87 噂の魔術師3
エカードの町の防護壁設置も今日で片付いた。
ぐるりと頑丈な壁に囲まれ町の人もこれで少しは安心できるだろう。
私はベンとザックにこの町で農業に詳しい人がいないか探すように頼んでいた。最悪は砦の向こうから連れてくるしかないが出来ればこの町の人の方が土地の事情にも詳しくて仕事がしやすいだろう。
昼食を取るためにベン達をつれ町のバザールへ向かった。もちろん美味しい串肉は絶対だ。パフが自分のぶんも買うように催促してくる。もちろん可愛いから買うよ。
彼らの家で待つ子どもたちの分も買い、他にもいくつか食べ物を買って彼らの家に向かった。
初めてこの町に来たときに追いかけて行った建物の中庭へ行くと、小さい子を交え三人の孤児がベンたちを見ると喜んで駆け寄った。
「今日はロージーさんと一緒だぞ。大人しくしろよ」
年長だからちゃんとしなくてはと思ったのかベンが私をロージーさんと呼び始めた。
子供達を並べ順番に食べ物を渡していく。
「今日もご飯が食べられる!」
「最近毎日食べられるね」
小さい子達が嬉しそうに笑った。
「働けるようになったからな。これからはちゃんと留守番してれば食べられるからな」
ザックがそう言ったが私は首を横にふった。
「駄目よ、留守番だけじゃご飯は食べられない。まだ畑が出来ないからそれまではお勉強しなくちゃ給料は出せないわ。小さい子も一緒よ」
ヒューがあからさまに嫌な顔をした。
「お勉強って何するの?」
「もちろん字を覚えたり計算をしたりするのよ」
皆がうへぇって可愛い顔をする。
「畑で働ければ字が読めなくてもいいよ」
ザックは遠慮するかのように首をふる。
「駄目よ、私に報告書を書いてもらわなくてはいけませんからね」
「報告書?」
ベンが聞き返す。
「そうよ、私がずっとここに住めればいいけどそうじゃないから手紙を届けてほしいの。今日は何をしたか、明日は何をするのか。それから大人になった時、どうなっていたいか。字を覚えたら色々と出来ることも増えるわ」
ずっとここの畑で働かない子も出てくるだろう。その時に文字が書けて計算ができれば何をするにしても少しは役に立つ。
皆でご飯を食べながら楽しそうに子供達が話すのを見ていた。畑が上手く行けば他の大人達も働く場所ができるだろう。東地区のマルギット村の畑は経験者のジョシュとフェリシーがいるから安心だけどここにも大人の手が必要だ。町から離れた畑にも魔物から皆を守る護衛が必要だろう。防護壁は造れるがそれだけじゃ駄目だ。
子供達と話していると突然パフがピクリと反応した。
「ポッポ」(誰か来るぞ)
フードを被り立ち上がって振り返るとベンも中庭の入口の方を見ながら立ち上がった。
「誰か来るのか?」
騒いでいた子達も黙ると素早く建物の中へ入っていった。
薄暗い入り口から二つの影が見えこちらへやって来る。私はベンの前にいたが彼は私を庇うように前に出ようとした。
「駄目、後ろにいて」
私は彼を手で制した。きっといつもは下の子達をこうやって庇っているのだろう。
「まぁ、合格か」
明るい中庭へ入ってきた二人の男は冒険者の出で立ちで、ベンをじっと見た。
「誰だよ」
ベンが警戒しながら言う。
「噂くらい聞いてるだろう、ワシはバナンだ。戦士になる子供を探してる」
白髪頭の年嵩の男が言った。年の割にガッシリした体型だ。
「バナンってタイラーの……」
思わず声に出してしまい慌てて口をつぐんだ。
「アイツもけっこう有名になったな、そうだ、勇者タイラーを育てたバナンさ」
若い男が私を見てニヤリとした。
「勇者タイラー!!そうか、話に聞いてたバナンってあんたか?」
ベンが私の手を押し退け前に出る。
「オレが戦士になれるのか?」
「体格がいいデカくなれる奴を探してる。根性が座ってりゃ十分だ。来るか?」
確かにベンは年齢の割に背が高くしっかりした体つきだ。
「行く!」
二つ返事で答えるベンの腕を掴んで引き戻した。
