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武人の胸中(バクリュウキョウ・サイド)


 2


 常闇の中、武に生きる者は駆ける。


 獲物を狩るために駆ける。


 己の生き様に賭ける。


 これは元々備えているリザードマンいや爬虫類の本能に近い。

 その姿はさながら追い込んだ獲物へ、トドメの一撃を虎視眈々と狙っている狩人だった。

 

 もう、何周回ったのだろうか。刃の棺桶に手を拱いているだけの標的。

 観察者は悲壮感と希望が同舟しているに違いないと踏んだ。


(ヴァージニア・ウイル・ソードよ、俺にこの陣形を出させた事に敬意を表そう。そして誇って良い。これは我が主にして叔父、バクリュウド将軍をいずれ倒す為に封印していた究極の牢獄。八門金鎖を元に陣を改良したものだ)


 バクリュウキョウ・モウハは確信していた。

 自身の完全勝利を。

 だが、過信はしない。

 ただ、修練を積み重ねた行程をこなす。

 音を極力抑える過程として武器を捨て、手を着くか着かないかの低姿勢で真空の狭間を掻い潜っていた。


(しかし、実に惜しい。あの者は容赦するなと言っていたが、これだけの手練そうはいない。まだ若い分伸び代もありそうだ。俺が将軍になるには優秀な駒が必須。それでなくとも愚か者に大切な部下を無駄に消費させてしまったのだ。なら、捕らえて我が盟友達・・に説いてもらうしかあるまいて)


 バクリュウキョウには野望があった。

 大将軍になって叔父を始めとするバクリュウ一族を粛清する事。

 その一心で一兵卒からここまで這い上がって来たのだ。


 彼の両親は幼い頃、叔父に殺された。

 しかも理由はただの口封じだ。

 貴族が門限を破った現場をたまたま目撃しただけで、ただそれだけで殺されたのだ。

 当時、卵から孵化したばかりの幼子だったバクリュウキョウは見逃される。

 だが、もちろん許せるものでもなく、されどたった一人でどうにか出来る問題でもなかった。

 なので敢えて軍門に加わり忠臣を演じ機会を伺っていたのだ。

 

(さて、問題はどう捕らえるかだ。粗方体力は削った。恐らく立つのがやっとだろう。俺が用意した安全地帯から出られない今、精神的にも追い込まれている筈だ。だが、正面きっても抵抗されるのがオチ。やはり戦意喪失を狙って切り札を提示するしかないか)


 バクリュウキョウは元々ヴァージニアを殺すつもりはなかった。

 追い詰めているのは交渉を優位に進める下準備。

 思考を狭めた極限状態で最上のエサを与えれば、情で物事を決める傾向が強いメスならば食らい付くと判断したからだ。

 この程度のマインドコントロールは武家ならば弁舌家でなくとも修得していた。

 

 だが、その矢先――


 監視していたバクリュウキョウは目撃する。

 小柄な少女が大地を力強く蹴り上げ、安全地帯の外へ出るのを。

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