人間の畑、叡智の罪
夢の島 実験棟 実験体保管室兼生産室 通称 人間の畑
「これって……」
カナは言葉が出なかった。ただただ、目の前に広がる光景を受け入れる事に必死だった。
部屋は大きく、天井までの高さは相当な物で照明が遠くに見える。
「あ!」
白川は何かに気付き容器に駆け寄った。
「ここにいるのは町で会った僕の友人達です。クローンがここまでそっくりの人間を作れるなんて……」
白川はあまりの技術力にただただ驚くばかりだ。
「そりゃ似てるっスよ、てか本物っスよ。ここには、実験に参加した人たちの『オリジナル』が保管されてるっス」
女がさらっととんでもない事を言っているのが白川にはすぐに分かった。
「オリジナル……?じゃあ、町に帰ってきた人達は……」
白川の顔がどんどん青ざめていく。
「そうっス、誰一人帰ってきてなんていなかったんスよ」
「帰ってきた人間全員がクローンだった?それじゃあ僕たちは、今まで偽物と暮らしていたっていうんですか!?そんなの嘘ですよね!?」
白川は女に詰め寄る。どうしても白川は女に嘘だと言って欲しかった。
「そういう事になるっスね、大多数の人間がそうだと思うっスよ?現にアンタも偽物と暮らしてた事になるっス」
女はただ淡々と事実を白川に突きつける。
「じゃあ……僕を励ましてくれていた友人は……」
白川は地面に崩れ落ちた。
「もちろん『本人』じゃないっスただの『自分の知っている人間の形をした何か』に励まされていたにすぎないっス」
「そんな……」
白川はその場に崩れ落ちたまま絶句していた。
「んー……まあそんな気にしない方がいいっスよ?」
女はそんな声をかけているのだが、カナからすると慰めているのか単にデリカシーが無いのか分からないのが本音だった。
「白川さん!とにかく恭子さんを探さないと!」
カナが声をかけると白川はハッとして顔を上げた。
「そ……そうですね!」
カナと立ち上がった白川は壁の方を見た。
「んで?どうやってこの中から『恭子さん』とやらを探すんスか?」
頭の後ろで手を組みぶらぶらとカナ達の後ろを歩きながら女が笑っている。
壁にはたくさんの人が入った容器が並んでおり、天上近くまで隙間なく並んでいる。
カナは女に勢いよく詰め寄りった。
「どうやって探せばいいんですか?」
女はにこにこと笑っている。
「さあ~知らないっスね~」
どうやら知っていながらすっとぼける気のようだ。
カナはさらに詰め寄る。
「どうすればいいんですか?知ってますよね?」
「だーかーらー知らないって……」
「知ってますよね!」
カナは女の言葉を遮った。つくづくこの女とカナの相性は悪かった。
「おお……意外と強引スね……分かったスよ……」
女はやっと観念したように渋々とリモコンを取り出しコントロールパネルを床から出現させる。
「で?探したい人の名前をフルで教えてくださいっス」
女はコントロールパネルの位置につき画面を見ている。
「深山恭子です」
「はいはいっと」
慣れた手つきで女はカタカタとコントロールパネルのキーを押す。
「はい出ましたっス!いやあ、さすがアタシ!有能!」
女は満面の笑みを振りまきながらカナを見てくる。
「で?何かいう事は無いんスか~?」
女は恩を売る気満々のような顔でカナ達を見ていた?
