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第12話 秘密のお話 私の心

またしても、超えてしまいました。ごめんなさい。

思った以上の長さになってしまって時間がかかりました。

区切るか迷ったんですが、区切る場所を考えると片方が酷く分量減らそうで諦めました。

低スペックでごめんなさい

 ギル様の女性の好みや剣を振るう女性をどう思うかなど、聞くタイミングが掴めぬまま、2ヶ月近く過ぎてしまった。

 その間に進んだことは、ビターのチョコチップクッキーや紅茶のフィナンシェなど、レシピの種類が増えたことだろうか?

 チョコチップクッキーなんかは、焼いた時にチョコチップが溶けてチョコがドロドロにならないようにチョコレートの製造から色々考えて作ったので、結構時間がかかってしまったりした。

 けれど、それらは軒並み好評で、ギル様の口にあったらしい。


 それでも、一番のお気に入りは塩キャラメルクッキーのようだ。今でも、定期的に食べているところを見かける。


 そういったところを見かけると、私としても頑張った甲斐があったなと思い、少し気が緩んでしまう。


 そういった姿が周囲からは仲睦まじく見えるようで、王宮内でも私たちの仲の良さは噂されているらしい。


 他の令嬢なんかが、ギル様に会いに来る事はまだよくあるみたいたが、そんなことを跳ね除けるように、私達は相思相愛のように語られている。


 私といる時の方が、ギル様の機嫌が良いように見える的な、噂もあったので、他の令嬢との差別化は成功したかなとも思っている。

 ただ、主人公と比べるとまだまだ、なんだろうなと思っている。


 もっと、ギル様が私に好意を向けてくれるには、どうしたらいいのか。

 やはり、剣で語らうこととかかな?

 そんなことを考えていたある日、ギル様から呼び出しをくらった。


 普段は、週に二回一緒に勉強し、ごく稀に稽古に同行させてもらっていた。

 動いた時の、水分補給に水以外の何かを用意出来ないかなと考えているのは、別の話。

 話を戻すと、普段の勉強の日に、別の日に時間を取れないかと聞かれたのだ。


 意図は読めなかったが私は即座に了承した。


 家でのマブルとの勉強や、マナー教育など、ギル様との交流日以外は別の日程が色々と入っている。けれど、詰めれば1日空けることくらいは余裕である。本を読んだり、レシピを考えたりと、好きに使っている時間はたくさんあるのだ。


 付いてきていたマリネと日程を調整しつつ、日付を決めた。





 そして、その日は来る。

 来るまで色々と考えたが、ギル様が私と時間をとってまで話したい事に検討がつかなかった。

 普段、勉強の休憩などで、会話をする時間はある。その時間だけでは足りないから、こその呼び出しなのだが、何について聞きたいのだろうか?

 お菓子のレシピや作成工程など、もっと詳しく知りたいとかそんなところだろうか?

 私との婚約についてでは流石にないだろう。今のところは、私が一番マシなはずだから。



 ギル様の部屋はいつもと違い、ほとんどの人払いがされていた。

 私たちへの応答をしたメイドとともに、私もマリネを下がらせる。


 人に聞かれたくない話か。私たちの今後の立ち回りで何か思ったことでもあったのだろうか?


 ここまでのことをされて、話をしたのはレシピの話をして以来だ。あれは結果としてギル様を喜ばせられたので、レシピなどを教えて、私のしていることを知られてもいいかと思ったが。

 今回はギル様から。

 何を話すのかな?



『ヒール。今日はわざわざありがとう。そして、突然このような形をとってごめんね。どうしても、君と不敬とか関係なく会話がしたかったんだ。』


 なるほど。私が一度、多少の不敬と思っても、正直に全て話すために、とってもらった形をとることで、私に本音を語らせたいということらしい。


 これはちょうど良いかもしれない。私も聞きたかったことがあるのだ。そちらについても聞くチャンスがあるかもしれない。

 さて、私に聞きたいことか。私の返答次第では、不敬になるからこそのこの場。

 何を聞かれるのか。


『いいえ、ギル様。大丈夫です。そういう事でしたら、なんでもお聞き下さい。』


 ギル様は私の言葉を聞くと、一拍置いてから質問をした。


『ヒールは僕との婚約についてどう思っている?』


 ん?んー?

