第12.5話 秘密のお話 皇子の心
今回の話は、前回の話の完全視点違いのため早くあげたかったので、こんな時間になりました
マブルに姉を見て欲しいと言われてから、改めて僕の婚約者であるヒールについて観察を始めた。
僕が彼女への不信感を感じた、勉学では未だに、彼女は僕の心を抉ぐる。彼女が来ない日に、いくら予習をしておいても、彼女の思考力に叶う日はなかった。
彼女は当たり前のように、僕以上の考えを披露しながら、僕を立てようとする。
実際それは、教師達に僕の頭脳を高く見せてもいるが、それ以上にうまく操っている彼女の能力に気づき、感心しているものもいるように思う。
下手な噂にはなっていないが、僕より彼女を重要視する者もいるだろうな。
ただ、彼女の存在は僕の能力の向上にきちんと繋がっているとすると、疑わずに考えるなら彼女は、彼女の使命を果たしているといえる。
なので、マブルの言う通りの彼女を考えると、本当に彼女のことは良く分からなくなる。
稽古を見たいと言って、親に頼み勝手に訪れていた令嬢は何人か見かけていた。視界の端で優雅に椅子に座りながら眺める令嬢や彼女同様に健気に立って見ている令嬢と様々ではあったが、どちらにしてもあそこまで的確に、稽古へのアドバイスをしたものはいなかった。
彼女も簡単には、運動して汗を流す姿を褒めていたが、普通の令嬢はそちらがメインだ。
騎士として武功を挙げて貴族となり、令嬢自身も剣を振るえる者も、見にきた令嬢の中には、混ざっていた。剣について相談をしてきたりはしたが、彼女のように意見を述べたりしなかった。
勉強同様、媚びを売るだけなら、他の令嬢通り姿を褒めたり、相談が適していたはずだ。なのに、意見する事を選んだのは、良く分からなかった。
次に、クッキーだ。初めて渡された塩キャラメルクッキー。あの甘じょっぱいという新しい切り口のレシピは、彼女の思惑通り、僕はどハマりしてしまった。他にも色々と考えて来てくれたレシピ達はどれも好ましく美味しかった。
他の令嬢にも、お菓子を自作してみたんです。と言って、持って来ている者もいた。
本当に令嬢が作ったのだろうか、と思ってしまうほどの完成度の高い物や、本当にこれを僕に食べさせていいと思ったのか聞きたくなる完成度の物も多かった。
一様に自分で作ったや、仲のいい使用人と一緒に作ったなど、どこまで信じれば良いか悩む物も多かった。
そんな中に彼女は、初めて見るクッキーを作ってきた。そして、彼女は事細かに言ってのけた。
作らせて貰えなかったから、レシピだけ考えたと。
実際、それだけならレシピも誰に作らせたか疑わしいが、マブルからの証言と、ヴィルランク家の使用人の噂を考えると、嘘には聞こえなかった。
塩キャラメルクッキーのレシピをもらってから、他に出回っていないかや、ヴィルランク家について簡単に調べた。クッキーを分けてくれることで、羨ましがる他家の使用人が結構いたらしい。そして、分けられた使用人達はヒールの趣味として、レシピ作りを話していた。
まぁ、それだけだと使用人を買収したようにも見えるが、僕視点だと流石にそこまでしているようには見えない。
結論を保留にしても、彼女のレシピを考えるというアプローチを、どう思えばいいのか悩ましく思った。
これらから考えると、僕はやはり彼女の意図がわからなかった。
僕に対して彼女は好意を向けているようには、見えない。けれど、僕からの愛情は欲している。
それらを思うとやはり、彼女はなにかを企んでいるように感じてしまうのは仕方なくも思った。
けれど、マブルとのことを思い出しヒールに寄り添って考えるなら、僕からの愛情が欲しい別の理由があると仮定するのが最良に思える。
人払いして、2人で話した時の彼女は、僕的には嘘をついているようには見えなかった。
そここそが、彼女を最も信頼できる可能性に僕は感じた。
だから僕は、もう一度同じ状況で、彼女について見抜くべきだと思った。
そこで、ヒールに時間を取れるか聞いたところ、即座に了承を貰えた。
そして、当日。
『ヒール。今日はわざわざありがとう。そして、突然このような形をとってごめんね。どうしても、君と不敬とか関係なく会話がしたかったんだ。』
やんわりと、理由を伝えつつ彼女の言葉を待った。
この僕の理由に答えつつ、彼女が今まで通りに会話が出来るかで、彼女の誠実さはわかるはずだ。
『いいえ、ギル様。大丈夫です。そういう事でしたら、なんでもお聞き下さい。』
彼女は快く返答した。
なので、僕は最初に直球を投げてみた。
『ヒールは僕との婚約についてどう思っている?』
少し、悩ましげに彼女は言葉を紡ぐ。
『それは、政治的な意味について聞いているのですか?それとも私のギル様に対しての気持ちでしょうか?』
なるほど。勉強熱心な彼女なら、僕達の関係性に対しての質問と捉える可能性もあったのか。
『いや、僕との婚約についてさ。僕自身のことや、将来王妃になること。それらについてどう思っているか知りたいんだ。』
『そうですね。まず、ギル様に対しては、聡明であり、また、今日のように相手の事を考えつつ行動できる、優しい方だとお慕いしておりますわ。』
当たり障りない言葉に感じた。
とりあえず、肯定的な文章だが、本音はしまうということか?