「待って、そんなに大事な事を簡単に決めないで」
引き止める私を見てバナンが顔をしかめる。
「孤児じゃないのか?家族がいるやつは引き取らん。後でうるさいからな」
「オレは孤児だ」
ベンが慌てて答えた。
「待ってベン、戦士になるのはきっと簡単じゃないわ」
「わかってる、だけどロージーさんがここに来るまではオレは戦士になりたかった。いっぱい稼いでアイツらに飯を毎日食わせてやりたかった」
「私といれば毎日食べれるわ」
ベンの体をこちらに向けてかがむと彼の目を真っ直ぐに見た。
「わざわざ危ない方を選ばなくてもいい」
ベンは少し迷っているようだった。
「だけど、まだ畑も無いし話がなかなか進まない。駄目になったらアイツらまた飢えて死んでしまう。けどオレだけでもバナンのところに行ければ何とか稼げる、そうだよな」
バナンの隣にいた若い男がコクリと頷く。
「あぁ、訓練の合間に魔物を狩りに行くから少しは小遣いが手に入る。食事はこっちで出すからそれを好きに使えばいい」
「後で費用は全部返さなきゃいけないのよ。借金なのよ」
「それで構わない」
ベンは私の手を握り頭を下げた。
「アイツらを頼みます。オレは戦士になる」
そこまで言われればもう口出しのしようがない。私は彼となんの契約も結んでないのだから。
「ゲイル、先に連れて行ってろ」
バナンはベンをすぐに連れ出そうとした。すると建物から様子を見ていた子供達がバラバラと出てきた。
「ベン、行っちゃうの?いつ帰るの?」
小さい子が意味がわからず戸惑っている。
「あぁ、金を送るから大丈夫だ」
「オレも行く!」
ザックがそう言ったがベンは首を横に振る。
「お前は残ってこいつらの世話を頼む」
ザックは細身で小さめの子だ。戦士には向かないだろう。
子供達を引き連れベンが連れて行かれた。静まり帰った中庭からなんとも言えない気持ちで彼ら見送っていた。
「いくらチビでも自分の事を自分で決める方が納得して生きていける」
バナンがそう言いながら私を探るように見た。
「あんたロージーって言ったな。ゾルガーの娘か?」
「ポッポ」(下がれロージー!!)
パフが私の前に飛び出し警戒を強めた。私も身構える。
「まぁそう興奮するな、話通り鳩を連れてるのか。確かに笑えるな」
クックックッと体を揺らしニヤリと笑ったその顔は何故かタイラーに似ている気がした。
バナンはどうやらタイラーと連絡を取っているらしい。私のことも知っているということは彼の仲間なんだろう。
それでもパフは警戒をあまり緩めず私の肩に止まった。
「まさか最近孤児を集めてる奴がいると聞いたがそれがアンタだったとはな。あぁ、ワシは口が悪いが気にするな」
彼は時々戦士になれそうな孤児を探す為に旅をするらしいがその中で私の噂を耳にしたらしい。
「あなたを真似ようとしたわけじゃないんだけど、戦士になれない孤児の居場所も必要でしょう?私は何も出来ないけど働ける場所を作ってあげられたらと思って」
「ま、ワシの邪魔をしないなら結構。来るかどうかは本人が決める。だがここはまだのんびり野菜植えたり出来ないんじゃないか?もうすぐ戦争が始まる」
「え?でもオスロワスはもっと南で動きがあるって……」
確か王都の西が騒がしいと言っていた気がする。
「情報はそこから流れてくるが実際に攻め込んで来れるのはこの辺りだろう。あんたも早く引き上げたほうがいい。タイラーから逃げてきたらしいが見ちまったからな、一応報告させてもらう」
「別にタイラーから逃げたわけじゃ、あ……」
でもここにいるとは言ってない。
ネックレスの石に触れながらバナンを見た。
「あの、出来ればここにいることは報告しないで欲しいんですけど……」
「何故だ?」
「えっと、彼はここにいると思っていないので。でもすぐに戻るつもりですから……」
「ってことは奴と連絡を取っているのか?聞いてねぇなぁ……」
バナンはニヤッとした。




