大竜王ドーロ(1)
( ゜ー゜)テケテケ(更新でございます)
大竜王ドーロ率いるスキュラ討伐軍は当初のうちは優勢に戦いを進めていた。
スキュラは海に潜むもの、竜王族は天かけるもの。
空から焔を吐きかけ、海ごと煮立ててやれば、スキュラを殺すこと自体はたやすい。
大洋を盾に、深淵に潜られればさすがに殺しきれないというだけのことである。
――こんな下等生物共に。
みすみす版図を滅ぼされ、ムーアという奉仕国を喪った。
デンツァらにもう少しの智能が、もう少しの矜持があれば、こう情けないことにはならなかっただろう。
そんな憤懣とともに、黄金の大竜王ドーロは灼熱の焔を吐き散らす。
鉄はおろか、岩をも溶かす業火は、大ムーア島を焼き尽くし、灼熱の地獄と変えていく。
だが、ドーロはそこで突然、羽虫のように落ちた。
――なん、だ。
体に激痛が走り、しびれ、動かない。
ムーアの空には、目に見えないほど小さな毒の棘が漂っていた。
クラゲやイソギンチャクの仲間が持つ刺胞に似た器官が少しずつ、だが着実に大竜王たちの体を蝕み、自由を奪い、そして地上や海上へ落とした。
戦闘力に勝る竜王族への対応策として、スキュラたちが仕掛けた罠だった。
ドーロが引き連れてきた竜王族たちも、次々に墜落していく。
あはははは……。
うふふふふふ……。
あぁ、うあぁ……。
笑い声と、すすり泣きのような声が聞こてきた。
火に包まれ、焼け落ちた市街から、冒涜的な姿をした怪物が現れる。
ムーアの聖竜たちの骸に取り憑いた大型スキュラたちだった。
竜王族の体を利用することで、焔の影響を逃れていたようだ。
攻め時だと判断したのだろう。
息を潜めていたらしい中型、小型のスキュラたちも、自らの身が焼けるのにも構わず這い出してくる。
笑い、呻きながら、スキュラ達は地上に落ちたドーロと竜王族に迫っていく。
――や、やめろ! やめろ! 来るな、来ないでくれっ!
絶叫することもできぬまま、ドーロたちはスキュラ達に押し包まれていく。
そこに、輝く風が吹き抜けて、場違いな声が響いた。
テケー!
輝く風が刺胞を吹き払い、黒と青と銀のスライムが空から降ってくる。
三日月の斬月がスキュラを両断し、光の槍と回転槍が飛んだ。
テケ!
テケテケー!
青いスライムたちが地面に銛を撃ち込むと、清水が湧きだして、焼けた大地を冷ましていく。
湧き出した水は、スキュラたちには有益なものではないらしい。
その水に触れたスキュラ達は次々に光の粒子のように分解し、崩れ落ちていく。
さらに巨大なクリオネの化け物と、豹に似た有翼の獣竜が舞い降りてきた。
そして、
「大竜王ドーロ様とお見受けします」
人の声がした。
「私の名は僧侶リィフ、水神ヴァルナ様の指図を受け、スキュラの浄化に参じました。僭越ながら、助勢をさせていただきます」
一方的にそう告げた声は、何かの呪文を唱える。
namaḥ samanta-buddhānāṃ pṛthiviye svāhā
(ナマハ サマンタブッダーナーン プリティヴィイェー スヴァーハー)
大竜王の体から痛みと、しびれが取れていく。
それと同時に、ドーロの中の怒り、いらだちといった感情もすっと解けていった。
身を起こし、ドーロは声の主を探す。
クリオネの頭の上に、それらしい陸人がいた。
赤い髪をした、美しい少年だった。
竜王族は通常、陸人の美醜など気に掛けはしないのだが、何故か美しいと、尊いと感じた。
「心より感謝を申し上げます。尊き方。助勢のお申し出、謹んでお受けいたします」
自分でも驚くほど簡単に、そして厳粛に、大竜王ドーロはそう言って、跪くように頭を垂れていた。
そうすべき存在を前にしているのだと、魂が叫んでいた。
ドーロと時を同じくして、他の竜王族も快復し、起き上がり始めた。
テケテケ言いながらスキュラたちを駆逐するスライムたちに困惑する兵に、ドーロは大喝するように告げた。
「スキュラ以外には構うな! すべて味方だ!」
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回更新はお昼の予定です。
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