↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会社を辞めてダンジョン配信者になった俺、ユニークスキル《ハッキング》で成り上がる  作者: 荒火鬼 勝利


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/8

第1話 退職と、新たな始まり


 この世界に“ダンジョン”が現れて、三十年。


 日本でも十年前から民間探索が解禁され、いまでは「ダンジョンライバー」なる職業まで登場していた。


 ――だが、佐藤アキラには関係のない話だ。


 パソコンのモニターが放つ青白い光が、彼のやつれた顔を照らしている。


 時刻は深夜二時。誰もいないオフィスで、キーボードを叩く音だけが響いていた。


「……よし、これでデバッグ完了」  

 疲れ切った声を漏らしながら、アキラはコードの最終チェックを終える。


 何週間も徹夜して完成させた販売管理システム。


 プロジェクトマネージャーは「君ならできる」と笑い、上層部は「期待している」と声をかけてきたが、彼らは現場の状況をまるで理解していなかった。


(期待、ね……けっきょく現場に押しつけてるだけじゃないか)


 チームの連中は定時で帰り、残った仕事はすべてアキラの机に積まれていった。


 気づけば、ここ数日は自宅に帰れてすらいない。

「はぁ〜。我ながらよく間に合わせたもんだよ……」 


「おっと……」

 画面を閉じると、ふと疲れがどっと押し寄せた。


 ぼんやりとスマホを取り出し、指が勝手に“D(ダンジョン)ライブ”のアイコンをタップする。


 画面の中――派手な装備の探索者が、仲間と笑いながら巨大なモンスターを討伐していた。

 コメント(らん)には「神プレイ!」「最高!」の文字が流れ続けている。


「いいなぁ……」

 アキラは小さく呟く。


「命懸けで戦って、仲間と笑い合って……俺、最後に笑ったのって、いつだっけ」

 それは自分でも覚えていないほど、遠い昔のことのように思えた。


(そういえば……会社に入ったばかりの頃、《《ダンジョン従事者登録》》だけはしたんだよな)