 思ったより分かりづらい質問がきた。


『それは、政治的な意味について聞いているのですか?それとも私のギル様に対しての気持ちでしょうか?』


『いや、僕との婚約についてさ。僕自身のことや、将来王妃になること。それらについてどう思っているか知りたいんだ。』


 なるほど。確かに、返答次第ではギル様を傷つけかねないし、不敬に成りかねない。

 そして、そういった返答をされると思っていたということだろう。


『そうですね。まず、ギル様に対しては、聡明であり、また、今日のように相手の事を考えつつ行動できる、優しい方だとお慕いしておりますわ。』


 私や他の令嬢を好んでいないとわかっても、ギル様は絶対に無下にはしない。きちんと相手を見ようとする姿は確認出来るし、頼まれると自分が嫌かどうかではなく、可能か不可能かで考え、相手のために動いてくれる。


 そういった姿は、普通に尊敬に値すると私は思う。

 彼が王となった時、どんな困難にぶつかろうとも、ギル様は国民や部下の為に、頑張って働いてくれるだろう。そう思えるほど、立派な人だとは思っている。


『そっか。それは、僕に好意があるということで良いのかな?』


 ギル様は私を見定めるように聞いてくる。このような場を作っているのだからこそ、飾り気のある言葉は望んでいないということだろうか?

 割と、冷静に考えると恥ずかしくなりそうなことを、そのまま聞かれた気がする。


『そんな直接的に聞かれてしまうと悩んでしまいますね。私が私自身がまだ、未熟な為かわかりませんが、愛情をギル様に抱いているのかはわかりません。けれど、ギル様の事は、部下として支えるに値する方だと思っています。なので、その命令に結婚があるのなら、名誉な事だと思い受け入れる所存です。』


『え、あー、そうか。なんとなくはわかったよ。』


 私の指摘で少し、思うところがあったのか、顔を赤らめつつ聞いてくれるその姿は、人間らしくもあり、好感が持てる。

 部下として支えるには、不安もあるが、だからこそ支えようと思える人間だと私は思った。


 彼が私を必要とするかはわからないが。


『王妃になる事はどう考えてるの?』


 ぶっちゃければ、興味はない。国家規模でいろいろ出来るが、政策をいろいろ試して成果があるかなんてわからないんだ。領地ぐらいの規模でいろいろと思考していきたい気持ちはある。それが上手く行った時、国の政策として、推し進められる知り合いがいてくれれば、王妃になるメリットはあまり無いようにも思う。

 けれど、流石に不敬を許されているからってそのまま言う訳にもいかないだろう。


『そうですね。権力があるに越した事はないので、恩恵は大きいだろうけど、リスクも跳ね上がる事を考えると一概に嬉しいとは言えませんね。』


『嫌ってことか?』


『嫌とまでは言いません。けれど、そこにある責任の大きさを考えるなら多少は足踏みをしましょう。けれど、ギル様なら部下として支えたいと思ったように、王妃になる人間もそれだけの価値のある人であって欲しくはあります。別に優秀であれとは、思いませんが、人としての魅力を感じる人間であって欲しくはあります。』


『なるほどね。』


『はい。ギル様がそうではない人間を選ぶとも思いませんが、下手な人になられるくらいなら、私が全うしたいなと思います。』


『うーん、まぁ、言いたいことはわかったよ。』

 ギル様は少しかんがえる素振りを見せたあと、とりあえず理解はしてくれたようだ。


『じゃあ、少し話が変わるけど、いいかな?』


 彼は仕切り直すように話を切り替えた。


『はい。なんでしょう?』


『一緒に勉強するときの、あれはなんだい?』


『あれ?』


 なんだ、なんの話だ?よくわからず首を傾げてしまう。


『僕のことを立てたいのか、わからないけど、教師の質問にわからないふりをしつつ、僕にヒントをくれるでしょ?』


 教育の中で、女性が導かなければならない時もあるが、大抵の場合では、男性を立たせるように習ってきた。どんな時でも一歩引いて、ギル様の力になりつつ、支えられるような女性であるべきだと、そう教わってきた。

