夢の島の真相
「NDCTM」
正式名称
NerveDirectConnectionTypeMachinesoidiers
(神経直接接続型機兵)
軍は元々は人の神経を読み取り、その思考を電波変換し遠距離からの機体操作を可能にする技術を用いていた。しかし、乗り手の安全性や操作の容易さは確保できていたが同時に様々な問題も多く抱えていた。
一番の問題としては、思考を電波変換し機体に送る際に起きるタイムラグだった。
気候や環境、変換する情報にもよるが最大で十五秒のタイムラグが発生していた。
そこで、操縦者の神経と機体を直接繋げる事によってその問題を解消した。
大きな問題としては、機体と直接リンクしているため機体のダメージが操縦者に直接反映される事と機体の情報量に操縦者が耐えきれない点だった。
機体が破壊されれば操縦者は死に、また機体が読み取った情報や周りの情報を人の脳で処理するため、戦闘中など環境が目まぐるしく変化すると、脳が情報を処理しきれず脳が破壊されてしまう。
「緊急接続解除などのシステムはまだ開発中ですからねぇ、プロトタイプとはいえ出力や運動性能は過去の物よりも上がりましたが安全性はまだまだ……というわけでどれほどのダメージなら『操縦者』が壊れるのか?またどれほどの情報量になら脳が耐えられるのか」
「じっくり見せてもらおうじゃないですか。んふふふふ」
八代は顔に狂気じみた笑みを浮かべモニター越しから宇佐美を見ていた。
「速いな……」
機体は自らの運動性能を遺憾なく発揮していた。部屋の中を高速で移動している機体に宇佐美の放つ弾丸など当たるはずがない。
(狙いが定まらないな……銃弾も無駄にはできない)
機体の腕に取り付けられた機銃が宇佐美に向けられ銃口が音を立てて死を吐き出す。
壁や地面が砕け散る、その威力は体に当たった時に腕や足が千切れるだけで済んだなら幸運だと思えるほどだった。
弾を防ぐ手段を持たない宇佐美は動き回ってなんとか躱し続けるしかない。それはあまりにも一方的な戦いだった。
「おやぁ?銃を使わないんですか?」
壁面のスピーカーから耳障りな声が流れ出す。
「使ってくださいよ、装甲の強度も見たいのでまぁ当てられたらの話ですがねぇ」
八代はどうやらこの機体に絶対の自信を持っているようだった。
「そうか……ならなおさら使いたくなくなったな」
「んふふふふ!いいですねぇ!その強気がいつまで続きますかね?」
八代は喜んだ。機体の性能を試すだけでなくこの強気な男を殺せる事に。
「戦闘モードをニュートラルからスラッシュに変更して下さい」
八代が部下に指示を出した。
「了解、モードスラッシュに変更……完了しました」
八代の部下が機体のシステムを書き換えた。
「モードチェンジ……スラッシュ」
機体が変容していく。背中にあったスラスターが肩に移動し腰についていたブースターが大きく展開 する。
「さあ、近接特化に変更しましたから当てやすくなりましたねぇ」
両手をこすり合わせ八代は笑っている。
「ずいぶんと余裕だな」
宇佐美はやたらと余裕な八代の態度が気に食わなかった。
「そりゃあ余裕ですよ。どうせあなたの負けですから」
「なに?」
「確かに、近接を主体にしましたから距離は先ほどより縮み弾丸も当てやすくなったと思いますがね……だからと言ってあなたが勝てる相手ではありませんよ?」
後ろを向くとどうやら機体の変形は終わっているようだ。先ほどと比べても速さは上がっているだろうと容易に想像できた。
機体の右腕に装備されているブレードが展開された。
(来るか……)
宇佐美の銃を握る手に力がこもる。
宇佐美がまばたきをした次の瞬間、機体はすぐ後ろにいた。
機体のブレードが宇佐美に向かって振りおろされ、土煙があがる。
「近接特化で遅いわけがないじゃないですか」
八代は先ほどとは違う冷たい表情でモニターから土煙を眺めていたが宇佐美は出てこなかった。
「あなたは……22区で会った……」
カナはこの女を思い出すのにそう時間はかからなかった。それほどまでに印象が強かったのだ。
「おお!覚えててくれたんっスね!いやーうれしいな」
目の前で女がにこにこと笑う。
美人なのだが妙に信用できない笑顔を浮かべるような女だった。
「この方とお知り合いなんですか?」
白川が不思議そうに尋ねる。
「いや……知り合いというか何というか……」
カナはなんと言ってよいものか悩んだ。全く知らないとも言えないが知り合いというには相手の事を知らなすぎる。
「簡単に言うと、町で会った少し印象に残った人ぐらいの間柄っス!」
