男爵邸を訪ねました。
( ゜ー゜)テケテケ(更新でございます)
峠を超えたあとは、大きな獣や魔物に出会うこともなく、当座の目的地であるカリパック男爵領の中心地、カルディの町へたどり着いた。
リィフの任地であるリトルバード地方は現在領主不在となっている。リトルバード地方の監視任務を暫定的に引き受けているのがカリパック男爵家である。任地入りをする前に顔を出し、引き継ぎをしろとの話だった。
カルディは魔境と人境の端境であるネルヴァ山脈の西の麓にある、最も魔境に近い町。
リトルバードまで行くと『近い』でなく『魔境』らしい。
町の四方は魔物の襲来に備えるための防壁に囲まれ、その上部には重武装をした兵士達が張り付いている。
<存外しっかりした町じゃな。あそこまでの防備があるとは>
ルルスファルドが呟いた。
――そうだね。
これだけの規模の防備を維持するには、相応の元手が必要だろう。
商人のアーシュに聞いた話によると、カリパック男爵家の当主ダナンは目端の利く人物らしい。
リィフと同じく十四歳でカリパック家の家督を継ぎ、廃墟も同然、限界男爵領などと言われた領土を二十年ほどで町といって差し支えないところまで立て直した。
立て直したと言っても、あくまで『経営が成り立つ』という程度のレベルで、富を生み出す、というほどではない。グラード本国やマールゥト侯爵家からの覚えは今ひとつだが、悪条件からスタートを考えに入れるなら、もう少し評価されてよい人物ではないかというのがアーシュの評だった。
スライム達には引っ込んで貰い、バッカニアとアルシードを連れてカルディの市街に入る。
魔境に一番近い町には、魔獣狩りを生業とする狩猟者が多く行き交っている。
要するに荒くれ者が多い町だ。
リィフがひとりで歩いていたらあっという間に絡まれていたところだろうが、バッカニアは人の姿を装っていても十二分に凄みがある。ちらちらと視線を向けられることはあったが、変なちょっかいをかけられるようなことはなかった。
そうして、カリパック男爵邸へと行き着いた。
大きくもなく、小さくもない、無難な規模の屋敷である。建物としてはわりと最近建てられたもののようだ。
番兵に来意を告げ、ジュノーからの書状を出すと、執事が顔を出して屋敷に通された。
それから少し、リィフたちは待たされた。
じれたルルスファルドが<少し見てくるかの>と言い出すのとちょうど同じタイミングで、ひとりの小太りの男がやってきた。
「待たせたな。私はこのカリパック地方を預かる男爵ダナンだ」
きっちりした仕立ての衣装を身につけた、金髪に口ひげの男だ。
「領都カマルから長旅ご苦労だった。我が屋敷への逗留を許そう。リトルバードへの案内人がやってくるまでは、ここで身体を休めるといい」
「案内をつけていただけるのですか?」
なんとなくだが、勝手に行けと言われると思っていた。
「道中で魔物の餌食になったり、逃げ出されたりしては困るのでな」
カリパック男爵ダナンは高慢そうな調子で言った。
嫌味な口調だが、不快感よりは違和感を覚えた。
ジュノーやシン、僧院長ノインが持っていたような骨髄に染みついたものとは違う、どこか芝居がかった高慢さだった。
<なめられんように振る舞っておるな>
ふわりと飛んでいったルルスファルドがダナンの頭に触れる。
<中身はわりに普通の男のようじゃ、待たせたのも演出じゃな。出待ちをしておった。普通程度には信用していいじゃろう>
幽霊にネタばらしをされているとも知らず、ダナンは重々しく両手を組んだ。
「聞いているだろうが、君の所領であるリトルバードはこのカリパック地方から西方に三十キロ行ったところにある盆地だ。水源はあるが、土地は耕作には適さない。地下資源の類も見つかっていない」
<温泉はあるようじゃ>
ルルスファルドが追加情報を引き出した。
――今は黙っててあげて。
話の本筋と違うので出さなかった情報だろう。
「まともな領地経営など、到底不可能な土地だ。君の勤めは、この土地で生活し、周辺の魔獣達の動きを監視することとなる。はっきりした原因は不明だが、リトルバードやこのカリパック地方には、通常の生物の数倍から十倍以上の超大型魔獣が出現する。やつらがネルヴァ山脈を超え、グラード本国に入り込むようなことになれば、国家存亡の危機となる。万が一にも、そういうことが起きぬよう、この土地の魔獣の動静を観察し、報告をする。それが君の役回りだ」
「その魔獣は……狩ってしまっても、大丈夫でしょうか」
積極的に手を出すつもりはないが、追い払ったり退治したりする必要も出てくるだろう。
ダナンはフン、と鼻を鳴らした。
「実物を見ていないからそういうことが言える。狩れるものなら狩ってみたまえ、命を無駄にするだけだと思うがね」
<若い頃に狩ろうとして腰を痛めたそうじゃ>
――ばらさない。
ルルスファルドが引っ張り出してくる情報に惑わされぬよう、努力してシリアスな表情を保った。
それを、反発の色と取ったのか、ダナンはことさらにふんぞり返るように胸を張った。
「ともかく、人が生きていくだけでも難しい土地だということは理解したまえ。生活に必要な物資については月に一度、コボルトの旅鉱夫たちに届けさせる」
「コボルトの旅鉱夫、ですか」
耳慣れない言葉だ。
「中央大平原に棲まう犬に似た種族だ。大平原を旅して鉱物を掘って暮らしている。我がカリパック男爵家とは友好関係にある」
ダナンはどや顔をした。
「任地入りをしたら、まず日誌をつけてもらう。その日誌と交換で旅鉱夫が君に物資を引き渡す。日誌は私を通じてマールゥト侯爵のもとへと送られるという流れだ。それと、一日に一度、狼煙を焚け、君たちが生きているかどうかで、異常があったかどうかを判断する」
「今はどうやって平原の状況を把握しているのですか?」
「問題を起こした狩猟者を、懲罰を兼ねて置いている」
「逃げたりしないんでしょうか」
「逃げないと思ったから置いた。三十日経った今も狼煙はあがっている」
「そうですか」
一体どんな狩猟者がいるのだろうか。
そんなことを思いつつ、リィフはうなずいた。
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次回更新は昼12時を予定しております。
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