『そっか。それは、僕に好意があるということで良いのかな?』
とりあえず肯定されたくない文章をあえて投げてみる。
『そんな直接的に聞かれてしまうと悩んでしまいますね。私が私自身がまだ、未熟な為かわかりませんが、愛情をギル様に抱いているのかはわかりません。けれど、ギル様の事は、部下として支えるに値する方だと思っています。なので、その命令に結婚があるのなら、名誉な事だと思い受け入れる所存です。』
彼女に指摘され、自分を好きかどうか、堂々と聞いてしまったことに少し恥ずかしさを感じた後、語られた言葉を精査すると更に恥ずかしくなった。
褒められているのか、貶されているのか、凄く分かりづらい。
王としてなら、部下として支える価値があるとは言っているが、男性としては別に好みではない。けれど、命令なら仕方ないってところだろうか?
たしかに、これだと他の令嬢とは考えが違く見えるのは仕方ないのか?
王族だから好きです。という、令嬢もいるのに。彼女は王として認めるが、好きかはわからない。そう言うのか。
肩書きだけを見て欲しくはないと思うことは多いが、率直に言われると心にくる。更に、僕はそんな風に思っている相手に自分を好きかなんて聞いたのか、顔が熱い。
『え、あー、そうか。なんとなくはわかったよ。』
お茶を濁したような返事になってしまったのは、仕方ないと思う。
なので、話を変えるように、会話を繋ぐ。
『王妃になる事はどう考えてるの?』
『そうですね。権力があるに越した事はないので、恩恵は大きいだろうけど、リスクも跳ね上がる事を考えると一概に嬉しいとは言えませんね。』
ここで、否定的な言葉が入るとは思わなかった。なので、素直に聞いてみる。
『嫌ってことか?』
『嫌とまでは言いません。けれど、そこにある責任の大きさを考えるなら多少は足踏みをしましょう。けれど、ギル様なら部下として支えたいと思ったように、王妃になる人間もそれだけの価値のある人であって欲しくはあります。別に優秀であれとは、思いませんが、人としての魅力を感じる人間であって欲しくはあります。』
下手な人間にやられるくらいなら、自分がやるってことか。
これらの返答については、国の事を考えた発言のようにはとれる。
『なるほどね。』
『はい。ギル様がそうではない人間を選ぶとも思いませんが、下手な人になられるくらいなら、私が全うしたいなと思います。』
これらの言葉は、自分より相応しい人間が現れたなら、自分はその場を譲っても良いとすらとれる。自分自身に自信有り気にも思える言葉だが、どちらが本心か、迷いどころだ。けれど、今の質問の区切りどころはここだろう。
『うーん、まぁ、言いたいことはわかったよ。』
今一度、別の所から切り込んでみよう。
これについては聞きたかったし。
『じゃあ、少し話が変わるけど、いいかな?』
『はい。なんでしょう?』
『一緒に勉強するときの、あれはなんだい?』
『あれ?』
全くもって見当もつかないようだ。無意識なのか。わざとだからなのか。。。
『僕のことを立てたいのか、わからないけど、教師の質問にわからないふりをしつつ、僕にヒントをくれるでしょ?』
ヒールは少し思案した後、少し首を傾げつつ言う。
『私が目立つよりも、ギル様がお答えした方が、よろしいかと思うんですが。』