悩んでいるカナに代わって女はよく分からない例えを使って白川に説明した。
「つまり限りなく他人です」
色々言っているが結局そうなのだ、という結論にカナは落ち着いた。
「あっ……そうなんですか」
白川は無難な返答でその場をやり過ごした。
「ええー寂しいっスね!こんな短期間に二回もあったのにー」
女は口をとがらせ文句を垂れている。
「それで?なんであなたがここに?」
カナは話を戻した。このままいけば女ののペースに吞まれてしまうと感じたからだ。
「なんでかって?仕事ですよ、しーごーと」
「何のです?」
「それは…‥」
女はやたらと返事をためている。
そして女はカナの方をチラッと見た。
「それは?」
カナは女が自分から言うのを待とうと思っていたが仕方なく自分から聞くことにした。
「それは~……内緒っス!!」
散々ためたくせに女から返ってきた言葉はにわかにカナをいらだたせる。
カナの中で何かが音を立てた。
「状況考えてもらっていいですか?」
カナの言葉の圧が強めになる。
それを知ってか知らずか女は更に上機嫌になる。
「状況?考えるも何も……見たまんま檻にぶち込まれてるっスね」
ピキピキとまたもや音を立てるカナの中の何か。
「向こう行ってください」
これ以上話していたらまずいと思いカナは女を追い払おうとした。
「嫌っス!!どうやってそこから出るか見たいんで!」
カナを抑えてた何かが切れた。
「向こうに行ってください!今すぐ!できる限り!向こうに!」
自分達とは反対側を指さしてカナは大声を出しながら女に近づいていく。
「カナさん落ち着いて!」
白川が鉄格子越しに女に掴みかかろうとするカナを抑えた。
「たっはっはっはっは、いやー面白いっ!」
女は腹を抱えて笑ってから親指を立ててグッとポーズをとる。
カナにはもう反論するだけの気力が残っていない。
「いやぁ笑った笑った。お礼にこいつをどーぞ、手出してください」
そう言って女は拳を突き出した。
カナの差し出した手に一本の鍵が置かれる。
「これって……」
「そ、ここの鍵っス!笑わせてくれたお礼っス」
女はにっこりと笑う。
「あ、ありがとうございます……」
カナはあれだけ大声を出していたのが急に恥ずかしくなってきた。
鍵を開けて外に出る。
「で?ここからどうするつもりっスか?」
女は腕組みしてカナに聞いた。
「とりあえず、宇佐美さんと白川さんの彼女さんを探さないと……」
「あのっ!」
白川が突然大きな声を出し女に詰め寄った。
「あなたはここには詳しいんですよね?ならここに来た人がどこにいるか分かりませんか!?カナさんすいません……自分勝手とはわかっているんですが……」
白川の気持ちはカナには十分理解できたし、宇佐美がそう簡単にどうこうなるとは思えなかった。
なによりカナは白川がさっきうわ言で恭子の名前を呼びながらうなされていたのを知っていた。
カナは黙ってうなずいた。
「うーん……まあバリバリ詳しいってわけじゃないっスけど、多分あそこっスかねえ?」
女は顎に手を当てて考えているようだがまじめな顔は似合わないようだ。どうしてもふざけているように見える。
「可能性があるならそこに連れて行ってください!お願いします!」
白川は深々と頭を下げた。
「まぁいいっスよ、じゃあ案内するッス」
歩き出した女にについていく。
カナの手には濡れた鍵の感触がまだ残っていた。
「ところで何でクローンなんか作ってるか分かります?」
歩きながら女が軽ーく聞いてきた。
「病気や事故に備えるため……じゃないんですか?」
白川は自分の知る事実を素直に伝えた。
「ブー、違うっス」
「じゃあなんで……?」
白川は自分の知らない事実があることを知って怯えだした。
「軍はいろんな実験をしてるっス。兵器、薬、etc……そのための実験材料がいるっス、しかもたくさん」
女の口調は変わらない。
「そんでもってネズミとかの動物よりも明確に効果が知りたいとくれば……何を実験材料に使えば効果が一番わかりやすいかはわかるっスよね?」
女はカナの方に少しだけ振り返った。
「まさか……」
カナは背筋が寒くなるのがはっきり分かった。
そんなカナの顔を見てから女は前を見た。
大きな扉の前に立つ。カナの心にこの部屋に入りたくない気持ちがふつふつと沸き上がる。
「そのまさかっス人間を作っているんスよ、この『人間の畑』で」
女が扉の横の制御盤に数字を打ち込むとゆっくりと大きな鉄の扉が音を立てて開かれる。
そこには容器のようなものに入れられた人間が壁いっぱいに何十、何百といた。




