第10話 マブルの心境
先週誤字直すって書いたのに、一つしか進まなかった。頑張ろう。いや、頑張りなさい自分
僕の名前はマブル・ヴィルランク。このヴィルランク家に来てから半年近い時間が過ぎた。当主であるヴィルランク公爵は、僕の為に講師を雇ってくれたり、皇子様との繋がりを作ってくれたりと将来の為に色々としてくれる。まぁ、ヴィルランク家の今後や王宮に入る姉さんの為も色々あるんだろうが、分家で燻っていた僕を拾ってくれた恩は忘れない。それに最初は色んな勘違いから嫌われていると思っていた公爵夫人。誤解が解けてからは姉さんの言う通り良いお母様だった。皇子様に初めて会うときも、王妃様と皇子様との仲を取り持ちつつ話を振ってくれたり、家にいる時は、一緒に庭を眺めつつ近況を聞いてくれたりと、親子らしい距離感を保ちながら接してくれている。
2人に関して感謝したいことはまだまだあるが、今日のところはこのくらいでやめとこう。
最後に姉さんだ。もともと、姉さんの伴侶として考えられていたことを、公爵様から聞いていた僕は、役割を間違えて姉さんに惹かれてしまった。
透き通るような白い肌に、憂いに満ちた垂れた水色の瞳。そこに落とされた泣き黒子が、子供ながらに綺麗だなと思った。こんな女性を守り、愛でたいなんて思い上がった事を考えてしまった。
そこで僕が最も得意とする勉強を一緒にするようになる。年齢は同じだが、公爵令嬢の姉さんと、分家の為、場合によっては平民となんら変わらない僕とでは環境が違ったので、最初のうちは遅れをとっても仕方ないと思っていた。
最初の目標は、姉さんの学力を追い抜くことに決めていた。そして、それが間違いであることにすぐに気がついた。姉さんは僕なんかより断然頭が良かった。そして、その思考は貴族としての立場を理解し、多くの人を助ける為に回されていた。彼女は守られるよりも、断然多くの人を守り導ける立派な貴族様だった。
そのことに気づいてしまってからは、僕の好意に段々と変化が生まれた。人としての尊敬の念が大きくなり始め、やがて理解した。僕では彼女を守ることも、隣で支えるにも力不足なんだろうと。
でも、それに気づいてもあまり辛くはなかった。だって、そんな凄い人と僕は共に学び成長することが出来るのだから。姉さんの考え方や行動は、今後僕が宰相になる為にも、なった後にも役に立つだろう。
姉さんの"弟"というポジションを最初は残念に感じていたが、今となっては、僕にはなんてちょうど良く有り難いポジションなんだろうと思っている。
さて、そんな僕の身の丈話はここら辺で切り上げて、少し話を変えよう。
最近、姉さんはマリネさんとは別にアリルという平民の女の子を侍女として雇い始めた。アリルちゃんは、少し癖っ毛のある茶髪にぱっちりとした瞳、平民としてありきたりな色彩だが、可愛らしい印象の子だ。
仕事にも真面目で活発的な印象もあり、度々仕事をしているところを見たが、いつでもにこやかに、楽しそうな雰囲気が好印象に思っていた。ただ、つまずいたり角に小指をぶつけたりと少し気の抜けたところもあるようだ。
マリネさんや他の使用人に話を聞くと、覚えも良いし愛想も良いため、皆んなに好かれているような感じがするのは、そういった抜けた部分もあるおかげだろう。姉さんのように何かを成すわけではないが、万人受けするのは彼女のような見ているだけで元気になる人なのかもなと、何となく思っていた。
姉さんもマリネさんと同様にアリルちゃんといる時は、仲の良い友達や姉妹といる時のように楽しそうだ。
そんな3人が少し前からキッチンに通っている事を聞いていた。話によるとアリルちゃんは料理が好きなようで、料理の練習をしたかったようだ。使用人として覚えるべき事は一月くらいで覚えマスターしたようで、最近は王宮や学園についていった時にも、やっていけるように基礎学力や教養を身につけているようだ。料理はその合間を縫って練習しているらしい。
それに伴い、姉さんも料理がしてみたいなんて事を言ったらしい。アリルちゃん曰く男性は胃袋で掴めとの事らしく、姉さんはそれを皇子様であるギルダントに試した。
で、現在そのことについてギルダントから聞いている。
『マブル。君のお姉さんは最近、料理をしていたのは聞いているかい?』
『マブルの姉とは、前に俺が抱えてしまったギルダントの婚約者だったか?見目麗しくまた上品な令嬢だったと思うが、令嬢が料理なんてするのか?』
冷静さの後ろで何かを考えこみながら、聞いてくるギルダントに対し、不思議そうにリンゼンが言葉を追加した。