 ぼんやりとした頭で、アキラはとりとめのない考えを巡らせる。


「はは、いっそ俺も会社を辞めて“ダンジョン(D)ライバー”にでもなってみるか……!」

 深夜のテンションに任せて、アキラは一人盛り上がるのだった。



 ◆◆◆



 翌朝。


 ネットカフェで仮眠をとったまま出社したアキラを待っていたのは、理不尽な報告だった。


「佐藤君、今回のプロジェクト、本当によくやってくれた。ただ……」

 上司の重苦しい口調に、アキラの不安は増大していく。


「クライアントから、納品物のパフォーマンスが要求水準に達していないと連絡があった。その結果、満額は支払われず、会社の利益もほとんどない状況だ」


 アキラの頭は真っ白になった。何週間も残業し、心血を注いで完成させたプロジェクト。それが一言で否定されたのだ。


「えっ…?」

 かろうじて絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。


「会社の利益がない以上、君のボーナスも出せない。そして、次の社内評価も下がることになるだろう」


「何でですか!?」

 アキラは思わず立ち上がった。


「俺はこの数週間、連日残業してまで要求通りのものを作ったんですよ!? クライアントの要求を把握しきれていなかったのは他のチームの責任でしょう!?」

 アキラの訴えに、上司は疲れたようにため息をつく。


「はぁ……。君の言い分はわかるが、これは会社の決定なんだ。不満があるのであれば辞めてくれても構わないんだよ?」

 どうせそんなことできないんだろう? といった顔で馬鹿にするように上司が笑う。


 その瞬間、ぷつんと何かが切れた。


 ――もういい。


 スーツの内ポケットの中から、一枚の封筒を取り出す。


 それは達筆で書かれた『退職届』。いつか使ってやると普段から忍ばせていた物だった。


 アキラはそれを上司の机に音を立てて叩きつける。


「辞めます」

 その言葉を口にした瞬間、胸の奥の何かが、スッと抜けていく。


 静寂。


 目の前の上司は、まるで知らない生き物を見るような目でアキラを見つめていた。


 その視線が妙に可笑しくて、アキラは思わず口元を歪めてしまう。


「退職は法律上、2週間前に申し出る義務があるので、残っている有給で期間を消化しておいてください」

 事務的な通告を淡々と行うアキラ。


「お世話になりました」

 アキラは深く頭を下げ、静かに背を向けた。


 上司はただ、その背を呆然と見送ることしかできなかった。


 エントランスに立ち、ガラス越しに自分の姿を見た。

 やつれた顔。濃いクマ。ヨレたスーツ。

 だが、その瞳の奥に、わずかな光が宿っている。


「……次は、自分のために生きてみるか」

 ――ガラスに映った自分の姿を見て、アキラはそう思ったのだった。



 その夜。


 アキラは狭いワンルームの机で、転職サイトを眺めながらため息をついた。


(……どこも同じ感じだな)

 小さくため息をつく。今どき、ブラックではない会社を探す方が難しいのかもしれない。


「気分転換に切り抜きでも見るか……」

 Dライブのアプリを起動して、面白そうな動画を探す。


 画面の中では、炎を吐く魔物に囲まれた探索者が、焦りながらも剣を構えていた。


『よっしゃ、行くぞぉぉ!!』

 次の瞬間、爆炎。


 探索者は一瞬で黒焦げになり、画面が真っ暗になる。


 コメント欄には【死んだwww】【草】【これでもう三回目だぞwww】と笑いの文字が流れていた。


(実際に死んでるわけじゃないとはいえ、悪趣味な……)

 アキラは顔をしかめた。


 そう思いながら次の動画へスクロール。

 タイトルが、ふと目に止まった。


『【要注意】10年前の登録証が紙切れに!?特典消滅前に〇〇する裏技公開!』


「はぁ!?」

 アキラは思わずサイフから“ダンジョン従事者登録証”を出して確認する。


 するとそこには使用期限として、数日後の日にちが記されていた。


(まさか……!)


 根拠のない焦りが、胸の奥を駆け抜ける。


 震える指で、アキラは動画の再生ボタンを押した。


 動画の内容は、民間探索が解禁された当初に登録した者だけが受け取れた特典が、まもなく期限切れで消滅するというものだった。


 画面の下に映る文字を追ううちに、アキラの眉がわずかに動く。


 特典として配られたスキル結晶は、売るだけでも最低数万円になるらしい。


(数万円……これがあれば、しばらくは食いつなげるか)

 そう考えた瞬間、アキラは両手で頭を抱え込んでいた。



 生活のために売る――それが“当たり前の判断”だと自分が思ってしまったことが、どうしようもなく情けなかった。


「いつまで、自分の夢から目をそらすつもりなんだ俺は……!」

 十年前に登録証を受け取ったあの日だけは、たしかに胸のどこかで“探索者になる”と信じていた。


 けれど、気づけば「安定」という言い訳に逃げ続け、一歩も踏み出せずにいたのだ。


 特典を得るには、ギルドに行き、ダンジョンに一度入場する必要がある。


(売って生活を安定させる。それもひとつの選択だ。でも……その前に、一度くらい挑戦してみてもいいんじゃないか?)


 胸の鼓動がやけに速い。


 怖い。


 それでも、怖さをごまかすようにアキラはわざと口角を上げた。


「……ま、どうせ行くならさ。ついでに配信なんかもしたほうが効率いいよな!」

 ひとりごとのように呟きながら、スマホを握る手が小刻みに震えているのがわかる。


「大丈夫、大丈夫。出来るって……! みんな普通にやってるじゃないか……!」

 声に出さないと、心が折れそうだった。


 彼は震える手でスマホの検索窓に「ダンジョン配信 やり方」と打ち込む。


 ――それが、彼の運命を変える、第一歩だったのだ。



 ◆◆◆



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 メモ

 ダンジョン民間開放当初、探索者は不足しており、国は民間従事者の誘致を目的として、初期登録者に特定の優遇特典を付与した。


 その後、Dライブを始めとするダンジョン配信の人気が高まるにつれて、民間探索者が急増。これにより、新規登録者への優遇特典の付与は停止される事となった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。