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白星への道  作者: 鬱病太郎
第1章 始まりと犯罪組織
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勧誘と開戦の第6話

 校庭中の生徒が大騒ぎしている。


「ふざけんな!どんだけ努力してAに入ったと思ってんだ!」


「そうよ!私たちの努力を返して!」


 激怒し、抗議する者。


「うおお!!やっぱり俺がCなんておかしいと思ってたんだ!」


「絶対Aクラスに上がってやる!!」


 歓喜し、やる気を出す者など、校庭には様々な感情が渦巻いている。


「…どういうことだ?」


「…いや、そのままだろ。社会に出る時にDよりAクラスの方が国は欲しがるし、探索者になった時にパーティを作りやすいだろ?でも実際やってみたら能力はあるけど戦闘は苦手ですじゃ迷惑がかかるし、学園の質も疑われるってことだ。俺そんなん気にしたこと無かったけど。」


 頭が弱くて理解できなかった優斗は、長々と説明してくれたおかげでやっと理解する。

 それでも今まで特に問題が起きていないのは、ひとえにこの学園の評価システムが優れているからだろう。


「静まれい!」


 好き勝手言う生徒達を、大声を出して無理やり静かにする。理事長の声に、校庭中が威圧される。強者の声は、それだけで他者を従わせる力を持つのだ。


「…よし。では続きを話すぞ。反対意見が多くあったがしかし、忘れて貰っては困るのが…この学園、ひいては魔術社会は実力主義ということじゃ。弱いものは強いものに従うしかない。当然いじめや不正はしっかり取り締まるがの?儂はこの学園で1番強い。1番強い故にある程度の横暴も許される。…いや、許されてしまうんじゃ。

極論、強ければ儂から理事長の席を奪うことも出来る。儂とて強いものの前では奪われるしかなくなるのでな。強さとは、今のこの世界で最も重要視される部分なんじゃ。」


 理事長の言葉には実感が籠っていた。自身も弱肉強食の理に組み込まれていることを言い放った理事長に、だれも文句は言えなくなる。


「…納得はいったようじゃな、それではこれからルール説明に入る。」


 渋々だが、生徒たちは納得する。

 その光景に満足した理事長は、ルール説明を始める。


「まず制限時間じゃが、今から一時間後の10時から午後6時までの8時間、参加人数はAからDクラスの総勢200人じゃ。最後の一人になるまで続けてもらう。」


 ここまでは特に変なところはない、普通のルールだ。


「イモータルシステムを用いてこの場所を除いた校庭全てに結界を貼り、戦場にふさわしい場所に変える。空間も拡張するのでな、狭い場所での戦闘とはならないはずじゃ。緊急事態が起こる可能性も考慮し、降参の意志を示せば即座に転移できるようにもしておる。また、少しづつ結界は狭くなり、最終的に半径20mの円になる。当然結界に触れても転移は発動する。」


 イモータルシステム───数年前にとある天才が開発した、拡張や環境変化、転移などの機能がある戦闘訓練のための空間改変システムである。

 これを使用した空間内に入ると体の表面に特殊な障壁が貼られ、それが破壊されると結界の外に転移する。

 この障壁は空間内で攻撃を受けると、傷や痛みはそのまま体に反映されるが、ダメージそのものは通さないというものだ。その特殊な障壁が破壊───つまり死んでも即座に結界の外に転移して全て元通りになるので、戦闘訓練にもってこいの優れものである。


「転移が発動した順番に順位を決め、最後まで残ったものが1位じゃ。そして1位から50位がA、その次がBとなるのじゃが…もし下のクラスに行きたいものがいたらその時申告してくれ。」


