劣等騎士と愚か者達
―――謁見の間。
普段は使われていないが、非常時、王侯貴族が滞在中執務を行う為に確保してある部屋である。
普段から清掃に余念がないので、荘厳ではないにしろ、不浄のない清らかな空間が維持できていた。
「ヴァージニア・ウイル・ソード、面をあげよ」
「はっ」
ホーキンス侯爵。
リチャード・イングニオン。
獅子王騎士団 第六席。
イングニオンは先祖代々スタンドライオ王国に仕えてきた名家にして、名のある名臣を数多く輩出してきた家柄。
自身も王の元、国政に関わっているが評判は最低であった。
ただの虎の威を借る狐、虚勢を張った犬。
傲慢な態度、中肉中背、貴族のブライドを誇っている無駄に立派な髭。
いかにも贅沢している貴族らしく無駄な贅肉が、折角の豪華な衣服を圧迫してだらしなく見せていた。
「獅子王騎士団の忠実なる勇敢な騎士よ、よくぞ戻って来てくれた。嬉しく思うぞ」
「ははっ!」
しかし、侯爵のその言葉には感情が一切籠っていない。
社交辞令丸出しで淡々としていた。
お付きのメイドから差し出された葡萄をちまちま口に放り込みクチャクチャ音をたてている。
「ソードよ、そなたが見聞きした事を報告せよ」
「はっ!」
侯爵の副官に命じられてヴァージニアは語る。
バクリュウキョウの部隊による食糧庫の襲撃の事を。
ただ、師匠であるゴスロ伯の名誉のために立派に戦って、バクリュウキョウと相討ちして戦死したとした。
「――――だから、わしは反対だったのだ。ゴスロ伯め、独断でこんなことをしよって。これだから何の功績も挙げていない没落貴族は!」
「侯爵様のおっしゃる通りです。高貴なる血のイングニオン家とは格が違います」
副官の貴族が相づちを打つ。
ゴスロ伯がヴァージニアに語った事実と異なる事に疑問が生まれる。
侯爵の半強制的な提案で伯爵はワイロと兵を送った。
彼が大軍勢を率いられるのもそのお陰だったのだ。
「獅子王騎士団の面汚しめ。勝手に責任もとらず犬死にしおって」
「……………………」
小さき騎士の唇から血が流れる。
下唇を噛んでいた。
死人に口無し。
シュレリア男爵が不在な事を良いことに好き放題言う。
ヴァージニアは言い返したかった。
問いただしたかった。
お前が直ぐに撤退しなければ、こんなことにはならなかったと。
王による任命式の時、でかい口を叩いていたが、敵の圧倒的な実力差に大軍を率いていたにもかかわらず恐れおののいて、一目散に戦場から撤退したホーキンス侯爵軍という名の愚か者達に。




