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駆け引き


「このままでは侯爵様は敗戦の将として処断されます。しかも先鋒を願い出ておいて退却したとなれば、極刑は免れないでしょうな」

「わしは王の信任厚い侯爵であるぞ。そんな事があるわけが……」


 肥満からか不安からか額から汗が吹き出る。

 御自慢の金の鎧が神々しく飴色の色彩を放っていた。

 仏像とか神像なら荘厳なのであろうが、この男だと成金趣味で全く似つかわしくない。


「ホーキンス侯爵様には反対派も多いと聞きます。特に枢機卿とは犬猿の仲とか」

「くっ! 枢機卿…………あの教会の犬め。毎回わしの金儲けの邪魔ばかりしよる」


 心当たりがあったのか大きく仰け反るが、その様子が贅の限りを尽くしたお腹を自慢しているみたいだった。

 一方、体重が一気に掛かったので馬は辛そうに悲鳴を上げるように鳴く。

 その様子にシュレリア男爵は間髪いれず、落ち着くように馬を撫でて諌めた。


 枢機卿とは聖教会の最高司祭の位を指す。

 枢機卿は世界中にいて、そこからコンクラーベで選出されて教皇となる。

 王国では宰相も兼任していて元老院とも繋がっていた。

 なので自治権を持つ貴族とは折り合いが悪く、特に多額の寄付を断り続けて、更に教会の命令に歯向かってきたホーキンス侯爵は枢機卿にとって目の上のたんこぶ。

 確証はないが、今回の戦争も裏で推挙した節があった。


「このままではここぞとばかりに神の名の元に裁かれますぞ」

「分かっておる。しかし、枢機卿…………奴には付け届けは効かない。原動力が神の教えを名目とした権力の掌握だからだ」


 ホーキンス侯爵も貴族らしく賄賂は多用してきたらしい。


 付け届けとは政治が腐敗する原因の一つである便宜を図る方法。

 王国ではもう既に爵位の売買にまで汚職が進んでいた。

 江戸時代も役人がヤクザ紛いの事をして金を徴収していたのは広く知られている。

 西洋でもチップとしてその文化が今でもあった。


「では尚更、罷り間違ってこのままおめおめと帰還したら待っているのは、一族郎党皆殺しですぞ」

「だからこそ公然の場でお前に相談したのだ。これでわしの秘密を知った男爵も一蓮托生だぞ」

「食えないお人だ。やはりそう来ましたか。あわよくば私に罪を擦り付けようという魂胆ですかな」

「ふはは、伊達に長年国政を牛耳る化け物達とやり合ってないわ」


 小狡い駆け引きに長けていた文官タイプは不敵に笑う。

 商人達に揉まれて身に付けた交渉術は外交官でも引けを取らない。


 後にホーキンス侯爵の元老院入りを強く切望していた国王は、騎士団員でなければどんなに繁栄したかと、傾く一方の現政権を憂いて嘆いたという。

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