 わざわざ下のクラスに行く者がいるとは到底思えないが、一応説明しておく。


「ルール説明は以上じゃ。…ああそれと、上位5名には褒美も用意しておるからの、諦めずに最後まで頑張ってくれい!」


 やる気を促進させる言葉に、生徒達は目付きが変わる。


「質問はあるかの?……ないようじゃな、器具室に入って好きな武器を取ったのち、結界内に入るんじゃ。」



~~~~~~~~~~



「こんなん勝てる気がしねえ…。」


 器具室から剣を持ってきた優斗は────焦っていた。優斗は無属性の身体強化しか使えないので、他の者より不利なのだ。


 そこでふと、自分には最強の相方がいることを思い出す。


「…零哉、組もうぜ。お前がいればどんなやつも秒でミンチだろ?」


「…組むのはいいけどな、俺は今回、攻撃されないと反撃しないぞ?」


 あっさり人に頼る優斗に、零哉は言う。その言葉にちーんと音が鳴っていそうな顔をする優斗。


「い、いや当たり前だろ。学生レベルの戦いに俺が入るとか、子供のごっこ遊びに戦車持ってくるみたいなもんだ。俺が戦ったら殲滅に1分もかからんぞ。」


 広大な範囲と200人を相手にするのに時間の単位がおかしいと思いながらも、ド正論にぐうの音も出ない。


「…白星級になるんならこんなとこで躓いてちゃダメだろ。俺からの最初の課題は…とにかく死ぬ気で戦う事だ。負けたら負けたでいい。とにかく限界を越えろ。」


 初めて師匠のような言葉をかける零哉を見て、優斗は冷静になる。

 自分は白星級になるというのに、何をうじうじ言っているのだろうか、と。


「そうだ…そうだったな。よし…絶対勝つぞ!」


 弱い自分を鼓舞し、いざ結界内に入る。





 結界内は広く、元の校庭を何倍にもしたような広さだ。地面は荒野のようだが起伏に富んだ形をしている場所が多くあり、小屋や四角いオブジェのような障害物も沢山あるため、奇襲も可能である。

 ただの魔術の打ち合いや剣劇にはならないことがよく分かる場所だった。


「まずいな…。」


 そんな中、零哉は全くまずいと思っていなさそうな声で言う。


「零哉がまずいと思うこととかあるのか?」


「まあ俺と言うより、お前なんだが…。」


 説明するのがめんどくさいのか、ため息を1つついて話し始める。


「…お前さっき、俺に組もうって言っただろ?お前ごときが思いつくことを他のやつが思いつかないと思うか?」


「あっ」


 馬鹿にされつつ、それはその通りだと思う。


「まあ正直俺だけなら何億人来ても圧勝できるんだが…お前は無理だろ?」


「じ、じゃあどうすればいいんだ?」


 やはり単位がおかしいと思いながら、対抗策を聞く。


「簡単だよ、同じことすればいいんだ。」


「なるほどな…。でもそもそもそれって成功するのか?俺らは事情が違うが、残り1人になるまで続けるのにチーム組んだら意味ないだろ。」


 納得しながらも、無い頭を搾って自分の考えを出す。


「脳みそまで筋肉になったのか?よく考えろ。全員第1目標はAクラスになることなんだ。てことは…さすがにないだろうが50人まではチームを組める。」


「それはわかるが…全員倒し終わった後はどうるんだ?降参するのか?」


 もはや自分で考えることを諦め、さらに質問する。


「この学園に入るのにそのぐらいで終わるような無欲なやつがいると思うか?上位5人には褒美もあるんだ。残り50人になったらすぐ裏切るさ。そしてそれを互いに理解しつつもチームを組むんだ。Aクラスになるためにな。」


 その言葉に完全に納得した優斗はしかし、あまりいい顔はしていなかった。


「うーん、でもあんまりしたくねえな、そういうのは。1人か少人数で勝った方が強くなれるだろ。それに数の力で勝ったらじいちゃんがさっき言ってたこととズレるし。」


 優斗は大勢で勝つことを良しとせず、勝ち負けに関わらず少数で戦った方が強くなれると考えていた。

 それを聞いた零哉は面をくらい、次に満足げに笑う。


「…中々わかってんじゃねえか。だからどの道チームを組むにしても2人か、まあ多くても5人ってとこか。」


「わかった。じゃあ葵と茜とあと……リリアちゃんにしよう!」


「なんでもいい。俺動きたくないからここで待ってるわ。」


 さっきまで饒舌に語っていたのにもうやる気をなくしたのか、零哉はあぐらをかいて座る。


「よし、じゃあ勧誘してくる!」


「あーい。…………あ、あいつ…場所分かんないのにどうやって探すんだ…」


 すぐに走り出した脳みそが筋肉の弟子を眺めながら、眠かった零哉は欠伸をし、そのまま眠りに落ちる。



