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サハル・ルンジーエ  作者: 在原白珪
第2章
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4話1 西の森

「だから、家庭訪問なんて来ないでよ」

 放課後、にぎやかな教室で私はヒイルに睨まれる。血のような赤い目にはまだ慣れることがなく、遠ざかろうとしてしまいそうだ。教卓を隠れて掴んで、何とか距離を保って踏ん張る。

「いえ、女王さまからのご提案ですし……」

「提案なんて知らないよ。それよりも、弱い先生が危ない目に遭う方が女王さまも困るんじゃないの? ねえ、蒼空」

 魔法が使えない人間の私を、ヒイルは弱いと思っているらしい。それには頷くしかないんだけど、ここで引き下がる訳にはいかない。そこでヒイルは、私が女王さまの名前を出したのに対抗して、王子である蒼空を呼ぶ。しかし、蒼空は臆病な意見をしない王子さまだ。

「危ないのなら、猪目に加えて皆で守りながら行けば良いのではないか?」

 曇りない蒼空の瞳を眩しがるように、予定外の攻撃を受けたヒイルは半目になる。

「は? 皆だって弱いよ。最年長の薊でも魔法の扱いは雑だし、汐や五月雨みたいなちっちゃいのなんて先生より弱いかも」

「薊は周りのことによく気がつくし、汐は活発、五月雨の魔力は大きい。皆、頼りになるだろう」

 蒼空は平然と三人を褒めて、私に代わってこう決めた。

「では、有志の者を募ってヒイルの家に遊びに行こう!」

 ……王子さまは遊びに行きたかったらしい。ヒイルは自ら立てた作戦に失敗した。


 不機嫌なヒイルを案内役に、私、猪目さんについてきたのは、第三王子の蒼空、活発な最年少の汐、農村育ちのせきれい。そして人見知りの夜鷹がヒイルに手を掴まれて一緒に歩いている。銀色の空を羽や箒で飛ばないのは、上空にはヒイルの師匠が仕掛けた罠があるからだという。ヒイルが一人で通るなら難なく避けられるけど、初めて通る妖精はだいたい引っかかって地面に叩きつけられるらしい。これから会いに行く師匠の防犯意識が高すぎるのか、他に何か意図があるのかは分からない。西の森は午前なのに暗くて、じめじめしていて、たまにフクロウや虫の声がよく響いて聞こえる。

「あの……、何で俺……暗いの苦手……っなんだけど……」

 夜鷹の声はフクロウよりも覇気がない。空中競技の試合のときより怯えている。

「後ろのうるさい奴らの相手をしてもらおうと思って」

「それ、俺じゃなくても……」

「ボクにとってはどうでもいい。できなくはないでしょ?」

 夜鷹は、だんだん塾の皆には慣れてきていても、自分に自信のない性格には変わりないから、人を見る仕事は向いてなさそう。ヒイルはそんな夜鷹のことを気に入っているんだろうけど、それが伝わるような言葉をかけない。夜鷹の方は、今回みたいにヒイルに困る場面がたまにあっても、そこまで危険なことをしてくるのでもないし、むしろ勉強を教えてくれたり、傍にいてくれたりするのは嫌じゃないみたい。

「ん? 気にしなくても大丈夫さ。何が出ても俺がみんな守ってやるからな」

 猪目さんは頼もしいけど、二人の面倒な関係性を分かっていない。

「静かな森だが、何が出るんだ?」

 蒼空が尋ねる。

「熊や蛇が出そうだな」

「熊は出ないよ」

 ヒイルが振り向かないまま猪目さんを訂正する。

「大きい動物は出ない代わりに、ここにしかいない毒のある虫や蛇が出る。だから師匠も地面には罠を仕掛けないんだ。ほっといてもそいつらに刺されて動けなくなるから」

「「「「「「え!?」」」」」」

 私たちは驚いて足を止める。猪目さんが慌てて私と蒼空の足や背中に毒虫がついていないか探し始める。

 ヒイルが振り向いて鼻で笑う。

「大丈夫、ボクの魔力はあいつらも覚えてるから、一緒にいれば刺されることはないよ」

 私たちは胸をなでおろす。

「驚かさないでよ~!」

 汐が後ろから文句を叫ぶ。

「あ、そう? じゃあ勝手にはぐれて虫に刺されてれば?」

「人でなし!」

 汐はあっさりヒイルに負けて、腹いせに舌を出す。入塾のときから仲が改善してはいないみたいだ。お互い楽に接することができるようになればいいんだけど……。ともかく、皆がいるおかげで静かな森をにぎやかに歩くことができた。

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