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AnfangSage  作者: 上月琴葉
第二部 精霊界編
20/22

5話 影

「……」


「……その様子だとよっぽどのものを見せられたようね……」


 ムネモシュネは部屋から疲れた様な様子で出て来たシュリ達を見て、全てを察した。


「……あ、ムネモシュネさん。鍵返しますね」


 シュリはふたつの鍵を持ち上げるとムネモシュネへと手渡した。その手は小刻みに震えている。それでも鍵の重みを感じなくなると、彼女の手の震えは少しおさまったようだった。


「……なんていうか……苦労人だったんだな。リヒト。ある意味では忘れてしまって良かった記憶……なのかもな」


「このことはリヒトさんにもフィンスさんにも……黙っておくべきでしょうね」


 シュネルとアルヒェの言葉に全員が顔を見合わせて頷く。


「残念だけどそういうわけにもいかないのよね……『記憶の書』が開かれた以上、彼らも意識の奥底で同じものを見たはずよ」


「ど、どういうこと?」


  戸惑う彼らにムネモシュネは告げる。『記憶の書』はあくまで過去を記録しただけのものであること。そして開かれれば元々本人しか見れないように プログラムされているために『記憶の書』の持ち主にも必ずその映像が見せられる、そういうものなのだと。


「……とりあえずリヒトとフィンスを助ける方法はわかったんだ。それで良しとしないか?」


「マトリの言う通りね。今、あたし達にできることはとにかくふたりを助けることだけよ」


 冷静さを取り戻したクルクがマトリの言葉に頷く。


「じゃあ、とりあえずアールタラを出てアルスキールへ戻ろうよ。バルドル様に報告しないと」


 シュリは力強くそう言った。その姿に先程までの様子はかけらもない。


「よし、決まりだぜ。ムネモシュネさんありがとうございました。例外を認めてくれたみたいだったから」


 シュネルがそう言ってぺこり、と頭を下げる。他の仲間もそれに続いた。


「いいのよ。……それに、貴方達はまたここにくる。そんな予感もするしね……」


(少なくともシュリ様以外は、皆それぞれの過去を知る必要に迫られる時が来る……そしてそれはこの世界とも無関係ではない……)


 ムネモシュネは聞こえないように小さな声で呟いた。


「気をつけてね。シュリ様、皆さん」


 シュリ達はムネモシュネに礼を言うと、『時紡ぎの書庫』を後にした。


**


 「時紡ぎの書庫」を出てくる彼らの姿を見つけると、物陰で不自然に影が形を変え、そして人のような形をとった。影と同じ漆黒の瞳と髪。纏っている服も影と同化しそうなほど暗い漆黒。その瞳はどこか虚ろだった。


<よし……しかける……>


「とりあえず、歩きながらだけどわかったことを整理しておきましょう」


 アルヒェの言葉に全員が頷く。


「簡単に言えば助ける方法はふたつあるわ。新しく追加された現在の石素を取り除いてしまうことか、現在の石素と元々の石素に親和性のある石素を加えること。だけど現実的に考えて、後者の方が確実だし安全ね。リートの言ってた『アダマス』という石素の正体がわかればいいんだけど」


  クルクは言葉を続ける。


「リヒトに関してはとりあえず代償反応の心配はないと見てよさそうね。問題はフィンス。髪の色が銀から漆黒に変わったのは明らかな代償反応。 さらにシュネル達から聞いたり、新聞記事を見た所、彼の場合は力が『闇』。真反対の力を常に使ってるなら石素侵食も激しいはずよ」


「なるほど。リヒトとフィンスは月の子ども化――マナバランスを崩すという意味での一種の心喰らい――に関しては半分に分けることが出来た。だからふたりともハーフで済んだし、マナは必要だけど必ずしも血を飲む必要はない。けれど力に関してはそうではなかったということか」


 マトリの言葉にクルクは頷く。


「その辺は大体わかったけどさ、『代償』ってそもそも何なんだ?」


「ああ、普通は知らないわよね。『代償』っていうのは複数の石素同士の反発現象ね。基本的にはスペル系、ヴェール系問わずマナに干渉した場合に起こるわ。干渉直後によくあるパターンとしては体の痛み。気絶するほどの場合もあるわ。ほら、記憶の中でもふたりとも気絶してたでしょ。基本的には人間も精霊も扱えるマナ属性は1つよ。それは石素を通常は1種類しか持たないから。『代償』はあくまで理論上での考えでしかなかったんだけど ……まさか実在するとはね……特定の属性を偏って使う、もしくは強力な力を使うと侵食が進んで『代償』は酷くなるの。体が耐えられなくなれば……命を落とすわ」


