発進シークエンス
「だったら、何でも一つ言うことを聞いてやるっちゃ。それに大丈夫、お前がいるから無茶はしない。倒せなくても、せめてあの鬼に一太刀浴びせたいんだっちゃよ」
ハルトは相手を牽制しながらもしばし熟考後、『……分かった。まだ隊長さんの操作に馴れていないから、初っぱなから飛ばしたくなかったけど、直ぐに逃げるのなら、力を貸すのはやぶさかではないよ』画面の体力ゲージが赤近くまで削れている現実に心配しながらも、縛りプレイをチャレンジしているみたいで、不謹慎ながらわくわくしている自分もいて驚いていた。
でも、危なくなったら泣き叫ぼうが離脱するからと言葉を添え、一応、血気盛んな騎士様に歯止めをかけておく。
「うん……」
心はもう別にあるかのように短く承諾。
出会ったばかりの挙動不審者に体を預けるのは不安だが、一矢報いられる光明が僅かばかり差した今、選択肢が残り少ないヴァージニアにはこれしかなかった。
『ところで、隊長さんのお名前は?』
「重要な事なのか?」
『最重要事項だよ!』
「そうか……、そんなに私の事が知りたいんだっちゃか」
少し優越感。
吊り橋効果が働いているのかは定かではない。
「確かにお前の名前を知っていて私が名を名乗らないのは、騎士道に反しているっちゃ」
『因みに変態は名前じゃないないからね』
「……私の名はヴァージニア・ウィル・ソード。覚えておくっちゃ」
『ヴァージニアさんか……』
それよりハルトは最初の間は何なのか気になったようだが、好きな事以外無駄な労力はしない主義なのかこれ以上は問わなかった。
「改めて言われると照れるだっちゃ」
『これがないと何も始まらないんだよ』
「そ、そうか、そうだよね、何事もステップは必要だっちゃ」
『うん?』
だが、時を移さずに、互いの思惑がズレている事実に気付く。
ハルトはポシェットからおもむろに取り出した謎の板を巧みに操って耳へ当てた。
『もしもし長瀬さん! 緊急案件―――――――』
『ちょ、ちょっと、今まで何処に――――――!』
「何を一人で喚いているんだちゃ?」
突如、ハルトはホワイトカラーの板に独り言を開始するが、ヴァージニアには内容までは聞き取れなかった。
ある程度話が進むと、
『――皆行ってくるよ。この星の未来の為に俺は戦う!』
『ゴットハルト大尉、発進どうぞ!』
板から聴こえてくるヴァージニアは聞いたことのない少女の声。
そのボイスは自棄になっているがハルトは気にしてる様子はなかった。
芝居がかっているが、もう、そこにいるのは戦士。
『神 ハルト、重量級壱号機ヴァージニア・ウィル・ソード、出る!』
ハルトは名乗った。
一人の戦士として。
『くー! 僕はリアルロボットの定番、発進シークエンスを決められ満足なのですよ! 日本人はとにかく、名乗り口上系が大好き。ラストに格好良く見得を切って後方が爆発したら感無量だが、大クレームがきそうなのでそれは思いとどめた! それだけが悔しい!』
「なんかおかしいだっちゃ……」
ハルトは恍惚な表情と身ぶるえしながら、『いやいや、全然変じゃない。それどころかセオリー過ぎて視聴者がいたら炎上するって』板から怒鳴り声が聞こえていたがボタンを押すと途切れた。
「それに、ちょっと待てぃぃぃ、私は太っていないっちゃぁぁぁ!」
乗りに乗っているお馬鹿に即座に反応。
流石は乙女。
危機的状況でもそこは譲れない。
譲れない。




