ヘドロの竜(5)
( ゜ー゜)テケテケ(更新でございます)
ヘドロの竜バッカニアは、海人族の少女アルシードと島の留守番をしていた。
機械人形たちはいるものの、リィフもルルスファルドもスライム達もいない。
逃げるなら今のうち、とも思ったが、アルシードをひとりにして逃げるわけにも行かない。
結局身動きが取れなかった。
――ああくそ。
どうにもならない。
相変わらず体からは毒と酸が出る、ついでにいうと身体のあちこちから血が出る。
再生力はあるものの、毒と酸まみれの体というのは、やはり生き物としては無理が大きいのだろう。
――死ぬよなぁ、これ。
明日なのか、一月後なのか、あるいは一年後なのか。
そのへんはわからないが、まぁ、そう長い寿命はないだろう。
自分の毒と酸でのたうち苦しんで死ぬことになる。
アルシードの前で、そんな死に様をさらすわけにもいかない。
やはり早々に姿を消してしまいたいところだが、このままリィフたちが帰ってこないという可能性も全くないわけない。
そう思うと、やはり身動きがとれない。
そうなることを見越して、リィフとルルスファルドは、バッカニアとアルシードのふたりだけに留守番を任せたのかも知れない。
「バッカニア様」
「奴らのガチクズ具合」から考えると聖竜呼ばわりはかえって失礼ではないか、という指摘をルルスファルドに受け、ようやっと「聖竜呼び」が治ったアルシードが大きな桶に入れた魚を機械人形たちの手を借りて運んできた。
例のスライム共が近海の洋上を駆け回ったり、海中を泳ぎ回ったりして取ってきたカジキマグロ。
綱を使って桶ごと流れてきた魚を受け取り、一息に呑み込む。
アルシードのほうも、機械人形たちが用意してしてくれた魚のパテを口に運んでいた。
空は明るく、海は穏やかだ。
スキュラたちの不気味な声も聞こえない。
――アホみてぇに平和だ。
このままずっと、こんな時間が続けば、どれだけいいだろう。
そんなバッカニアの思いは、
「これか」
突然空に現れた、童女姿の巨人によって打ち砕かれた。
――な、なんだ、こいつは。
ヘドロの竜は目を見開く。
リィフやルルスファルドと同等以上のバケモノのようだ。
単純な存在感では、リィフやルルスファルドのそれを大きく上回っている。
魔法かなにかで転移をしてきたようだ。
南洋に向かっていったはずのリィフとルルスファルド、スライムたちにアプサラスの姿も見えた。
それと、陸人族に似た黒い髪の見知らぬ女。
「……誰だ?」
「神だ」
巨人はふんすと胸を張り、そのまま波を蹴って近づいて来た。
「毒がある。来るな」
「それを聞いたから来た。じっとしていろ。悪いようにはせん」
巨人はヘドロの竜の前にしゃがみこむと、犬猫でも相手にするようにしてその頭を捕まえ、アガァと口を開かせた。
神という肩書きを鵜呑みにしていいのか、逆に笑い飛ばしていいのかはわからないが、相当に高次の存在であることは間違いないようだ。
バッカニアが穢した毒水に触れても、バッカニア自身の顎を手で掴んでも、どうということもないようだ。
――しかし。
なぜいきなり現れた巨人に捕まって、口の中をのぞき込まれているのだろうか。
同行しているリィフが止めようとしていないのを見ると、危険なことをされているわけではないようだが、脈絡がさっぱりわからない。
「バ、バッカニア様!」
事態を把握できていないアルシードが不安げな声をあげた。
「案ずるな」
落ち着いた調子で言った巨人は、「なるほど」と呟き、バッカニアを解放した。
「なんなんだ」
「おまえのその身体をどうにかできぬかと、リィフに相談を受けてな」
――やっぱりあいつか。
あの陸人が出てきてから、バッカニアを取り巻く世界はすっかり様変わりをした。
あの陸人が現れなければ、バッカニアもアルシードも悲惨な最期を迎えていた。感謝すべきではあるのだが、どうにも困惑させられる。
「どうにか、できるのか?」
「難しいな。見たところ、その身体の余命は一月もない。もとの構造からして間違っている」
「……そうか」
まぁ、長くは生きられないことはわかっていた。
充分に生きられたほうだろう。
<やはりダメかや?>
飛んできたルルスファルドが、巨人を見上げて言った。
「ああ」
巨人は重々しくうなずく。
「おまえの言う通り、転生させてしまう方が早かろう」
妙なことを言い出した。
「転生?」
<死んでもらったあとで、別の身体に魂魄を移す>
「……結局、死ぬってことか」
<そうなるが、あの娘の先行きを見守ってやることはできよう。無理にとは言わぬがな>
ルルスファルドはにやりと笑って言った。
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朝更新ができなかったので22時にもう一更新の予定です。
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