~~~~~~~~~



「「いいよー」」


 意外と早く目的の2人を見つけられた優斗はあっさりOKを貰い、連れていこうとするが、


「ちょ、ちょっと待ってください!僕らと組むって話はどこいったんですか!」


 双子からそこそこ離れた場所にいた5人のうち、剣と盾を持った男子が前に出て抗議する。


「いや、組んでるヤツいるじゃねえか……遠すぎて別チームかと思ったわ。」


「僕はゆうと組むことにしたよ。」


「私もー」


 ツッコミを入れる優斗を他所に、双子は男子生徒に向けて非常に無責任な言葉を吐く。


「そ、そんなあ…めちゃくちゃですよ…。」


 彼だけではなく、後ろの4人もショックを受けていた。まるで子犬のような目で助けを求めている。


「い、いや、やっぱいいよ。先に組んでるヤツいるなら……。」


 さすがにいたたまれなくなり、優斗は自分から切り出す。

 感情がわかりやすいのか、男子生徒はとても嬉しいのがよく伝わってくる顔をしている。


「そう?ならまーいいんだけど。」


「じゃあまた後でー。」


「おう、頑張れよー。」


 少し名残惜しそうにしている双子と別れ、次の人物を探す。



~~~~~~~~~~



 少し時間がかかったが、リリアを見つけた優斗は、案の定1人なのを見て咄嗟に声をかける。


「リリアちゃん、1人なら俺と組まない?」


 焦ってナンパみたいな言い方をしてしまった。

 人に話しかけられて嬉しそうにしつつ、訝しげな視線を向けているリリア。


「あー、いや、リリアちゃん水属性得意なんだよね?てことは光の次に回復量多いから、回復魔術使えるならどうかなって思って…」


 本音は可愛いから誘いたいのだが、そんなことを言えるはずもない。

 即席の言い訳にしてはまともな事を言った優斗に警戒心が解けたのか、話し出す。


「は、はい。回復魔術は使えますが…良いんですか?私で…。」


卑屈なリリアにさらに言葉を重ねる。


「むしろこっちがお願いしたいぐらいだよ。…実はもう一人いるんだけど、ほら…2人とも無属性しか使えない不良品チームなんだ。だから誰も組んでくれなくてさ…。」


 最強の師匠兼相方を不良品扱いするのは心にくるものがあるが、グッとこらえて最後まで口に出す。


 普段とは比べ物にならないぐらい口が回っている優斗。この男は意外とナンパ師の才能があるのかもしれない。


「そういうことなら…。私も1人だけ魔族で友達が居なくて困っていたので、助かりました。」


 優斗の言葉にすぐに了承したリリアと、いざ零哉の元に戻ろうとした時───



『ただいまより、第1回クラス分けバトルロワイヤルを開始する!!』



 拡声魔術で大きくなった声の理事長が、バトルロワイヤルの開始を宣言する。


「や、やべえ…死ぬぞこれ…。」


 零哉とはぐれた優斗は、結界に入る直前のやる気はどこに行ったのか、急に弱気になっている。

 その優斗につられて気が弱いリリアも挙動不審になる。



 仲間外れのオドオドコンビは、最強の助っ人を失った状態でバトルロワイヤルを開始する───

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