何ともなく言う彼女の言葉だが、僕としては思う事がある。
『ヒールが受けるはずだった、歓声を受けても私は嬉しくない。ヒールの方が、勉学に優れているのなら、それはそれで良い。下手な気遣いの方が心が痛い。』
ヒールは少し驚いた顔の後、申し訳なさそうに頭を下げた。
『すいません、配慮が足りませんでした。』
こんな反応をされると、更に僕が惨めだ。彼女は本気で申し訳なさそうにみえた。
『いや、私の未熟さもある。気にするな。』
そう答えるしか、できなかった。
なんか、だんだんと色々と聞くと自分のダメさが浮き出て辛くなってきた。けれど、ここで逃げるわけにもいかない。
とりあえず、飲み物を飲んで落ち着いていると、ヒールが逆に聞きたいことがあるというので、許可する。
『ギル様は女性の好みとかありますか?』
『ん?』
『先程、聞かれた通り私自身、愛情があるのか怪しくはありますが、命令としていずれ、夫婦となる方なら、出来れば私は愛されたいとは思います。現状、王妃という地位にも私が立つ可能性が高いなら、私はギル様と支えあえるようになりたいです。その方が国家運営も良いと思うので。』
そこが彼女の僕へのアプローチの理由なのか。どうやって話を持っていこうかと思っていたが、彼女からくれるとは。
そして、納得もできる。婚約者だからこその、振る舞いだったと。
『なるほど。』
『なので、女性の好みがあるようなら、出来る限りの努力はしたいと思います。』
納得は出来たが、困った話、考えたことはなかった。
漠然と自分を見て欲しいとか、貴族の柵を好まなくは思うが、好みが何かは分からなかった。
『ん、んー。女性の好みか。あまり考えた事はなかったな。』
『そうですか。』
ヒールは残念そうな顔をするが、納得してくれたようだ。
『だが、その考えには共感する。ヒールにはそういうのはあるのか?』
僕ももっと彼女に向き合う必要性を少しは感じてきた。見定めの最中ではあるが、これも何かに役立つかもしれない。
『いえ、聞いてはなんですが、私もまだ、そういった感覚はわからないのです。すいません。』
先程、僕の事を好みかわからないと、言ったのはそう言うことか。好みの感覚がわからないから、こその判断。
少し気持ちが上がった。否定された訳ではないようだ。
そのついでに、情報を取れる状況を作りたい。彼女の為に自分を見つめることも自分の為にもなりそうだし。
『いや、いいよ。お互い様ってことで。どうせ婚約は今後も続くんだ。今後、わかるようになったら、報告し合うってことでどうだろう?』
『え?それはまぁ、いいですが。恥ずかしくないですか?』
それは確かにそうだが、僕は今日結構恥ずかしい思いを一人で勝手にした。これくらい耐えられる。
『しかし、そうするしかないだろう。』
『まぁ、そうですね。そこは夫婦として乗り越えるべきものなのかも知れません。』
『うん。じゃあ、そういう事にしよう。』
『はい。』
ヒールも了承してくれるようだ。
『せっかくですので、聞いておきたい事があるので、いいですか?』
それに関する話なのか、ついでのようにヒールが言った。
『いいよ。なに?』
答えると彼女は、僕の手を取った。
『私の手は好みですか?』
て?
