その手の温度
「……寝れないな。」
家主がまだお風呂に入っている気配を感じながら、唸った。
社会人になってからは、自分の家に友達を呼んだり、はたまた友人の家に行くことはなかった。
そのためか、人の気配がするところで寝るという行為が、久しぶりすぎて緊張する。
目は閉じているものの、頭の中はなぜかうるさく感じた。
しばらくすると、シャワーの音が終わり、扉が開く音がした。
なんとなく、目を開けて話すというのも違うような気がして、そのまま寝たふりをすることにした。
「あー……、みなとさん。起きてます?」
悠真が俺に近づき、声をかける。
妙に悠真が近いような気配がして、妙にむず痒い気持ちになる。
数秒の沈黙の後、悠真はさらに俺に近づいてくる。
その瞬間、体が宙に浮かぶ感覚に陥った。
「は?」と思わず声が出そうになったが、ふんわりとした感触を感じる。どうやら、悠真が俺をベッドに運んだようだった。
「ちゃんと、ベッド使ってって言ったのに。……みなとさん、僕、本当に怖かったんですからね。」
悠真は俺の手を握りながら、静かに言った。
怖かったって……あぁ、あんなふうに一方的に殴られているところ見たら、普通は怖かったよな。それなのに、俺を助けてくれるなんて、悠真は優しいな。なんて思いながら、その手の温かさに安心したのか、俺は睡魔に襲われた。
明日になったら、ちゃんとお礼を言おう。
なにかおいしいご飯でも、奢るかと考えながら、意識を手放した。
朝起きると、まだ日が昇る前だった。
いつもと同じ時間に起きれるなんて、体内時計って、ちゃんとしてるものなんだなと感心した。
ベッドから降りようと身を起こすと、手がなぜか動かない。目を向けると、悠真がまだ俺の手を握っていた。
頭が理解した瞬間、俺は恥ずかしくなって、手を離す。
深呼吸をした後、このままにしておくのもよくないと思い、悠真を揺さぶりながら起こす。
「おーい、悠真。朝だぞ。」
「……うぅーん。」
「まだ、寝れるんだったら、ベッドでちゃんと寝とけ。変な寝方すると、体痛くなるぞ。」
「……みなとさ……ん。……って早起きですね。」
悠真は瞼をこすりながら、俺のほうを虚ろに見る。
まだ、頭が覚醒していないのか頭がふらふらとしていた。
「すまんが、もう仕事行く準備しないといけないからな。昨日はありがとうな。本当に助かったよ。」
「そんな、守れなかったですし……、お礼の言葉なんていらないですよ。」
「いーや、あのままだったら本当に病院へ搬送されることになっていただろうし、他人の俺を家まで連れて帰って、手当てまでしてくれたからな。至れり尽くせりだよ。」
俺はまだ寝ぼけている悠真の頭を思いっきり撫でる。
悠真は、戸惑いながらも嬉しいのか少し赤いような気がした。
夜に服を洗濯してくれたおかげで、泥汚れはあまり目立たなくなっていた。ただ、少し擦れたところが穴になりかけており、「まだまだ着れたはずなのになぁ。新しく買うしかないか。」と肩を落とす。
服を着替え整えると、悠真はまだ唸りながらベッドでゴロゴロとしていた。
そんな姿を見ていると、意外と寝起きが悪いんだなと、妙な優越感を覚える。
ふと時間を見ると、もう会社へ向かわなければいけない時間だった。
「また、お礼はしっかりするから、今日はこのまま仕事に向かうな。って連絡先教えてないか。とりあえず、連絡先だけ渡すよ。」
俺は、鞄から手帳を取り出し、紙をちょうどよい大きさで破る。
簡単に数字と英語の文字列をさらさらと書いて、悠真に渡す。
悠真は少し戸惑っているのか、おろおろとしていた。
俺は強引に悠真の手を引っ張り、「後で、時間があるときに電話かけてくれよな。」と伝えながら、連絡先を書いた紙を渡す。
「じゃあ、またな。」
俺は自分の荷物をまとめて持ち、少し薄暗い外へ出て行った。
読んでくださってありがとうございました。
ここからもっと距離を縮めていってほしいなと思いながら書いているのですが、この二人、なかなかゆっくり進みそうです。
次回もよろしくお願いします。