 なので、ギル様が悩んだ時は、上手くフォローしていたつもりなんだが。


『私が目立つよりも、ギル様がお答えした方が、よろしいかと思うんですが。』


『ヒールが受けるはずだった、歓声を受けても私は嬉しくない。ヒールの方が、勉学に優れているのなら、それはそれで良い。下手な気遣いの方が心が痛い。』


 そうか、ギル様はお優しい方だった。偽の栄光で喜ぶような人でも、それに気づかないような人でもなかったのだ。


『すいません、配慮が足りませんでした。』


『いや、私の未熟さもある。気にするな。』


 そうなると、あれは今後はうちやめかな。


 ギル様が、一度質問を辞めたのか、紅茶を飲み一息ついていた。

 まだ、質問はあるかもしれないが、タイミング的に私も何か聞いても良いだろう。時間はあるのだし。


『あの、私も質問してもいいですか?』

『ん?ああ、そうだね。僕ばかり聞いても悪いから、気にせず聞いて。』


 ギル様は快く承諾してくれた。ギル様も私に直接的に色々と聞いてきたので、私もそれで良いかなと思う。


『ギル様は女性の好みとかありますか?』

『ん?』


 ギル様が驚いたような目で私を見る。


『先程、聞かれた通り私自身、愛情があるのか怪しくはありますが、命令としていずれ、夫婦となる方なら、出来れば私は愛されたいとは思います。現状、王妃という地位にも私が立つ可能性が高いなら、私はギル様と支えあえるようになりたいです。その方が国家運営も良いと思うので。』


『なるほど。』


 とりあえず、私の考えを理解したのか、ギル様は頷いた。


『なので、女性の好みがあるようなら、出来る限りの努力はしたいと思います。』

『ん、んー。女性の好みか。あまり考えた事はなかったな。』

『そうですか。』


 これは、照れ隠しというより、本当にまだわからないのだろう。私も同じなのでこれは仕方ない。諦めよう。


『だが、その考えには共感する。ヒールにはそういうのはあるのか?』


 おっと、逆に聞き返されてしまった。けれど、申し訳ない。私も同じなのだ。


『いえ、聞いてはなんですが、私もまだ、そういった感覚はわからないのです。すいません。』


『いや、いいよ。お互い様ってことで。どうせ婚約は今後も続くんだ。今後、わかるようになったら、報告し合うってことでどうだろう?』


『え?それはまぁ、いいですが。』

 気づいたら報告か。

『恥ずかしくないですか?』


 ギル様は頭を少し回したかと思うと、確かにと呟いた。けれど、首を振る。


『しかし、そうするしかないだろう。』

『まぁ、そうですね。そこは夫婦として乗り越えるべきものなのかも知れません。』


『うん。じゃあ、そういう事にしよう。』

『はい。』


 結構、恥ずかしい約束をしてしまったが、まぁ、これでギル様について知れるきっかけがあるなら有難い話だ。

 ヒロインに会うまでにまだ数年あるのだ。多少は、リードできるかもしれない。


 さて、ついでだし、流れとしても悪くない。もう一つの質問もさせて貰おう。


『せっかくですので、聞いておきたい事があるので、いいですか?』

『いいよ。なに?』


 私はギル様の手を取った。

『私の手は好みですか?』

『手?手ね。いや、どうだろう?女性らしいとは思うけど。』


 ギル様が私の手を握り返しながら返答してくれる。


『この手に、多少のマメが出来たらどう思いますか?』

『ん?そうだな?てか、本当に綺麗な手だな。マメになってないにしても、厚みを感じない。大丈夫なのこれで?』


 んー、綺麗な手だな。までは、あれ改めると惹かれましたって思ったが、まさかの心配に変わった。まぁ、仕方ないか。これでは何も出来ないと思われても仕方ない。


『現状は大丈夫です。料理を始め、レイピアなど持たせてもらえないものの多いですが、持ってくれる人は沢山います。』

『まぁ、そうだろうけど。これは、いろいろと不安に思うよ。』


 んー、言ってしまうか。誘導にも思えるがまぁいいだろう。


『それが、狙いですよ。大事に護られるぐらいの女性になりなさいとの事です。』


『それは、物理的にというよりも、気持ちの問題だと思うのだが?まだ、愛情はわからないとは言ったが、知識が何も無いわけじゃない。強く、気高い女性も多くいる中、その隣に立つ男性はその女性を立派に支えていると思う。今のヒールのような女性を好む人はいるのだろうが、僕はあまり惹かれはしないかな?と思うんだけど。』


