鞭で打たれました。
( ゜ー゜)テケテケ (更新でございます。当初の予告より早くなっております0時→20時)
( ゜ー゜)テケテケー(深夜0時じゃったら夜八時や九時でもそう変わらんと思ったようじゃ)
<ひどい変態じゃぞ、あれは>
僧院長ノインの部屋に向かう道すがら、ルルスファルドは真顔で言った。
<相当に犯っておる顔じゃ>
――言い方。
十歳かそこらの少女の姿で口走る台詞ではない。
<済まぬ。まぁともかく、坊主の顔ではないぞあれは。何故あのようなキワモノが僧院なぞに。叔父御殿も良く無事でおれたものじゃ>
――ぼくには興味がないみたい。
ベリスの男色趣味はリィフも知っている。
修行の一環である槍術の稽古で打ち据えられることは多く、何度も気絶させられたが、それだけだった。
リィフくらいの年頃には興味がないのかとも思ったが、気がつくとリィフと似たような年頃の小僧と懇ろになっていたりする。
単純に趣味でないのだろうと理解していた。
<解せぬな>
ルルスファルドは真顔で唸る。
<なにゆえ叔父御殿ほどの上玉を。儂が男なら絶対に放ってはおかぬ>
――もうやめようよ。
そんな話をしつつ、僧院長ノインの部屋の前にたどり着く。
扉をノックすると、「誰じゃ、答えよ」と声があった。
「リィフでございます。僧院長様」
「入れ」
「はい」
扉を開き、僧院長の部屋に入る。
僧院長ノインは五十歳ほどの、
<つやつやしたデブじゃな>
――やめて。
余計なことを言うルルスファルドに心中で苦情を入れつつ、リィフは目を閉じ合掌をした。
ルルスファルドの言葉通り、僧院長ノインは色白で脂ぎった肌をした肥満体の男である。
リィフの顔をじろりと見たノインは、側に控えていた二人の青年僧に「警鞭を打つ、押さえよ」と告げた。
<ケイベン?>
――おしおきの鞭、何もしないで見てて。
帰りが遅れ、僧院長を待たせたことへの仕置きだろう。
釈明は許されない。
どんな事情があれ、僧院長の不興を買った。
それがすべてだ。
二人の青年僧は、リィフの左右にまわりこむとその両腕を抱えて押さえ込む。
衣の胸元を開かれる。
脂肪がたっぷりついた身体をゆらし、部屋の床を揺らしてやってきたノインは革でできた短い鞭、警鞭を振り上げ、リィフの薄い胸を打った。
「いーち!」
青年僧たちが声をあげた。
普通なら胸の皮膚が裂け、息ができなくなる場面だが、
――あれ?
痛くない。
衝撃もほとんど感じなかった。
<『神槍紋』じゃな、打撃を防いでしまっておる>
――どうしよう。
痛くないのはありがたいが、全く平気というのもおかしいだろう。
<任せよ、適当に傷跡を描いておいてやろう>
リィフの胸に、赤いミミズ腫れが浮かび上がる。
ルルスファルドが『転生賢者紋』の魔力で描いたのだろう。
ノインが再び鞭を振り下ろす。
ビシーン!
さっきよりいい音がした。
皮膚が裂け、血が飛び散ったが、これも幻影のようだ。
傷みも衝撃もない。
「にーい」
青年僧たちが再び声をあげる。
ビッシーン!
「さーん」
「よーん」
「ごー」
「ろーく」
「なーな」
ビシン。
そのあたりで、僧院長ノインは鞭打ちの手を止めた。
あまりやり過ぎては話ができなくなってしまうというのが半分、単純に疲れたと言うのがもう半分だろう。
皮膚には汗が浮き、呼吸が乱れ始めていた。
「外せ」
ノインの指示を受け、青年僧たちは部屋を出て行く。
ノインはソファーに腰を下ろし、リィフは僧衣を直し跪く。
「少し前に、ジュノー様のお屋敷より使いが来た。貴様をリトルバード地方の領主にする故、僧籍を解き還俗させよと下知である。明日いっぱいを以て、僧籍を解く。速やかに任地リトルバードに向かうが良い」
「はい」
仔細は追って連絡すると言っていたが、思ったより話が早い。
大雑把なところは、リィフをマールゥト侯爵邸に向かわせた時点でノインに知らされていたのかも知れない。
マイス僧院になんの相談もなく、いきなり還俗の話を進めるとは考えにくい。
「これが任命書だ。下がってよい」
路銀はどうするのかとか、ひとりで行くのかとか、そもそもどういう経緯でリトルバード地方の領主などという役職が回ってきたのかとか、聞きたいことは山のようにあるのだが、「はい」「いいえ」以外の回答は許されていない。
「はい」
合掌、一礼をし、院長室を後にした。
「早かったな」
部屋の外で待っていた青年僧たちが、ニヤニヤしながら声をかけてきた。
合掌し、一礼をしたが、青年僧たちが礼を返すことはなかった。
「リトルバード地方の領主になるんだってな。可哀想にな」
青年層達は、リィフの先輩僧にあたる。「はい」「いいえ」以外の言葉は使えないが、今回はどちらの返答もできなかった。
「リトルバードがどういう場所か知っているか?」
「いいえ」
マールゥト侯爵領の西の果て、多くの魔物が住まう土地、というくらいのことは知っているが、それ以上のことはわからない。
「なんにもない荒れ地だよ。そのくせ魔物だけは多くて強い。領主っていうよりは、ただの見張り番さ。リトルバードの魔物の動きを監視して、侯爵家に伝えるのが仕事だ。危険で何の旨味もない。今まで任命された領主は、みんな死ぬか逃げ出した」
――今はどうなってるんだろう。
領主不在ということだろうか。
そんな疑問がわいたが、質問をする権利がない。
そう思うと、青年僧の一人が、
「それでは、今はどうなっておるのじゃ……どうなっているんだ? 誰も居ないってわけじゃないんだろ?」
と訊ねた。
いつの間にか青年僧の側に移動したルルスファルドが、坊主頭に手を触れている。
操っているようだ。
「今は誰もいない。領主邸ごと巨人に喰われたって話だ。それで急いで新しい領主が欲しいらしい」
「そんなところにこいつを送ってもどうにもならねぇだろ」
「アリバイ工作みたいなもんさ。リトルバード地方の監視は王命だ。空っぽにしておくわけにはいかないが、適当な人間を探すには時間が足りない。すぐに動かせる人間となると、こいつしかいないんだろうよ。これでもジュノー様とは血がつながってるから、格好もそれなりにつく」
――なるほど。
ようやく話が見えてきた。
使い捨ての領主ということだろう。
領主がいる、という形式を作れればいいので、準備期間も予算も人員もない。
逃げようが死のうが構わない。それくらいの感覚なのだろう。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次回も少し短めの予定です(1000字程度。朝7時予定)
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それではまた。




