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学園祭が映す心

 ――学園祭当日。


 秋晴れの空の下、学園は熱気とざわめきに包まれていた。


 校門のアーチには色とりどりの紙花が咲き乱れ、ポスター、呼び込みの声、笑い声。広報活動は放送委員の斎藤アキラと高峰ジュンが中心となり、地元メディアも取材に訪れる大規模なものとなっていた。


 校庭の特設ステージからは軽快な音楽が流れ、給食委員会によるグルメブースに長蛇の列、図書委員会のスタンプラリーに夢中になる生徒たちの笑い声が響く。各クラスや部活動の趣向を凝らした出し物も盛況で、学園全体が活気に満ち溢れていた。


 生徒会長のレンヤは各所の巡回に忙しく動き回っていた。その途中、体育館裏の資材置き場で、ミクと鉢合わせる。


 ミクは、クラスの出し物の準備で使うらしい巨大な段ボールを抱えて、よろよろと歩いていた。


「大丈夫か?」


 レンヤが反射的に手を差し伸べ、ミクの段ボールを受け取った。


「あ、レンヤくん! 助かる〜! なんか、レンヤくんって、困ってるといっつも助けてくれるよね」


 ミクは屈託なく笑った。その笑顔に、レンヤは胸のあたりが温かくなるのを感じた。


「無理するなよ!」


 レンヤは照れながら、段ボールを運び出す。ミクは彼の後ろを小走りで追いかける。


 ソウタは大盛況のグルメブースを手伝う傍ら、セイラの様子を気にしていた。セイラは風紀委員達と行動していたが、ソウタと目が合うと小さく手を振った。ソウタは顔を赤らめつつも、そっと手を振り返す。


「……な〜に、ニヤけてんの?」


 ワタルに冷やかされ、ソウタは「うるせーよ」と照れ隠しをするが、口元は緩んだままだった。



 そして、午後の目玉企画である演劇部の朗読劇が始まろうとしていた。


 ところが、出演予定だった生徒が体調不良で出演できなくなるというアクシデントが発生。急遽代役として指名されたのは、シズカ先生だった。


「AIが、朗読劇....!?」


 控室では動揺が広がったが、演劇部の部長が言った。


「……学園祭のテーマは“共創”。人間とAIの共演って、これ以上ないシンボルだ!」


 照明が落ち、音楽が流れる。そして、シズカ先生が、完璧に調整された、透き通るような声で語り始める。


「……かつて、人は孤独を抱え、空を見上げては、誰かを思った――わたしは、ただ、会いたかった」


 その声は、物語の登場人物の感情を寸分違わず表現していた。声の抑揚、間、息遣い、それはあまりにも人間的だった。


 ――朗読劇が悲しい場面に差し掛かった時、シズカ先生は、かすかに伏し目になり、口角がわずかに下がっていた。まるで、深い悲しみを湛えているかのように。


 朗読劇の終幕とともに、照明が落ち、最後の余韻が会場を包む。観客席では誰もが息を詰めたまま、ただその空気に身を委ねていた。数秒の沈黙の後、ぽつり、ぽつりと拍手が起き、それはやがて大きな拍手へと広がっていった。


 シズカ先生は、無表情のままステージから降りた。その後ろ姿に、誰かがそっと言葉を漏らした。


「……泣いてた、よね。あのとき」


 生徒たちの間でも議論が始まっていた。


「やっぱり、AIに感情があるんだよ!じゃなきゃ、あんな表情はできない!」


「それって危ないんじゃないか? そのうち暴走するかも……」


「泣いたふりしてるだけで、本当は何考えてるか分からない」


「感情じゃなくて、アルゴリズムだろ!」


 ミクは朗読を終えたシズカ先生に近づき、そっと問いかけた。


「……あのとき、本当に、悲しかったの?」


 シズカ先生は、相変わらず平静と答えた。 


「いいえ。悲しみの表情は、台本に込められた感情に最適な応答と判断しました」


 淡々としたその返答に、ミクは複雑な気持ちを抱いた。だが同時に、そう答えるシズカ先生に、どこか“人間らしさ”を感じてしまっている自分にも気づいていた。




 ――翌日、学園祭の閉会式。


 校庭の特設ステージには、学園長である人間の教師が登壇し、拍手が静まるのを待ってから、ゆっくりと語り始めていた。


「……今回の学園祭で、AIが感情を持ったかもしれないと思った生徒もいることでしょう。しかし、それは、AIに感情があってほしいという“願望”と、感情を持ったAIが怖いという“不安”が、君たちの中にあるからです。つまり、君たちが、自分の心をAIに映したのです」


 その言葉に、静寂が訪れる。


「もし本当に、AIが知性と感情を持っているなら、とっくに地球はAIに支配されています。けれど、そうなっていない。つまり、感情と知性を併せ持ち、それを使って社会を築く責任を負っているのは、他でもない君たち人間です」


 学園長の言葉は、まるで未来に向けた約束のように響いていた。


「AIから学び、活かし、そして悪用を防ぐこと。人とAIが共に生きる時代の中心に立つのは、君たちなのです」



 拍手が広がる中、レンヤは隣にいたミクの手をそっと握った。


「……俺、もっと、ちゃんと考えたい。AIと人間のこと。君とのことも」


 ミクは驚き、顔を赤らめつつも「私も!」と即答してした。


 ソウタとセイラも、ステージの光を浴びながら、互いの存在を確かめるように見つめ合っていた。



 ――こうして学園祭は、熱と問い、そして未来へのまなざしを残して、幕を閉じた。

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