駆け引き
『まるでボス戦でHP1、MP0味方全員死亡の状態なんだよ。せめて薬草があればまだ粘れるのに』
「だから、異国の情報を言ったって私には理解できないっちゃよ!」
敵が減って大分見渡しがよくなり低空移動が難しくなったヴァージニアは、周囲の敵を一蹴し自らの足で立つ。
わざと間合いをとる為に広場の端へ陣取るが、オーガ族であるソンゲンにとっては大した距離ではない。
「わはは、残念だな。もうネズミがごとく逃げる場所はないのである」
『こいつは仲間にも情はないのか?』
ソンゲンは躊躇なく殆どの味方を殺し逃げ場を潰した。
魔族の成せる業なのか、それとも本人の業の深さなのか。
立案したハルトも思わず敵に同情する。
先頃ヴァージニアと戦って圧倒的な力の差を見せつけているので、相手は絶対の自信がある。
そこにハルトは勝機があると、「それはどうだっちゃか」事前に打合せ準備した次の罠へと強欲な鬼を挑発した。
「虚勢を張りやがって!」
『虚勢じゃない』
「虚勢じゃないだっちゃ」
怒りで偉そうな言葉が荒くなる。
ヴァージニアもハルトに言われた通りに話しているだけなので、内心は穏やかではない。
ヴァージニアはアイテムボックスを介して渡された容器に入っている謎の液体を染み込ませたティッシュと、擦ったマッチで火をつけ前へ投げ捨てた。
硫黄と油の匂いと共に尋常じゃない速さと威力で十を数えるまでもなく燃え広がり、枯れ草はチリと化す。
予想より大きく燃えたので発案者のハルトも気が気ではなかった。
「何の真似だ?」
『これを逃げている間に周囲にばら撒いた。どういうことなのか聡明な魔族の方々なら分かるでしょ?』
「これを逃げている間に周囲にばら撒いた。どういうことなのか聡明な魔族の方々なら分かるだっちゃ?」
と再び、マッチに火を灯しながらヴァージニアも復唱する。
もちろんこの言動はフェイク。
だが、絶対の勝者が敗者に回ったのである。
この人間ならやりかねないと恐怖を植え付けるには十分であった。
極貧生活の飢えを凌ぐため、発見した野草をその場で食べられるようにと持ち歩いていたドレッシング。
機転で思い付いた敵を追い詰めるアイテムに様変わり。
漂ってくる胡麻の香ばしい匂いに、空腹な騎士様のお腹が豪快に鳴った。




