誤算
「血迷ったか!?」
無謀ともとれる判断に今回は称賛しなかった。
(愚かな。座して死ぬくらいならせめて一太刀という甘い考えは、俺にたどり着くどころか、この必勝の包囲の餌食になるだけだぞ)
あの故意に作ったセーフティーエリアから一歩踏み出し生き残ったものはまだ一人もいない。
真空の死神達が確実に獲物を断罪してくれるからだ。
バクリュウキョウは後継者と目していた者の浅はかな決断に無念さを噛み締めながら、ルートは変更せず闇夜の中で力尽きているであろうヴァージニアの回収へと切り替える。
「ちっ、昔の古傷が痛む。こういう時は決まって嫌なことの前触れだ。依頼とはいえ、友の思いを無駄にしたくはないものだ。――の娘死ぬなよ」
そう独り言ち、文字通りギロチンカッターの隙間を自由自在に巧みにすり抜けた。
だが、数周した辺りで異変を感じる。
(おかしい、何処に消えた? この拓けた場所に隠れる障害物はないのだぞ)
目を皿にして方々を探すがヴァージニアの姿は一向に見当たらない。
通過できるコースを熟知しているバクリュウキョウならいざ知らず、全容を把握していない素人に看破など無理だった。
と、そう踏んでいた。
――だが、
「うらあぁぁぁぁぁぁ!」
「小娘か!?」
青天の霹靂、死角からの奇襲攻撃。
長いブロンドを揺らしながら懐に飛び込もうとするが、咄嗟に気配で感じ取った不意の一刀をスレスレで躱す。
ヴァージニアを漸く発見するも、その姿は泥で覆われて闇を纏っていた。
おなごにこんな事をさせてしまう戦争にやるせなさが込み上げてくる。
そのまま小さな体格を生かしてバクリュウキョウの前を横切り、直ぐ様視界から消えた。
(生きていただと?)
この牢獄で生存していた驚きについ大きな口元が緩む。
(しかもこの高速の刃の檻を自在に? あいつは衝撃波を感知する事が出来るのか? いや、そんなまさか。手練のリザードマンでさえ特殊訓練を十分に受けなければ身に付かない感知能力だ。それをただの人間のメス如きが会得などありえん)
バクリュウキョウは真っ向から目の前の真実を否定。
ならばと、戦士は思案を巡らす。




