抗い
その現象にはっきりとした予兆はなかった。
だから、エデンから湧き出した無に、世界中に人々はろくに抵抗することもできなかった。
全てが死に絶えるためにかかった時間は、わずか1時間。
けれども、その1時間の間に、人々は必死の抵抗をしていた。
それは抵抗らしい抵抗とは言えないものだったかもしれないけれども。
生きるために足掻くその行動は、命が終わる時間をほんの少しだけあとにのばしたのだった。
「人々をひなんさせろ! エデンからなるべく遠くへ!」
あるところでは有名なギルドが、人々を守りながら、無に抵抗していた。
「リーダー、あれ魔法が効かない! 武器もだめだ!」
「泣き言を言うな。そんなふうに育てた覚えはないぞ!」
「けど。かないっこねぇよ!」
心が挫けそうになるメンバーたちを、リーダーである男性は必死に鼓舞し続けた。
最後に彼が倒れるその時まで。
「心が折れた時が、本当にだめになる時だって言っているだろう! どんな状況でも前を向け。死ぬなら笑って死ね! 生きる時もわらっていろいろ!」
あるところでは自警団が、己の職務を放棄して家族を守ろうとしていた。
「みんな、すまねぇ。でも俺は家族の方が大事なんだ!」
罪悪感に蝕まれる彼は、妻と子供の手をひきながら、無から遠ざかろうと走る。
「あなた! 子どもたちが!」
しかし、子供が無に捕まり、彼らも一緒にのまれてしまう。
同僚に背中を向けた男性は、今度は背を向けなかったがために。
またあるところでは、ハルジオンギルドのメンバーが人々を守っていた。
「エリー! 大丈夫か! 戦えないんだから無茶するなよ!」
「わかってるわ。でも、こんな時だから、命くらいははりたいの!」
ギルドのメンバーたちは、人々を庇って次々と倒れていく。
それはギルドリーダーも同じだった。
「ごめんなさい、ギルドのみんなを守れなくて、ギルドも守れなくて」
ギルドメンバーの最後を見届けたスフレは、その場にいない留守番のシノンのことを思い浮かべる。
「どうかせめて、シノンさんだけでも逃げてくださいよ。恨んだりしませんから」




