アロハな男
熱い
人の焼ける匂いってこんな感じなのだろうか、普段食べている肉と大きく変わらないはずなのに。
嫌な臭いが鼻をつく、じゅうじゅうと音を立てて少しずつ知っていたものが形を変えていく。
どうしてこうなった?分からない、わかることはあの日から一人になったこと。
あいつが笑っていた事だけだ。
「お前の力の無さを怨めよ?」
……畜生
6月7日 7区 無人地帯
「ほんとにもう大丈夫なんですか?」
カナが宇佐美に問いかける、19区の戦いが終わったのち宇佐美は重傷だったため体の回復に時間を割いていたのだった。
「ああ、少し休みすぎたくらいだった」
宇佐美は軽く言っているがあれほどの傷が二週間ほどで治るとはカナには到底思えなかった。
「しっかしほんとに誰もいませんね」
周りを見渡しても人影はまったくない。
あるのは廃墟のビル群と廃棄された車などばかりで植物が無造作に生い茂りさながらこの世の終わりを連想させる。
そんな中に異様なものを見つけた。
「あれ……人じゃないですか?」
道の真ん中に人らしき物体が倒れていた。
宇佐美とカナが急いで駆け寄るどうやら男のようだった。
「大丈夫ですか!?」
声をかけ男の体を揺さぶる。
「は……」
やっと聞き取れるような声を出し何かを訴えている。
「腹が……へった……」
「空腹で動けなくなったのか……とりあえずそこの木陰に連れて行こう」
宇佐美が肩を貸し男を木陰まで運んだ。
「助かった!!ごちそうさん!!」
男は大量の非常食の空き袋の前で手を合わせる。
「食べすぎだ」
「食べすぎですね」
宇佐美とカナはじとっとした目で男を見つめた。
なぜなら男が食い散らかした食料の中には二人の昼ご飯も含まれていたからだ。
「まあまあ!そんな目をしないでくれよ!ほんとはレバーとかあれば良かったんだけどなぁ!」
やたらとテンションの高いこの男は神崎正吾と名乗った。
髪はツンツンと立っており、ハーフパンツになぜかアロハシャツといういで立ちだ。
健康という言葉が服を着ているような印象を受ける男だった。
「で?何であんなとこで倒れてたんだ?」
宇佐美にはそれが疑問だった。
こんな場所には余程の理由がなければ普通の人間いるはずがない。
「実は旅をしてるんだよ人探しの」
少し神妙な顔をして神崎は答えた。
「一人は古い知り合いでね、もう一人はまあ……個人的な用でね……俺はあいつを見つけるまで倒れるわけにはいかないんだ……」
「そうか、まあ頑張ってくれ」
「もう行き倒れないでくださいねー」
カナと宇佐美はさっさと立ち上がりその場を去ろうとした。
「え!?ちょちょちょ!結構シリアスな感じあったじゃん!もうちょいなんかあるでしょ?!」
神崎は予想外の反応に驚きを隠せなかった。
「いや……倒れるわけにはいかないってもうさっき倒れてたじゃないですか」
カナが冷たく言い放つ。
「えっ……まあそうだけどさ、だからってその反応は無くない!?」
「それに渡した分だけじゃなくて私たちのお昼まで食べましたよね?結構楽しみにしてたんですよ、麦芽クッキー」
宇佐美はカナからあふれ出る怒りを感じ取り黙っていた。
以前にもカナが楽しみに取っていたビスケットを食べた時にも同じことがあった。
カナは基本的には食に対して不平不満を言う事は無いがこれだけは食べたいと思うものがあるらしくそれをうっかり食べようものならこのような状態になる。
(馬鹿なやつだ……)
宇佐美は少しばかりの同情を抱いていた。
この状態のカナは怖い。
「ごめん!なんか別のもんあげるから!」
神崎の手を合わせ必死に謝る姿は神に祈っているかのようだった。
「別の物?麦芽クッキーよりいいものですよね?」
カナは眉をひそめる。
「もち!」
「まあ……ならいいですけど」
カナは渋々と神崎の条件をのんだ。
さすがにいつまでもふてくされているほどカナの器は小さくなかった。
「おっけ!そんじゃ行こうか!」
神崎は立ち上がり歩き出した。
「行くってどこにだ?」
宇佐美が問いかける。
「んなの決まってる!七区中心地だよ!元々俺もそこを目指してたんだから!」
「俺たちと一緒に行くのか?」
宇佐美は正直なところ神崎の事をまだ完璧には信用しきれずにいた。
「まあとりあえずは、この嬢ちゃんにうまいもん食わせないと後が怖そうだからな」
「私は嬢ちゃんじゃなくてカナです、てか後が怖いってどー言う意味ですか!」
カナは食べたかった食べ物を食べられた時に自分がどんな雰囲気を醸し出しているか分からないようだ。
「わかった、行こうか」
宇佐美が歩き出そうとすると不意に神崎が宇佐美に疑問をぶつけてきた。
「なんであんたコートなんて着てるんだ?」
「お前こそ何でアロハなんだ」
二人の間になんとも言えない空気が流れるのをカナは感じた。
(お互いに触れちゃダメなとこに触れちゃった……ってかんじかな?)
これが二人の神崎との出会いだった。




