シュレリア男爵
「ええー? 蜂蜜だらけのこれを食えと? 見るからに甘ったるそうなんだけど……」
「ふん! 知らんだっちゃ! ばか!」
「でも、ヴァージニアさんの手作りも食べてみたいなぁ。もぐもぐ………………」
と、言いながらも手は懸命に口へシューを運ぶ。
最近ろくな物を食べてなかったので、糖の塊でもゲーマーの胃は喜んで収納してくれた。
「え? 私の料理?」
「そう、お嬢様だから家庭料理とか得意そう」
「まあ、創れる、造れるだっちゃよ……」
何処か言い淀んでいるが、食べる事に集中しているゲームジャンキー改めてシュークリームイーターは気にも留めなかった。
「何が得意なの?」
「スープ………みたいなもの? あと焼き物?」
「へー、でも、何か疑問系に聞こえたけど、気のせい?」
「わわわ、私は貴族の女だっちゃよ! そんなのお茶の子さいさいだ!」
真実は料理なんて魚を焚き火で焼く事しか成功したことがない料理音痴。
されど如何せん、生来の意地っ張りが邪魔して言いそびれた。
「――小僧よ、死にたくなかったらそれはやめた方がいい。俺は人を殺す飯を作る騎士と不名誉な娘のサーガを後生に残したくはない」
野太い声が警鐘を促す。
「父様、それはあんまりでは! …………こほん、ただいま帰還しました」
「戻ったか我が娘よ。父は心配していたぞ」
ヴァージニアは父、シュレリア男爵を前に畏まった。
この戦場となっているゴルダ平原の所有者。
その風体は貴族のイメージから程遠い、冬眠前の熊のようだった。
全身の傷が戦場を駆け回っていた事を証明している。
「ヴァージニアよ、こやつは?」
「戦場で保護した民間人だっちゃ。負傷した私をここまで運んでくれたのです」
「そうか。小僧よ大義だった」
「いえいえ」
ヴァージニアはハルトと共に共闘したことは触れなかった。
話したところで白昼夢として扱われ、信じてはくれまいと判断したからだ。
「話はだいたい偵察兵から聞いた。我友の最期、聞きとうはなかったな」
「……父さま申し訳ございません」
「いやさ、今は最愛の娘が無事に帰還したことを素直に喜ぼう」
情の深い父の気性なら泣き叫ぶものとばかり思っていたので若干拍子抜けした。