 クルクは真剣な表情で説明を終えた。


「……とりあえずジェンティアに戻ったらエーレさん……ナハトさんかな?を探す必要があるね。フィンスなら何か知ってそうだけど、とりあえずはふたりを回復させないと……」


 シュリは何かの気配を感じてそこで言葉を切った。


 ゆらり。


「ねえ、今影が動かなかった?」


 シュリの言葉を、


「え?そんなことあるわけ、」


 クルクが否定しようとした時だった。彼女の影が膨れ上がり、剣の形になって彼女に襲いかかる!


「クルク!」


 マトリはとっさに剣を抜いて、彼女に襲いかかろうとしていた影を一閃した。影は驚いたように散り散りになって消えた。


「大丈夫?」


「あ、うん……あ、ありがとね。マトリ」


 地面に尻餅をついたクルクをマトリが抱き起こす。その前方では再び影が集まりイソギンチャクの触手のようにうねうねと不気味に蠢いていた。


「影が意識を持ってるみたいに蠢いています……みなさん油断しないでください!」


 アルヒェの言葉に全員が武器を構え、戦闘態勢に入る。影を見ていたシュリはひとつだけ動かない影があることに気付く。


(もしかしたらあの影が本体?他の影を触手みたいに動かして本体を守ってるのかも!)


「アルヒェ!シュネル!中心の動かない影を狙って!」


「わかりました!輝商戦!」「よし、喰らえ!焔牙!」


 アルヒェの放つ光属性を纏った斬撃とシュネルの拳から繰り出された炎を纏った衝撃波が影の中心を直撃する。


<……なるほど……よく……見破ったね……>


 そう声がして影が形を変え、人の姿を取った。影と同じ漆黒の瞳と髪。纏っている服も影と同化しそうなほど暗い漆黒。その瞳はどこか虚ろだった。


「誰!?」


<……ボクはスキアー。影を操る闇精霊の眷属。我らが主スカアハ様の命令だ……君たちを倒す……>


 スキアーの言葉にシュリは表情を変える。


「スカアハ様……って……おか……ミトラ様が封印したんじゃ……!」


 シュリの言葉をスキアーは嘲笑う。


<……心喰らいで闇に染まった魂はボクらにとっては力を大幅に回復する最高の食事なんだよ……ボクらはその力をスカアハ様に注ぎ続けて来た。 そして少し前に眠りから醒めて復活されたよ>


「……嘘……」


「心喰らいと言いましたね。では貴方達が心喰らいを……あんな酷いことを起こしているんですか?」


 言葉を失うシュリに代わって一歩前に踏み出したアルヒェがヒンメルファルトを突きつけたままスキアーに問う。


<そんな怖い顔しないでよ……ボクらだって心喰らいについてはよくわかってないんだからね……おっと>


 スキアーは喋りすぎたのか、しまった、というかのように言葉を切った。


「闇精霊の眷属なんでしょ、あんた。精霊でもわからない心喰らいの原因って……一体どういうことなのかしらね……」


(心喰らいは精霊が起こしているものではないということ?まさか人間が?だけどマナバランスを崩すなんてことそう簡単にはー)


  クルクの思考は襲いかかって不意に来た影によって途切れた。その影の攻撃をなんとか彼女はかわす。


<さあ、戦おうよ?よそ見してると捕まっちゃうよ?>


 見ればスキアーを取り巻くように影の触手が蠢いている。触手は全部で5本。ちょうど一対一だ。


「……こうなりゃ……!」


 シュネルは拳を構え、他の仲間よりも一歩踏み込む。そして襲って来た影に焔牙をくらわせた。攻撃を受けて影は散り散りになるが、少しすると何もなかったかのように元の形に戻った。