『本当ですか??』


『いや、この言い方はヒールに悪いかな?まだ、好みはわからないと言ったのに、好まないなんて言うのは。』


『いえ、私はその言葉を聞きたかったです。』

『え?』

 やばい、そのまま言葉に出てしまった。

 けれど、本音だ。


『お母様は私に、全てにおいてギル様に好かれる為に、このような方法をとりました。けれど、ギル様がそれを望まないのなら、お母様は拒否しないはずです。私としては、またお爺様とレイピアの稽古をしたり、ギル様に今度は私の演舞を見ていただきたいなとも思っていたのです。』

『それは良いね。僕もヒールが激しく動いている姿は少し気になるよ。』

『では、そう進言していただけると嬉しいのですが。』

『そうか、わかったよ。それについてはお母様に相談してみるよ。』

『本当ですか?ありがとうございます。』


 やはり、ギル様が運動を好きなのは合っていたようだ。恋愛的な感情による高ぶりには見えないが、友好関係はとりあえずこれであげられるのでは無いかと思うと、一石二鳥だろうか。久々にお爺様とも遊べるし、私としては嬉しい限りだ。


 私の話の区切りもつき、紅茶を飲み干したので、カップに紅茶を入れていると、ギル様がまた、口を開いた。


『また、こちらからの質問なんだが、いいか?』

『はい、なんでしょう?』


『今の話もそうだが、ヒールは許可された事以外は、あまりせず、わがままも言わないで、今ある現状で何かする癖があるように思うが、何か理由でもあるのか?』


 ギル様が、何気なく聞いた言葉だが、私は驚きのあまり目が見開かれていた。


 確かに、その自覚は少しあった。レイピアを禁止されたり、調理場に立てなかったりと、出来なければ問題を理解して、出来る事をしたり、問題を取り除いてから再度チャレンジしたり、ギル様への愚痴も、場を整えてから、令嬢として許される範囲を選んだ。


 ギル様の婚約者だって、気づいた後に、なんらかの問題を起こして外してもらった方が、本来楽なのは理解できた。唯の杞憂かも知れないが、ここまで気にしてしまうならそうした方が私の為である。

 でも、私は貴族として、そんな不敬な事、出来ない為ルールに従っている。

 これらの様々なルールを破るなんて、私には不可能だった。

 絶対に、出来ない事だった。


 だって、そんな事をしてしまったら、私の衝動が抑えられない気がしたから。一つを許してしまうと、どこまで抑えられるかわからなくなってしまうから。

 マリネを彫刻にすることも、お母様を花束にすることも。私はわかっている。してはいけないと。それがルールで、ルールを守っているからこそ、私も生きているのだと。


 だからこそ、私には一つも破るなんて出来やしない。破ってしまえば、歯止めがきかない気がするから。


 けれど、大丈夫だ。私は彼ではない。わかっている。私のは全て思うだけ。

 別のルールを破っても歯止めが効かず、行動することはない。

 けれど、私は公爵令嬢で、いずれ王妃にすらなる可能性があるのだ。ルールを作る立場の人間が、ルールを破る理由なんてない。その矛盾はあるべきじゃない。

 だから。


『私達貴族は人を導く存在だと、私は勉強してきました。その為に様々なルールや規律の元に、人々を統制し導いていくのです。そんな私達が、身勝手に規律を無視することは、それこそ罪であると私は思うのです。だから、私は妥協に繋がろうが規律を破る事だけはしません。それをするくらいなら、正しい手順を持って、ルールごと改変するべきだと、私は思います。なので、多少遠回りでも、私は努力を惜しみません。ただ、それだけが理由です。』


 その言葉をギル様はどう飲み込んだか、わからなかったが、

『そうか、わかった。貴重な意見をありがとう』

 と告げると、お茶菓子に手をつけた。

 その後は、取り留めのない話を少しした後、時間となったのか、マリネや侍女達がやってきてその日はお開きとなった。




そんな、私の話をここまで読んでくれた方、誠に有難うございます。




※この文章は前書きと続けて書いているので枕詞がおかしいです。

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