケントはそんな風に、自分の目で見てないことにはとりあえず眉に唾をつける人だもん! 好き! 好き好き!」
僕は褒められながらもポリポリと自分の頬を指で掻いた。
「でも……ちょっとは他の人とも仲良くしなよ。大学のみんなとも……」
僕はへらへらと笑いながら、自分の卑怯さをごまかすように、言った。
「友達は多いほうが楽しいだろ」
「……自分の目で物を見ずに、噂を鵜呑みにして他人を色眼鏡で見る奴らとなんて、仲良くなりたくない」
彼女の声が暗く沈んだ。
「そこまで頑なになることはないんじゃないかな」
僕はへらへらと言った。
僕に抱きついているさとみが口から煙を吐く気配がした。
「あんな人達と仲良くなれると思う?」
殺気すら帯びたその声色に危険を感じ、僕はさとみの体を引き剥がすと、言った。
「喉乾かない? 何か買って来るよ」
彼女から離れ、公園内にあった記憶のある自動販売機を探して歩く。
心臓がドキドキしていた。
いつ、彼女を激怒させてしまうか、気が気ではなかった。
それならさっさと別れてしまえばいいのにと他人からは思われるかもしれない。
しかし、そういうわけにも行かないのだった。
僕が自動販売機を探して歩いていると、茂みの中に制服姿のおじさんがいた。白バイ隊員のような制服だが、その色は青ではなく、オレンジ色と銀色が混ざり合った派手なものだ。
茂みに隠れ、おじさんは無線で誰かに報告していた。
「猫ノ宮さとみは現在、○○公園のベンチで食事中、食事中。メニューはファミリーマートのチキンです。1人でいます。先刻まで恋人の原田健人と一緒でしたが……。ええ。警戒しながら様子を窺います」
サトミラ警備隊だ。
僕らはずっと尾行されていたのだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
後編は明日の7時に投稿します。
感想等いただけると作者は大喜びします。




