僧院に戻りました。
( ゜ー゜)テケテケ(予定より早めですが、マイス僧院編開幕でございます)
テケテケとグールスライム達を『転生賢者紋』に収容したリィフは、ルルスファルドと共にマイス僧院へと戻った。
マイス僧院には百人からの僧侶がいる。
ルルスファルドの存在を察知され「悪霊退散!」とやられないか心配だったが、本人曰く「そのへんの一般坊主共に尻尾を掴まれる儂ではないわ」とのことである。
マイス僧院の僧侶をまとめて一般坊主扱いはどうかと思うが、闇の賢者の言うことである。
大丈夫だろうと思っておくことにした。
僧院に戻った時には、夕食時を過ぎていた。
還俗しリトルバード地方の領主になるよう命じられたことを僧院長に報告しなければならないが、リィフは僧院長のところにいきなり顔を出せる身分ではない。
指導役の僧侶に取り次ぎを頼まないといけないが、今は夜の祈祷と瞑想の時間だ。
僧堂をのぞき込むと、僧院の平僧侶達が趺坐をし、しんとして瞑想をしていた。
立っているのは、監督役である二人の副僧院長だけである。
そのひとりと、目が合った。
リィフが合掌、一礼をすると、その男、副僧院長シンは眉を吊り上げ、つかつか歩み寄ってきた。
「貴様! こんな時間まで何をしていた!」
副僧院長シンは、僧院長ノインの実の息子である。
マイス僧院の院長は世襲、妻帯も僧院長家に限って許されていた。
「なにをしていた」と口にしたが、別に事情を聞いているわけではない。
「ルルスファルドを埋葬するために骸山に行っていました」と言ったとしても、「勝手に口を開くな」と殴られるだけである。
許可がなければ「はい」「いいえ」以外の言葉を口にしてはならないというのが、マイス僧院のルールである。
コトノハ教でなくマイス僧院の独自のルールなので、どこの寺院や僧院でもそうというわけでもない。同じマイス僧院でも、尼僧院にはこういったルールは存在しなかった。
「もうしわけありません」と言うことも禁止である。
無言のまま合掌し、頭を下げたリィフを、シンは手にした木槍で殴りつけた。
「活!」
木槍は金属の穂の代わりに、丸いタンポをつけた槍である。
マイス僧院で教えている槍術の修行に使うものだが、穂がなくても充分に重くて堅い。
当たり所によっては充分大けがをする部類の得物だが、避けることは許されていない。
打撃の勢いに逆らわず、ころんと転がって受け身を取る。避けてはいけないのだが、受け身も取らずに血を流したり目を回したりしたら未熟者とそしられて罰を受けることになる。
ある程度の手応えを与えつつ、しかし血を流さない。
器用なことを要求される場面だ。
それまでのリィフは、というより、大抵の修行僧達は、そんな器用なまねはできずに地面に這いつくばらされたり、血を流してさらに殴りつけられることになるのだが、今のリィフには『神槍紋』の力がある。
羽根のような軽やかさで打撃の威力を受け流し、再び立ち上がる。
だが、上手くやりすぎた。
全く手応えがなかったのだろう。
副僧院長シンは青筋を立て「貴様! 避けたな!」と叫んだ。
「甘ったれが! その性根をたたき直してやる!」
<なんじゃこの横暴な小僧は>
ルルスファルドが呟く。
<よし、前歯を折ってしまえ>
――そういわれても。
今なら殴り倒せるのはわかっているが、それをやるとマイス僧院すべてを敵に回すことになるだろう。
マイス僧院の僧侶を全員殴り倒さないといけなくなる。
そこまでするくらいなら、この場は殴られておいたほうがいい。
<ぐぅ聖すぎるのも考えものじゃ>
ルルスファルドは小さくため息をつく。
シンが木槍を振りかざす。
今度は、手応えがあるように殴られなければならない。
だが、血を流してもまずい。
導引法と呼ばれる呼吸法を使い、魔力をつむじのあたりの一点に集中する。
「活ぁぁぁぁーっ!」
<なにゆえ、こうまで血管浮かせてイキリ散らしておるのじゃ>
――嫌われてるみたい。
少し前までは誰にでも厳しいのかと思ったが、目をつけられていることに最近気づいた。
誰にでも厳しく、誰にでも手を上げるタイプだが、リィフに対してだけは、妙な執拗さがあった。
リィフは男子でありながら尼僧院で修行をしていた時期がある。
初期指導の内容の違いから、叱責を受ける機会が多くなるのは仕方がないのだが、それだけでは説明のつかない、単純に、嫌われているだけとしか思えない部分が多かった。
大上段から大剣の一撃のように振り下ろされた木槍の一撃を、魔力で作った指先大の障壁で受けとめつつ、床に膝をついてみせる。
今度は手応えがあったようだ。
<おうおう、喜んでおる>
ルルスファルドが呆れたように呟いた。
上手く手応えを与えつつ、ダメージを殺すことができたようだ。
平然と顔を上げるとシンを刺激してしまう。わざと床に手をついてうつむいた。
「すぐに立て!」
居丈高に言ったシンは再び木槍を構える。
そこからすぐに木槍を振り下ろし、再度リィフを打ち据えようとする。
そこに、声が響いた。
「そこまでにしてあげて。僧院長のところに行けなくなっちゃったら困るでしょ?」
声の主は、マイス僧院の二人目の副院長ベリス。
歳はシンと同じく三〇手前、長身に妖しい雰囲気を纏った、美形の僧侶である。
シンと並ぶマイス僧院の二巨頭と呼ばれる存在で、槍の名手。
僧侶でありながら、『天槍』という二つ名で知られていた。
僧とは思えない口調だが、性的嗜好も僧侶にあるまじきところがあり、僧侶でありながら男色家として名を馳せていた。
普通ならば破戒僧扱いされているところだが、神がかりめいた武芸の才能があり、『紋なし』でありながら、王都で開かれた武道会では紋章持ちの騎士や武芸者たちを下し、優勝をした実績を持っている。
マイス寺院にとっては、看板役者のような存在であるため、乱行はおろか乱交の類いがあっても、見て見ぬふりをされていた。
単純問題として、敵に回して勝てる者がいないというのも大きい。
僧院槍術のナンバー2は、同じく副院長のシンだが、ベリスとの間には大人と子供の実力差があった。
故に、シンはベリスに口を出されると折れざるを得ない。
シンは鼻で息をつき、木槍を降ろした。
「僧院長がお待ちかねだ。すぐに行け」
「はい」
シンとベリスの両者に合掌し、一礼をしたリィフは、そのまま僧院長ノインのもとへと向かった。
( ゜ー゜)テケテケ(お読み頂き有り難うございました)
次話が12時更新としますが短くなります。
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それではまた。