『ええ。最近雇った侍女が料理好きのようで、その練習の為一緒にキッチンに通っていたと思います。』
どこまで聞いているかわからないので、とりあえず当たり障り無く答えておく。
『侍女が料理好きか。。。じゃあ、そこで料理しているところは見ていないのか?』
なんだろう、その質問?料理なんてリンゼンが言った通り令嬢がさせてもらえるようなものじゃない。まさか、姉さんが自分で作ったなんて言うとも思えない。嘘をつくような人ではないはずだ。
『いえ、自分では作らせて貰えていないそうです。姉さんも結構残念がってましたね。』
ついでに言うと、レイピアで稽古をつけてくれていた姉さんのお爺様が来なくなったのは、ギルダントと婚約してからかもしれないと愚痴っていた。こんなに色々とさせて貰えなくなっていたなんて気付かなかったと。
普通そう言ったものは、王妃教育などとともに理解していくものと思うが、姉さんは聞き分けも良く頭が良いので、王妃教育されている事にすら気付かないレベルのことを、自主的に学んでいたのだろう。
『まぁ、そうだよな。』
僕の言葉に相槌を打つとギルダントは、ふむ。とまた、考えつつクッキーをかじっていた。
これ以上何か言う気は無いのかよくわからないが、話が止まってしまったので、僕も聞いてみる。
『それで自分で作れないからって考案したクッキーが、このクッキーだったと思うけど、気に入ったんですか?同じレシピだと思うんですけど』
明らかにバツの悪そうな顔で視線だけ寄越すギルダント。それに打って変わってリンゼンが反応した。
『このクッキーのレシピを作ったのが彼女なのか?』
『ええ。最初はオーソドックスなバタークッキーやチョコレートのクッキーを焼いてもらっていたそうですが、ギルダントにあげるならと、あまり甘すぎない方がいいと言って、考案したのがその塩キャラメルクッキーだったそうです。』
『へぇ、ギルダントのためになぁ。』
『レシピを作るために、何日にも渡り風味が上手く出るように研究を重ね、材料の配分なども色々試していたそうですよ。最も良いと思える物になるまで研究していたようなので、その期間は侍女や子供のいる使用人なんかは、出来上がったものをいただいて、喜んでいましたね。』
『甘味は平民では、あまり食されないらしいしな。』
リンゼンにここ最近のうちの様子を伝えていると、また、ギルダントが頭を抱えていた。
『そこまでして、僕に取り入ろうとするのは何故なんだ?』
ギルダントが呟くように言った言葉に、僕の口が止まる。代わりにリンゼンが拾ってくれた。
『好意を寄せているからじゃないのか?』
『好意を寄せているとは思えない。』
当たり前に言ったリンゼンの言葉を、ギルダントは有り得ないとでも言いたげに否定する。
『だとしたら、婚約者だからじゃないのか?』
『それだけならいいんだが。』
はっきりとしない言葉に僕も思わず言ってしまった。
『それ以外があるってこと?』
『いや、それはわからないんだが。』
ギルダントは少したじろいで答えている。僕も彼女に好意を寄せ、そして諦めたが、それは彼女を理解して色々と知っていったから思ったことだ。まだまだ知らないことも多いとは思うが、ギルダントよりは知っている気がする。
姉さんはなんだか、ギルダントに好かれるためにはどうするべきか考えている節がある。自分がどう思っているかとか、そう言った部分は全無視で、彼に好かれる事は婚約者の仕事の一つとでも思っているかのように。
その結果、ギルダントがその気持ちに追いつけていない。けれど、その頑張りや努力はわかるために、原動力が見えないことこそ不安になる原因だろう。
僕は姉さんにも不器用で上手く出来ない事もあるんだなと思うと少し嬉しく思った。
『ギルダントに言いたいことがあるなら、一つです。姉さんともっと話しあって下さい。表面的な話ではなく、きちんとお互いを理解し合うための会話をです。』
『そうか。。。マブルとしては、ヒールの事をどう思っている?』
まだ、少し迷いを持ちながらギルダントが聞くので、僕は自信を持って答えた。
『良き姉だと思っています。引き取られた家があそこで、彼女が僕の姉さんで良かったと、僕は思っています。』
『そうか。そうだね。決めつけは良くないね。。。わかったよ。ありがとう。』
最初の方は良く聞こえなかったが、爽やかな笑顔で、感謝を述べるギルダントを見て、少しは姉さんを見直してくれる気になったのだろう。よかった。
塩キャラメルって美味しいですよね。塩味のちんすこうも好きです。