「シュネル!」


「俺がおとりになる!クルクやみんなはその隙に作戦を考えてくれ!影は実体がない。力押しじゃ勝てない!」


「そういうことなら俺も手伝うよ。スペルは使えないからね」


 シュネルの意図を読み取ってマトリもシュネルの横に立ち剣を構える。


<作戦なんて立ててる暇ないよ!捕らえろ!スキアー・ジェイル!>


 スキアーの指示に従って無数の影がシュリ達目がけて襲いかかる。その影を一時的にではあるがシュネルの拳とマトリの剣が無力化する。


「……光が当たれば影ができます。今は真昼……空にも雲ひとつないですし……」


「夜にするっていうのは流石に無理だもんね……せめて大陽を遮ることができれば……」


 シュリの言葉にピンと来たかのようにクルクが栞を取り出し構える。


「大陽を遮るならこの子に任せて!出でよ!移ろい変わる天候の精霊!ウェザリン!」


 栞が強い空色の光を放つと、雲の姿をした精霊がその場に姿を現した。


「大陽の光を遮って!」


 精霊はまるで同意するかのように光ると上空へと昇って行く。瞬く間に空は雲に覆われた。


<なんだって?精霊召喚……お前は人間じゃ……!>


 影は光に物体が照らされて生じる。大陽という光源を失い、スキアーの影の触手は全て消滅した。そしてスキアー自体にももう隠れられる場所は残されていない。影を操って戦うために、スキアー自体の戦闘力は皆無。


「アルヒェ!」


「はい!裁きの光よ、悪しき者を浄化せよ!サンクトゥス!」


 アルヒェの光属性スペルが発動し、光の雨がスキアーに降り注ぐ。


<……体が……溶ける……そうかお前は……ソウル……エーム……の……>


 降り注ぐ光にスキアーは溶けて黒い霧となり、最後は風に流されて消えた。


「ふう。なんとか倒せた……か……」


 それを見届けてからシュネルはその場に膝をついた。


「シュネルさんっ!」


 心配そうに駆け寄るアルヒェに、シュネルは「疲れただけだよ」と言うとゆっくりと立ち上がった。


「シュネルがバテるのはわかる気がするな。ほら、俺たち『時紡ぎの書庫』を出てから何も食べてない訳だし」


 マトリの言葉に同意するかのように全員のお腹が鳴った。


「じゃあ、まずはお昼にしようか。ちょうどあそこに食堂があるし。アルスキールに帰るのはその後でも大丈夫だよね」


 シュリ達はアールタラの食堂へと歩いて行った。


**


 一方その頃、ソウルエームのどこか。


「スキアーはやられてしもうたか。シュリ王女もなかなかやるようじゃな」


 スカアハは悔しそうに、でも少し嬉しそうに呟いた。


「スカアハ様、敵を褒めちゃだめですよー。確かにい、強い方が倒しがいはありますけどお」


「そういうお前もずいぶんと楽しそうだな、メリュジーヌ」


 タナトスの言葉にメリュジーヌはけらけらと笑う。


「楽しいよ?だって強い相手ってわかったんだもん。弱い相手なんて楽しくないでしょお?」


「全く……仲間がひとり倒されたというのに……」


 タナトスは溜め息をつく。こうなった以上はまた新たな作戦を参謀である自分が練り直さなければならない。


「そう言えばブロダイウェズはどうしておるのじゃ?あれからまったく連絡がないが」


 スカアハがそう呟いた時、部屋のドアが開いてブロダイウェズが姿を現した。少しだけ疲れているように見える。


「ただいま戻りましたわスカアハ様」


「おおブロダイウェズ。よくぞ戻った。して、疲れているように見えるが……」


 ブロダイウェズは答えずにソファに体を横たえた。


「もうくたくたです。どうして人間のオトコってああなのかしら。……まあおかげで私の『種子』はたくさんばらまけましたけど……」


「そーいうの好きなくせに何言ってるんだか。変態だもんね?」


 メリュジーヌがけらけらと笑う。


「うふふ。メリュジーヌちゃんはまだコドモだから知らなくていいのよ?眠る前にシャワーでも浴びてきますね。スカアハ様、今日は下がらせていただきますわ」


「ゆっくり体を休めるがいいぞ」


 ブロダイウェズはスカアハに向けて微笑んだ後、シャワールームへと消えた。


「さて、いよいよ我らも本格始動じゃな。シュリ王女がどれほどのものか……楽しみじゃ」

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