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堪忍袋の緒が切れた

 

 そして、臨界突破して堰きが切れたヴァージニアは、


「お言葉ですが、ゴスロ伯爵は資財をホーキンス侯爵様に寄付したと申していましたが。そのせいでまともに我軍は守ることも出来なかった!」

「貴様無礼な! 田舎男爵の娘如きが侯爵様になんたる口の利きようだ!」


 だが、「………………」侯爵は剣を抜こうとした副官を制止させる。


「……知らんな。約定書も提示しなければただの絵空事だ。ただ、己の力の誇示と手柄が欲しくて少数でこの様な無茶な事をしたのだろうよ」

「あの聡明なゴスロ伯爵がそんな無謀な事を考えるわけがないだっちゃ!」


 その瞬間、何重にもロックしていた心の鎖が解き離れた。


「ソード卿待て!」

「これ以上は取り返しが効かなくなるぞ!」


 迫るヴァージニアは同僚達の手によって押さえられる。


「放せだっちゃああああ!」

「冷静になれ!」

「シュレリア男爵様にも迷惑が掛かるぞ!」

「くそぉぉぉぉぉ!」


 流石のヴァージニアも父を持ち出されたら抑えるしかなかった。


「ヴァージニア・ウイル・ソードよ」

「はっ……」

「わしも男爵に救われた身だ。この無礼な振る舞いは不問にしてやる」

「……くっ」

「ワシもそなたも金に関しては何も知らない。よいな」

「……………………」

「よいな!」

「はっ!」


 下級貴族である男爵の娘という反論出来ない我が身を呪った。


「ソード卿、そなたは今よりシュレリア男爵の傘下に入り侯爵様の護衛任務に従事せよ」

「は?」

「父親のたっての願いじゃ聞き入れてやれ」

「はっ、ヴァージニア・ウイル・ソード。これよりシュレリア男爵の列に加わらせてもらいます」


 騎士として三度傅く。


「光栄に思え。たかだか田舎騎士の分際で侯爵様の護衛を出来るのだからな」

「この度の戦いもどうせ部下を見殺しにして隠れていたのだろうよ。じゃなかったらおめおめと戻って来るわけがない」

「なんでもこの騎士は才能がなくて、貴族学校でも劣等生で浮いていたという。英雄の娘という事で特別目をつぶってもらったらしい」

「私はソードの同期でしたが力だけのただの獣。クラスの恥さらしでしたよ」

「貴族の位を持つに相応しくない醜態だな。男爵位を複数有しているシュレリア男爵もさぞ肩身が狭い思いだろうて」


 侯爵側付き上級貴族達の勝手な憶測にも、ヴァージニアは言い返せなかった。

 何の証拠もないのに敵将を討ち取ったと報告しても信じてもらえない。

 それに親と師匠の名誉を守る為に敢えて耐える。


 身分が全てを決める貴族社会に劣等の騎士は我が身を震わせた。

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