『手?手ね。いや、どうだろう?女性らしいとは思うけど。』
なぜ手なのか?僕はヒールの手を握ったり触ったりしながら、質問の意図に首を傾げた。
『この手に、多少のマメが出来たらどう思いますか?』
僕の視線に気づいたのか、ヒールは更に言葉を足す。
それを受けて、もう一度握って見ると、確かに彼女の手は、マメ一つ傷一つない、柔らかくて綺麗な手だった。
線が細すぎて、日常生活にも異常をきたしそうだ。
『ん?そうだな?てか、本当に綺麗な手だな。マメになってないにしても、厚みを感じない。大丈夫なのこれで?』
『現状は大丈夫です。料理を始め、レイピアなど持たせてもらえないものも多いですが、持ってくれる人は沢山います。』
『まぁ、そうだろうけど。これは、いろいろと不安に思うよ。』
素直に思った事を口にする。ヒールはその言葉を否定するように話をする。
『それが、狙いですよ。大事に護られるぐらいの女性になりなさいとの事です。』
『それは、物理的にというよりも、気持ちの問題だと思うのだが?まだ、愛情はわからないとは言ったが、知識が何も無いわけじゃない。強く、気高い女性も多くいる中、その隣に立つ男性はその女性を立派に支えていると思う。今のヒールのような女性を好む人はいるのだろうが、僕はあまり惹かれはしないかな?と思うんだけど。』
そんな何も出来ない人を好むのだろうか?いや、それらも跳ね除ける人間になれって事なのかもしれないが、僕はその人を好むかは何とも言えない。
すると、ヒールはそれに嬉しそうに聞き返す。
『本当ですか??』
『いや、この言い方はヒールに悪いかな?まだ、好みはわからないと言ったのに、好まないなんて言うのは。』
『いえ、私はその言葉を聞きたかったです。』
『え?』
どう言う事だろう?
『お母様は私に、全てにおいてギル様に好かれる為に、このような方法をとりました。けれど、ギル様がそれを望まないのなら、お母様は拒否しないはずです。私としては、またお爺様とレイピアの稽古をしたり、ギル様に今度は私の演舞を見ていただきたいなとも思っていたのです。』
その話は普通に面白そうに感じた。
ヒールとは大抵勉強でしか会わないし、運動は、僕らの婚約発表の時のダンスくらいだ。
あれも、優雅に踊っていたので、稽古ほどの運動量ではない。
彼女の剣筋は、前の時の話もある。多少は気になる所だ。
『それは良いね。僕もヒールが激しく動いている姿は少し気になるよ。』
『では、そう進言していただけると嬉しいのですが。』
なるほど、その方針は彼女的にも不満があったのか。更にそれを僕が否定してしまえば、本当に意味がわからなくなる。
僕のお母様からヒールのお母様に話を繋いでもらえば良いだろう。
『そうか、わかったよ。それについてはお母様に相談してみるよ。』
『本当ですか?ありがとうございます。』
ヒールは嬉しそうに答えた後、聞きたい事が終わったのか、紅茶に口をつけ一息ついた。
僕は今の会話や、今までのことから思った事があったのでそれについて聞きたくなった。
『今の話もそうだが、ヒールは許可された事以外は、あまりせず、わがままも言わないで、今ある現状で何かする癖があるように思うが、何か理由でもあるのか?』
ふとした疑問にも近い質問だったが、彼女はそれを聞いて、驚いたのだと、誰が見てもわかる表情をとった。
そして、数拍後に彼女は言った。
『私達貴族は人を導く存在だと、私は勉強してきました。その為に様々なルールや規律の元に、人々を統制し導いていくのです。そんな私達が、身勝手に規律を無視することは、それこそ罪であると私は思うのです。だから、私は妥協に繋がろうが規律を破る事だけはしません。それをするくらいなら、正しい手順を持って、ルールごと改変するべきだと、私は思います。なので、多少遠回りでも、私は努力を惜しみません。ただ、それだけが理由です。』
僕は結論として彼女を信じられなかった。彼女が最後に語ったその言葉は耳触りがよく、誰が聞いても完璧な言葉だった。次期王妃として完璧な考えだった。
。。。考えだったら理解出来た。考えだったら。
けれど、彼女はそれを実行しているように語ったのだ。
多少の浮つきも妥協もなく、完璧に。
そんなの普通の人の出来る事じゃない。彼女は聖人のような完璧超人でなければその言葉は通用しない。信じられない。
今まで見せてくれた、多少の弱みはどこに消えたのかあの言葉には、弱さがなかった。
僕のこの気持ちが杞憂なら、聖人である彼女に謝罪しよう。聖人なら、許してくれるはずだから。
だからこそ、そうじゃない場合の彼女は何を隠しているのか、何を思っているのか。
僕は知らなければならない。
彼女を信用するしないや、好き嫌いではない。彼女をもっと知るべきだ。僕はそう思った。結果、杞憂で彼女を愛せるならそれに越した事もないのだ。
『そうか、わかった。貴重な意見をありがとう』
その日の秘密のお話はそれで幕を閉じた。
二連続でいつもより長くなってしまいました。
ここまで読んでくれた方、ありがとうです




