フェンスの向こうが遠すぎて
2区 某建物内 会議室
「アタシ今回パスしようと思うんで誰か代わりに行ってくれないっスか?」
黒を基調とした軍服をまとった四人がテーブルを囲んでいる。
その中で一人の女がやる気なさそうに椅子で遊びながら言った。
「おやぁ?珍しいですね、あなたは彼らに強い興味を抱いていたと思いましたが?」
背を丸めた陰気な男が女に問いかける。
「気分スよ気分、いつもならたまらなく好きな食べ物なのになんか今日は違うのを食べようかな……みたいな!」
女はいつもの如く軽く言った。
「前々から言おうと思っていましたが気分で仕事をするのはいかがなものかと」
頭を七三に分けた男が女をたしなめる。
真面目な雰囲気が全身からあふれ出ている。
「相変わらずまじめっスね~そんな生き方息苦しくなんないんスか?」
男はあきれ顔でため息を一つつく。
「私の生き方を変えるつもりはありません、というかあなたが不真面目すぎるんです」
「何という容赦のない物言い……あんたは鬼っスか!」
「がははははは!結構なことじゃないか、お互いの在り方を貫くがこその衝突だな!!」
大柄な男が笑う。鍛え上げられた肉体と顔に刻まれたしわそして顎に生えた髭がこの男の人生を物語っているようだった。
「さっすがおやっさん!わかってるスね!」
「おいおい……ほめてもなんもねえぞ?」
大柄な男は髭をさすりながら笑う。
「本当は~?」
女の目には期待と確信が混ざった色が浮かんでいる
「焼肉……食いてえか?」
「食べたいっス!やったー!」
万歳しながら女は喜んでいる。
「まったく……付き合いきれませんね」
七三の男は席を立った。
「ありゃ?食べないんスか?焼肉」
「自分の仕事は自分でしてください。焼肉はいただきます、日時が決まったら連絡ください」
「……あんたのそういうとこホント好きっス」
女は口元を手で押さえ必死に笑いをこらえる。
「水を差すようで申し訳ありませんがね、誰が今回行くんです?ちなみに私は行けませんよ?」
陰気な男は話を本筋に戻した。
「俺も無理だな!すまん!」
「じゃあ……やっぱり……」
すがるような目で女は七三を見つめた。
「はぁ……仕方ありませんね、私が行きます」
諦めたような顔でつぶやく。
「いいんスか?」
「その代わりいい店を予約してください」
「了解っス!」
7区 中心の町
「今日も暑いなぁ!あーやばい……くらくらする」
神崎は頭に手を当てふらふらとよろめく真似をしている。
「また倒れるんですか?今度こそ死んじゃいますよ?」
カナは神崎に買ってもらったアイスを食べながらなんだかんだと美味しさを顔ににじませている。
アイスはカナにとって初めての食べ物だったがカナはすでにアイスの虜になっていた。
「そんな顔でアイス食いながら言われてもねぇ……うまいか?」
神崎は少し呆れたような顔で聞いてきた。
「美味しいです、ごちそうさまです」
カナはアイスを食べながら口早に答えた。
「雑かよ!敬語を使ってるのに全く敬われてない感やべえな……」
後ろで騒いでいる神崎を置いてカナは宇佐美に駆け寄った。
「ここは何区でしたっけ?」
「7区だ」
「今回は何があるんですかね?」
カナは正直なとこ前の区であったような事は勘弁してほしい……そう思っていた。
あれこれ考えて歩いていると前を歩いていた宇佐美の背中にぶつかった。
「わぶっ……どうしたんですか急に立ち止まって?」
宇佐美の視線の先には学校があった。
校庭では汗を流しながら生徒たちが部活動に取り組んでいた。
「こんな暑いのによくやるねぇ、いや若いってのは素晴らしい!」
神崎の視線は女子学生の方に向いていた。
「神崎さん……ほとんど犯罪者みたいな顔してるの気付いてます?」
カナの氷のような冷ややかな視線が神崎にささる。
「違うって!俺はこの炎天下の中でも運動に真剣に取り組む若い力を見てたんだって!それにそんなこと言ったら宇佐美だって見てんじゃん!俺だけを責めんなよー!つかひどくない!?犯罪者みたいな顔ってどんなだよ!」
神崎は口をとがらせ必死に抗議している。
「宇佐美さんは誰を見てるんです?」
まさかそんなわけは無いと信じつつもカナは一応確認を取ってみた。
「いや、何となくな」
宇佐美は目を細め自分に無かった時間を過ごしている生徒達を見つめていた。
その時宇佐美は一人の少年を見つけた。
フェンス越しに陸上部であろう生徒達を見ながら悔しそうに唇をかみしめているのが分かった。
(あの子は一体?)
宇佐美自身なぜあの少年が印象に残ったか分からなかった。
程なくして少年はフェンスを離れ校舎へ向かって歩いて行った。
その姿を見て宇佐美は少年にとってフェンスの向こう側までの距離はほんの数メートルではない事に気付いた。