「ありがとうございます!」
カナが言うよりも早く白川が礼を言う。
「どういたしましてッス。ほら来ましたっスよ」
女が指差した方から機械によって大きな容器が運ばれてきた。
窓の部分は暗くなっていて中の様子は分からない。
白川が容器に近づくと容器の扉はひとりでに開いた。
恭子と再会できる事を白川は期待した。しかし容器の中には誰もいなかった。
容器が暗かったのは液体が入っておらず、電気もついてなかったからだ。
「そんな……なんで……」
白川は立ち尽くしてしまった。
「間違えたんですか?」
カナは女の方を見ると女は首を横に振った。
「そんなへまはしないっスよ、単純にいないってだけっスそれか死んでるかっスね」
「死んだ……?どういうことですか!?」
白川は女の方を見て叫んだ。
「ここのオリジナルからクローンは作られるっス、でも普通にオリジナルから遺伝子情報を採取しても出来のいいクローンはできないらしいっス、だからオリジナルの体を色々いじくるんスよ。」
「いじくる?」
白川は、大きく目を見開き女を見つめた。
女のその言葉には不穏な空気が漂っている。
「そうっス、薬物投与や電気ショックとかっスね。そうやってクローンを作れるようになったオリジナルは長くは生きれないっス、あくまでオリジナルはクローンという『作物』を作る『種』にすぎない…ゆえにここは畑と呼ばれるっス」
「……」
白川はうつむいたまま何も言わない。
「まあ、仮にその『恭子さん』とやらが生きてたとしても長くはないから早いとこ過去は忘れる事っス。現実を直視する力は生きていく上で重要っスよ?」
女はカタカタとコントロールパネルをいじっている。
そこにあるデータが表示された。
(ははーんそういう事っスか……なんだかんだ協力しちゃったって事っスか……)
「白川さーー」
カナが声をかけようとしたその時だった。
地響きと共に壁を突き破り白い機体が部屋に突っ込んできた。それは先ほどまで宇佐美と戦っていた機体だった。
続いて宇佐美も部屋に入ってくる。
「宇佐美さん!」
カナは思わず声をかけたが、宇佐美にこちらを気に掛ける余裕はないようだ。
「わーお!あれが噂の新兵器っスか、まさかここまで形になっていたとは……驚きっス」
部屋の隅に避難した女は値踏みをするように『新兵器』を見ている。
「んふふふふ!素晴らしいですねぇ!まさか生身でここまでやるとはねぇ!その判断力、対応力、何よりその力!実にいい!」
カナの耳に耳障りな声が響き耳がムズムズする。
「あまりの嬉しさに、出力全開にしてみましたがそれでもまだ粘るとは……」
「うるせえよ、黙ってみてろ」
八代の声を遮った宇佐美からは普段の温厚な雰囲気は全く感じ取れず、何か嫌な雰囲気を纏っていた。
見ると頭や手足からは血が流れ出している事にカナは気付いた。
「宇佐美さん!大丈夫なんですか!?」
「ああ、無事だったか……とにかく離れてろ」
宇佐美はカナの事ををちらりとも見ずに言った。
今の宇佐美には敵の姿しか映っていない。
「こちらの機器の調子もすこぶるいいですねぇ!出力最大の状態で300秒も動けるとは!過去最高ですよ!やはり『中身』を変えただけはありますねぇ!」
「そうかよ、もうあちこちガタが来てるみたいだがな」
宇佐美の言う通り機体の腕や足からはオイルのような茶色い液体が噴出しており、装甲には所々に亀裂が入っていた。
「かまいませんよ!どうせデータを取り終わったら廃棄する予定ですからねぇ!」
八代の言葉と共にうなりを上げて機体が宇佐美に突っ込む。
「最初程の速さは無い……それにその速さにはもう慣れた」
機体の斬撃を躱し、宇佐美の踏み込んだ足元の床が砕けたとほぼ同時に宇佐見は機体の胴体に一撃を入れた。
機体の装甲が砕け、壁に吹き飛ばされた。
壁の容器を潰しながらすさまじい音を立て機体が叩きつけられる。
「来いよ卑怯者、観戦するのも飽きただろ?それにいい加減お前の気持ち悪い笑い声は聞き飽きた」
「まさか……本当に勝ってしまうとはね……いいでしょうお相手いたしますとも!私の手で直接すりつぶして差し上げますとも」
モニターの音声が切れ部屋は一時の静寂に包まれる。
「嘘だ……こんなの……」
白川は壊れた機体を見て震えている。
「白川さん?どうしたんです?」
カナは恐る恐る覗き込む。
「え?」
壊れた装甲の隙間から見えたのはカナには見覚えのない女の人だった。
だが白川には誰なのかすぐに分かったようだ。
「恭子さん……?」




